天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2005-08-01から1ヶ月間の記事一覧

塚本邦雄の宇宙

日帰りで大阪に出張した。往復の車中で、数日前に買った現代詩手帖特集版「塚本邦雄の宇宙」を読み耽った。歌壇の総合誌で追悼特集を出しているが、これが最も充実している。 困ったなあと感じたのは、塚本の歌を鑑賞するには、日本の古典、西洋絵画、キリス…

ビルマ戦の形見

靖国神社遊就館の前庭に、ビルマ戦の形見を展示するちいさな硝子ケースがある。 貸借も不義理も一切無しとあり妻に当てたる遺言状は 鉋もて橋桁なんぞ削りけむ泰緬鉄道隊の形見の 六十年経てば展示も力なし軍靴、地下足袋、軍馬の遺品 赤さびの鉄帽にあく弾…

古志九月号

一昨日届いた俳誌「古志」九月号を読んだが、長谷川櫂主宰の巻頭句の内で理解できないものがある。 黴といふもののかそけき音の中 文のつながりからは、黴と音との関係がはっきりしない。どこで切れるのか。「黴といふもの」の次の「の」で軽く切れる、とし…

車窓から見る観世音

ぼんやりとバスを待っていたら、道路を隔てた向かいの家の庭に、百合の花が数本見えた。そのうちのひとつが、風もなさそうなのに、イヤイヤをするように首を振りやまない。変だなと思っているとぽとりと落ちた。 ささゆりの花揺りおとす朝の風 首ふりの常な…

吾妻山

この名称の山は日本にいくつかありそうだ。一番高いのは福島県の吾妻山で二0三五米。次は島根県のもの。ここで取り上げる湘南二宮町の山は、標高一三六米ととても低いが、日本武尊と弟橘媛命にまつわる伝説をふまえている点が興味深い。走水(はしりみず)に…

台風十一号

多摩川の重き濁りや台風来 雨雲や灯またたき台風来 台風来路面流るる町明り 台風来帰りを急ぐ勤め人 台風来裸女の夕刊読みふける

絵馬と麦酒

「ぱぱとままとすめますように」秋風の拝殿横に絵馬かかりたり 缶ビール呑みにし後を掌に缶をつぶすは未練がましも 一缶のビールに酔ひて居眠れり妻の見慣れし韓流ドラマ 缶ビールをマグカップに入れ口あたり楽しむわれら夕暮夫婦 壜ビール冷凍室に冷やせし…

今年の短歌研究新人賞

今年の受賞作は、ドラマの脚本のような構成であった。複数の登場者が五七五七七、の各句を述べるような地の語りに、一行の短歌が入るという構造の繰り返しである。初めの数行ほどをあげる。 麦と砲弾 奥田亡羊 兵士1 ニンゲンは 兵士2 犬に食われてしまう…

原 民喜

終戦後六十年記念のNHK特集で見た映像に、たまたま原 民喜の美しい文章の一節が紹介された。すっかり感心して、さっそくアマゾン・コムで『原 民喜戦後全小説 上・下』講談社文芸文庫を注文した。到着に二週間ほどかかったので、今読んでいる。 閃光を浴…

フランス山

横浜に本を探しに出たついでに、ひさしぶりに元町、港の見える丘公園方面を歩いた。 元町を歩く度に、三島由紀夫の小説『午後の曳航』を思い出す。高島埠頭をはじめ元町、山下公園、外国人墓地など横浜を代表する景観が、二等航海士塚崎竜二と未亡人房子の恋…

久里浜・花の国

バスがゆく尻こすり坂蝉しぐれ 片蔭に若き白猫身ごもれる 夏帽子ゴジラの胎に入りゆけり 秋風やゴジラの胎をくぐり抜け 太陽の衰へすすむ八月の風に吹かるるキバナコスモス 丈ひくき苗に咲き初むコスモスの花にやさしき谷戸の風ふく 熱き日を今年も耐へて咆…

神道無念流練兵館

江戸末期、現在の靖国神社境内には神道無念流練兵館があった。それまで俎橋付近にあった練兵館が、天保九年(1838年)の火事で焼失したため、この地に再建され、その後約30年間隆盛を誇った。斎藤弥九郎の時代には、高杉晋作、桂小五郎、品川弥二郎など幕末…

蝉の骸

靖国神社境内の木立では相変わらず蝉しぐれが盛んだが、 地面のそこここに蝉の骸が目立ち始めた。 鎮魂碑耳を聾する蝉の声 夏痩せの鴉は不気味見つめあふ 木漏れ陽やひぐらし生を終へて落つ そこここに蝉のむくろや陽衰ふ 泥被り水面に跳ぬる鯉なれば鱗につ…

現代俳句

通勤の車中でまだ岩波文庫版高浜虚子選『子規句集』を読み続けているが、同時に俳句月刊誌で現代俳句にも目を通している。それにつけても、子規の時代からずいぶん進歩したものという感じを抱く。子規の句が幼く見えるのである。 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺…

