天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

虹(3)

日本語の虹の方言には、鍋づる(佐渡島、愛知県など)、地獄のお釜のつる(富山県射水市)、太鼓橋(大分県)、立ちもん(長崎県南高来郡)などの例があるらしい。中国では、虹を蛇や竜の一種と見なす風習があったという。 東塔に時雨の虹の裾曳けばほとほと…

虹(2)

虹は水滴がプリズムの働きをして、太陽の光を反射・屈折して生じる。内側から紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の七色になる。 最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片 斎藤茂吉 船がたてる舳先のしぶき高々ししきりに虹のかかりては消ゆ 石榑千亦 出…

虹(1)

水滴が空中に飛散している状態に太陽光があたる時に虹が現れる。朝虹は西に、夕虹は東に立つ。詩歌では虹を橋に見立てることが多い。滝や噴水の周辺にも見る。「のじ」は上代東国方言。 伊香保ろの八尺(やさか)の堰塞(ゐで)に立つ虹の現 (あらは)ろまでもさ…

彼岸花

山野に彼岸花が目立ちはじめた。彼岸花(曼珠沙華、死人花などとも)を詠んだ短歌については、過去にこのブログでとり上げているので、ここでは俳句作品をご紹介する。調べていて気付くのは、俳人は彼岸花より、圧倒的に曼珠沙華の方を好むようだ。 飯田龍太…

神奈川の力石13

川崎市内に新田義貞ゆかりの神社があるとは知らなかった。社伝によれば、新田義貞公が延元三年七月二日、越前国藤島で討死の際、その臣亘新左衛門尉早勝が公の差添の名剣と七ツ入子の名鏡及び錦の陣羽織の三種の品を得てこの地に携えて帰り、ひたすら冥福を…

水引草(続)

タデ科の多年草。枝が「水引」に似る。白い花のものを「銀水引」、紅白まじりのものを「御所水引」と呼ぶ。ここまで区別するのは、華道や茶道の場であろうか。 水引草はびこり母をよろこばす 山田みづえ 水引の紅をふやして雨の寺 木内彰志 秋は咲く水引草に…

日本ではじが蜂、足長蜂、蜜蜂、雀蜂、熊蜂 などが一般的だが、世界には約10万種がいるという。アリを除く膜翅目。六足四羽。古くは、「じが蜂」を「すがる」と呼んだ。次の古今集の歌を参照。 すがる鳴く秋の萩原朝たちて旅ゆく人をいつとか待たむ 古今集・…

窓(4)

北鎌倉にある明月院本堂の円窓は印象深い。本堂の表には枯山水庭園、裏手には後庭園と二つの庭園がある。後庭園はハナショウブと紅葉の季節だけ特別公開される(別途庭園の拝観料が500円必要)。通常は非公開で円窓からしか見ることができない。本堂の円窓は…

窓(3)

天窓は建物の天井部分に設置された窓で、採光や換気を目的とする。採光のみの場合は、ガラスや合成樹脂をはめ殺しにした天窓になる。採光と換気の両方の場合は、開閉式天窓がある。 わが眠りひと夜守りゐしガラス窓明方にびつしり汗を 噴きゐる 五喜田正巳 …

窓(2)

日本の竪穴式住居では、採光用と排煙用の開口部があった。これには庇が設けられ、雨が吹き込まないようになっていた。日本家屋の技術が発達すると、障子のような紙を使った採光用の窓が利用されるようになる。 うつせみのわが息息(そくそく)を見むものは窗(…

窓(1)

窓は「目門(まと)」からきている。壁や屋根に穴を開けて室内に外光や空気を入れるようにしたものである。英語圏で窓が象徴するものには、空気、光、知識、理解、意志疎通、意識、精神への出入り口 などがある。ただ日本の詩歌においては、窓があからさまな象…

