天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

とうふ坂

丹沢山塊の端に立つ大山は、古来、信仰の対象であった。麓の参道沿いには、数多くの宿が今でも残っている。バスが開通してから新参道ができたが、旧参道に往時の面影を見ることができる。大山には何度となく登ったが、今回はじめて旧参道をたどってみた。バ…

紫苑

シオンはキク科の多年草。茎は直立して2メートルほどの高さに揃って群生する。アジア北東部の草原、西日本に広く分布する。鬼の醜草(しこぐさ)、のし、しおに などの呼称もある。秋の季語。 丈たかく紫苑の花のさける見て日の余光ある 坂くだりゆく 佐藤…

蓼(たで)

タデ科の一年草。夏から秋に細長い花穂をだし、赤味を帯びた小花をつける。紅蓼の芽は刺身のつまに用いる。 たでの花ゆふべの風にゆられをり人の憂は 人のものなる 佐佐木信綱 わが歩む小野のうへにて蓼の花咲くべくなりぬ 夏をはりけり 斉藤茂吉 白々と蓼の…

秋のズーラシア

秋風が吹く頃になると週日の動物園は、幼稚園児たちの列でにぎわう。幼稚園ごとに同じ服装をしていて身体の大きさも同じようなものだから、豆粒が並んで歩いているようで、どこかユーモラス。ただ、話している内容にはギョッとすることもある。 手をつなぎ二…

勿忘草

ワスレナグサ。ムラサキ科の秋まき一年草。欧州、アジア原産。花は先が五裂し、淡紅色からコバルト色になる。 仏蘭西のみやび少女がさしかざす勿忘草の 空いろの花 北原白秋 此の園はいたく荒れたり穂に立てる勿忘草の 種子を採りて去る 土屋文明 水いろに咲…

班猫

はんみょう。ハンミョウ科の甲虫。人の歩く先へ先へと飛ぶので別名、道おしえ。 爆死子の墓班猫の行きどまり 下村ひろし みちをしへ富士には隠れ道はなし 平畑静塔 道をしへ岬の鼻に出てゐたり 塩川雄三 わらわらと班猫のたつ雨後の土秋めきてあらき光と思ふ…

鶏頭

トサカケイトウともいう。熱帯アジア原産のヒユ科一年草。鶏冠状の花序の色には、よく見かける赤以外にも黄、白、桃などがある。紛らわしいものに、インド原産、ヒユ科一年草の葉鶏頭がある。鎌柄(かまつか)、雁来紅(がんらいこう) などの呼び名がある。…

沢瀉

おもだか。水田や浅い池にはえるオモダカ科の多年草で、やじり形の柄の長い葉が特徴。秋にかけて白色三弁の花をつける。日本全土、東南アジアに分布。 鷺に似てひと花すいと水をぬく青藺のなかの おもだかの花 佐佐木信綱 五月雨の築地くづれし鳥羽殿のいぬ…

キバナコスモス

コスモスはもともとメキシコ原産のキク科の一年草。キバナコスモスも別種ながらメキシコ原産の一年草である。神奈川県二宮町吾妻山の山頂の畑では、通常のコスモスはみな引き抜かれて枯れていた。ところどころにキバナコスモスの群が黄金色の眩しい花をつけ…

吾亦紅

ワレモコウ。日当りのよい山地にはえるバラ科の多年草。夏から秋にかけて枝先に暗赤色卵形の花穂をつける。漢字では、吾亦紅、我毛香、吾木香、地楡 などと書く。 夕暮れてなほ明りける吾木香婚(よば)ふに ひとはつげにけるかも 福田栄一 吾亦紅まばらまば…

河骨

コウホネ。沼にはえるスイレン科の多年生水草。根茎は白くて太い。葉は分厚くつややか。夏季、黄色い鈴のような花が水面に咲く。 火の山に夕日なほあり目の前のかうほねの花 暗くなりつも 川田 順 河骨の固きつぼみの水を抽く青まろまろし家 の瓶にて 千代国…

初秋の箱根湿性花園

箱根湿性花園は、仙石原の湿原にある。日本各地の低地から高山まで点在している湿地帯の植物200種のほか、高山植物1300種が集められている。 とりとめもなき話せり吾亦紅 新婚の箱根の宿や吾亦紅 ケイタイを縦にし写す沢桔梗 湖の風のゆく手や芒原 小田原や…

彼岸花

東海道鉄砲宿の沿道に赤い彼岸花が咲き始めた。彼岸花の色には、赤、黄、白がある。これらを同時に見られる場所として、北鎌倉の円覚寺がある。意識的に植えられたものかどうか不明だが、白色彼岸花が多く目立つ。松嶺院の墓地の隅には、早くも十月桜が咲い…

初秋の湘南平

湘南平は標高179メートルの丘陵で、山頂が平らであるところから、「千畳敷」と呼ばれていた。「湘南平」と命名されたのは戦後である。 JR大磯駅から、旧安田邸の下の道から、楊谷寺(ようこくじ)横穴群の谷をたどり、蝉しぐれがかしましい林の中を歩い…

蝉の歌 ―空蝉―

うつせみ、うつそみ。漢字では、空蝉以外に虚蝉、現身、現身人など。意味は蝉の抜け殻、あるいは蝉、あるいは魂がぬけた虚脱状態の身。源氏物語の巻名にもある。また「うつせみの」は、世、人、かれる身、むなし などに掛かる枕詞になる。 うつせみは数なき…