地震に会う

今日で短い夏休みが終る。特に行くあての無い日は、江ノ電の一日乗車券を買って極楽寺に行き、そこから長谷寺あたりを歩くのが、定番の吟行コースである。 極楽寺の庭には鬱蒼と百日紅が咲いていた。 山門をあかるくしたる芙蓉かな その下は赤き浄土や百日紅…

義経の首

関ヶ原で首塚を見たせいか、義経の首を祀ってある藤沢の白旗神社にまた行ってみたくなった。もののふの世では、将兵の首級は賞与をもらうための証拠品であり、首実験は戦目付の重要な仕事であった。首をとられた胴体は打ち捨てられ土地の百姓達の処置にまか…

滝口寺

今日の産経歌壇、小島ゆかり選に次の歌が入っていた。 風船の紐の束もちたたづめる乙女は空に消ゆべきものを これは、7月3日に「みなとみらい」で詠んだものである。 11日,12日、13日の歌紀行は、少し手直ししておいた。 暑いさなかの旅行にはさす…

蓬莱橋

JR東海道線・島田駅から蓬莱橋までは、タクシーでほぼワンメータの距離である。 橋の往復料金は百円。橋の入り口に吉田弦二郎の句碑「しくれけり暮るるもあはれ大井川」、また、つぎのように読める石原純の詩碑がある。 〃 五百五十米のながい木橋がゆらゆ…

関ヶ原

日本海からの風の通り道である関ヶ原は、天候が変わりやすい。今は家が立ち並んでいるので往事をしのぶ風景は無さそうである。 むくげ咲く東首塚関ヶ原 蝉しぐれ首検(あらた)めし陣の跡 夏逝くや陣場野跡ににはか雨 覗き込む首洗の井の底深く油うかべて水…

鵜飼

新横浜に行く電車の中、吊り広告から、暇にまかせて。 秋立ちて競輪場に風を巻く北条早雲杯争奪戦 大胆不敵もしも英語を話せたら自由自在にネットサーフィン 丸文字を白抜きにせる「灯台」は「ゆらぐ友達関係」特集 禁断の肌をハワイにさらしたる若き女優の…

竹山 広

ずいぶん時間がかかったが、竹山 広「全歌集」を読み終えた。枕元において眠る前に読むのだから時間がかかるのは当然だが。竹山は「心の花」所属で、長崎原爆の被爆者であり、現在八十五歳。原爆体験を詠んだ歌集『とこしへの川』が歌壇に衝撃を与えたことは…

街宣車

「右翼」には、正統派、行動派、新右翼、民族派など各種あるらしいが、街宣車で騒音を撒き散らす連中には辟易する。今日も靖国神社境内に大挙して右翼のバスやトラックが集結していた。しかし、そのメンバーたるや体力のありそう者はほとんど見当たらない。…

岡井 隆

岡井 隆の最近の歌集二冊『E/T』、『馴鹿(トナカイ)時代今か來向かふ』を読んだ。彼の歌は、意味や背景を読み取ろうとすると大方は難しくてお手上げになる。韻律、技法を楽しむつもりで読むのがよい。どれでもいいが任意にひいてみる。 言葉あつく鯖を煮…

ぼんぼり祭

今年も鎌倉八幡宮で八月六日からぼんぼり祭が始まった。以前、 点灯時分に訪れたことがあるが、最近はとてもそれだけの元気がない。 それで今年は炎天の昼間に出かけた。文人墨客政治家の手書きになる 献灯を見てまわる。朝丘雪路、清水基吉、扇千景、石原慎…

亡国のイージス

長ければ途中で止めし小説の「亡国のイージス」映像に見る 三十分待ちて始まる映像にうつつのうさを忘れむとする 炎熱の山野にゆくを見合はせて映画館に入る涼しかりけり ひさびさに入る映画館客席の狭さをなげく八月六日 国のため思ひて政府を恫喝すイージ…

朝顔

みんみんの声の下なる昼餉かな 朝顔の大輪浮かぶ洗面器 大輪の朝顔盆にうつぶせる 水盆に朝顔満つる空の色 朝顔や盆に広がる色四つ 朝顔や大輪ひとつ押花に 鯉たちの寿命思へり水の秋

蕪村と子規

正岡子規の句集(岩波文庫)を読んでいるが、与謝蕪村の 影響を強く感じる。子規は芭蕉より蕪村を高く評価したので 当然のことかもしれない。例えば、初句切れに例をとると、 蕪村の句 しら梅や北野の茶店(ちゃや)にすまひ取 春雨やものがたりゆく蓑と傘 …

将兵の遺言

靖国神社の斎庭門前左手には週なのか月替わりで、将兵の遺言が 書き出されている。今日は以下の掲載を見かけた。 明治天皇御製(神祇歌)明治三十七年 神がきに 朝まゐりして いのるかな 国と民との やすからむ世を 生後三ヶ月の息子への遺訓 陸軍中佐・沼田…

戦跡の石

靖国神社の境内は隈なく見て回って知っているつもりだったが、 今日の昼休みに来て初めて気付いたものがある。 <慰霊の泉>の縁に置かれた南方戦線の島々から持ち帰った石である。 コレヒドール、グアム、ウェーク、ブーゲンビル、沖縄、レエテなど 激戦が…