蝉の歌 ―かなかな―

半翅目セミ科の昆虫。ヒグラシともいう。端翅まで、雄48mm、雌45mm程度。雄の腹部は大きな空洞で共鳴室になる。成虫は6月下旬から8月に発生。北海道南端部から九州にかけて分布。日の出前と日没時、あるいは空が曇ると鳴く。 午前四時過ぎたるとき…

蝉の歌 ―つくつく法師―

半翅目セミ科の昆虫。端翅まで45mm内外、暗黄緑色、黒班がある。成虫は7月下旬から10月に現われる。中国、台湾にも分布する。 つくつくぼふし三面鏡の三面のおくがに 啼きてちひさきひかり 葛原妙子 つくつくほうしひとつに啼けば道たどる 千鳥ケ渕墓…

蝉の歌 ―クマゼミ―

半翅目セミ科の昆虫。端翅まで65mm内外あり、日本産のセミ類の中では最大。太平洋側では東京以西、日本海側では福井県以西に生息。台湾、中国、東南アジアにも分布する。 彼の世より呼び立つるにやこの世にて 引き留むるにや熊蝉の声 吉野秀雄 啼きそろ…

蝉の歌 ―ミンミン―

半翅目セミ科の昆虫。端翅まで62mm内外。黒地に緑紋がるも個体変異が多いらしい。幼虫は約7年間を土中で過ごす。日本の特産種である。 あかつきにみんみん蝉の競ふこゑ今日は 今日する仕事をぞ思ふ 土屋文明 草よ木よ人も従へ黙れよとみんみんいよいよ …

蝉の歌 ―アブラゼミ―

半翅目セミ科の昆虫。端翅まで55mm〜60mm。7月8月頃に地上に出てきて、油を煎るような音で鳴く。幼虫は6年間を地中で過ごし、7年目に地上に出る。わが国全土と朝鮮でも普通に見られる。 油蝉いま鳴きにけり大かぜのなごりの著るき 百日紅の花 斉…

永福寺跡

鎌倉市二階堂にある国指定史跡である。永福寺は、源頼朝が建立した三大寺院の一つで、欧州平定の際に犠牲となった義経や藤原泰衡らの霊を供養するため、中尊寺や毛越寺を参考にして作ったという。二階堂、阿弥陀堂、薬師堂の三堂が中心の伽藍で、それぞえに…

甲虫

コガネムシ科の甲虫。サイカチムシとも。 ひつぱれる糸まつすぐや甲虫 高野素十 たたかへる匂ひはげしき甲虫 飯島蘭風 頭ついて逆さまに這ひゐる六月のこの甲虫が あはれでならぬなり 前川佐美雄 カブト虫白糸長く翔ばせいる無残を知らぬ 幼き声に 武川忠一 …

盆踊り

事典を見ると、原始舞踊に発し、仏教渡来後に盆の儀式として精霊を迎え慰めるために行われ、室町末期からは民衆の娯楽として発達した、という説明がある。 豆の葉の露に月あり野は昼の明るさにして 盆唄のこゑ 太田水穂 ある年の盆の祭に 衣貸さむ踊れと言ひ…

初秋の大山

足腰を鍛えんと相模の大山にゆく。途中の下社までケーブルカーに乗り、二重滝、見晴台から稜線を日向薬師まで歩こうと意気込んだのだが、熊が出るので注意! と貼紙が出ていた。台風の過ぎた後で、落石も目立った。結局、下社から女坂を下って山を下りただけ…

猿橋

岩国の錦帯橋、木曾の桟、甲斐の猿橋 という日本三奇橋のひとつであり、安藤広重が「甲陽猿橋之図」に、十返舎一九が「諸国道中金之草鞋」に書いたように、文人墨客の食指を動かした。そこに行くには、JR中央線の猿橋駅から甲州街道を東に15分ほど歩けばよい…

初秋の江ノ島

突堤の釣りでも秋らしく少し大きめの魚が釣れ始めた。更に秋が深まると、鰯や鯖などが釣れるようになるはず。ただ沖をゆく白いヨットの群は、真夏の陽炎に霞んで見える。 浜にきてショートパンツにむき出しの ま白き脚に虫除けを塗る 江ノ島が陸とつながる引…

小池光のざくろの歌

今年の角川「短歌」八月号の特集「小池光の三冊」に、佐伯裕子が『草の庭』の歌につき鑑賞している。その中に次の作品が出て来る。 柘榴の実うちおとしたる露人某そののち 哭(な)きしことうたがはず 佐伯は、この露人について、「下敷きになるエピソードが…

初秋の吾妻山

神奈川県二宮町にある標高136メートルの吾妻山には、秋が来ている。山頂にはコスモスが満開であり、森のいたるところでいろいろな蝉がいっせいに鳴いている。そして山道のそこここには、生を終えた蝉たちが仰向けにころがっている。 寄る波のテトラポッド…

鈴虫

コオロギ科の昆虫。リーンリーンと鳴く。シーズンの終りには共食いするというから恐ろしい。 鈴虫のいつか遠のく眠りかな 阿部みどり女 一病のあとや鈴虫野へ返す 井上 雪 秋風にこゑよわりゆく鈴虫のつひにはいかが ならむとすらむ 後拾遺集・大江匡衡 しの…

松虫

コオロギ科の昆虫。鳴声はチンチロリン。古くはスズムシを指した。関東地方以西の暖地に分布するという。 松虫や夜風のすさぶ山の樹々 高橋淡路女 秋の野にひとまつ虫の声すなりわれかと行きて いざとぶらはむ 古今集・読人しらず あともなき庭の浅茅にむす…