コロッケ

コロッケという言葉は、フランス語である。茹でたジャガイモを潰したものに具を混ぜ、これを俵型や小判型に丸めたものに、小麦粉、とき卵、パン粉の順で衣をつけ、食用油で揚げる。具には挽肉、蟹肉、野菜などがある。明治後期から日本に拡がった。 常臥の胸…

神奈川の力石12

東京の公園でデング熱が発生してから、蚊に対して敏感になった。特に力石がおいてある神社などは草木に囲まれているところが多いので、心配になる。その一例が以下にあげる日枝神社。腕が数カ所、蚊に刺されてしまった。以来、蚊よけの塗り薬を購入して家に…

鮓(すし)

飯ずし、押しずし、箱ずし、握りずし、巻きずし、馴れずし、ちらしずし、蒸しずし、稲荷ずし など、わが国には様々の鮓が工夫されてきた。漬け込みずしは、夏の時期が早く熟れる。早鮓は、別名一夜鮓とも言い、速成で作ったもの。地方には名物のよく知られた…

飯(2)

麦飯(むぎめし)は、大麦のみ、または大麦と米を混ぜて炊き、飯としたもの。 つつがなく帰れる吾の飯(いひ)食ふを父は火燵(こたつ)に 見てゐたまへり 藤沢古実 顔も手も飯粒(めしつぶ)まみれに食ふさまやこの子は勁(つよ) く生ひたたしめむ 筏井嘉一 黄に濁る…

飯(1)

飯を「いひ」と言う場合、「い」は接頭語で「ひ」は霊力を表す。それは、飯を食べると力になるからである。稲作の歴史は古いが、米だけの飯(白飯)は神に供える尊いものであり、祝祭時に炊かれるものだった。日常的には、粟、稗、麦など米以外の穀物のみを…

日本における稲作は、縄文時代中期から行われ始め、縄文時代晩期から弥生時代早期にかけて、大々的に水稲栽培が行われるようになった。古くは「よね」と言った。また「米」の文字の形から「八木」とも言った。稲の籾殻を取り去ったものが「玄米」であり、精…

泥の歌

泥とは水が混じって柔らかな土と定義されている。「ひぢ」はドロの古語。「ひぢ」に接頭語の「こ」がついて「泥(こひぢ)」と言うことも。これは恋路のかけことばとして使われる。他の言葉と結びついて負のイメージを与えることがある。泥棒、泥仕合、泥田、…

土の歌

砂が極細粒になり水分で固まったものが土であり、乾くともろく崩れやすい。土には、地(地面、大地)の意味もあり、歌に多く詠まれているが、ここでは土壌の意味で詠われた例を取りあげる。和歌では、独特の色を持つ土がよく詠まれている。埴は赤土(赤黄色…

神奈川の力石11

神社の境内に植えられている樹木は、庶民の祈願することに関係したものが多い。不老長寿ということでは、楠の大木・古木、夫婦円満・子宝といったことでは、夫婦杉や夫婦銀杏といった具合。それを実感したのが笠のぎ稲荷であった。 [諏訪神社]横浜市港北区…

砂の歌(4)

砂の集合には別の名前が付くことがある。砂漠、砂丘、砂塵 など。 限りなくうち捨てられし砂漠(デザート)に夕日流るれば わが如くにて 中河幹子 恍として沙漠を馳る 炎熱に透明となりわれは運ばる 森村浅香 おのずから風あつまりて日のくれの砂嘴(しやし)洗…

砂の歌(3)

砂が喚起するイメージあるいは象徴するものには、もろさやはかなさがある。砂上の楼閣が典型。また「砂を噛むような」という比喩で、味気なさ・不愉快さを表す。ところが英文学の世界では、不毛・徒労、不安定といった負のイメージもあるが、希望・忍耐・勇…

砂の歌(2)

砂は粒径が2〜1/16mm (62.5μm) の石の粒子を指す。大きくは、粗砂(2〜0.2mm)と細砂(0.2〜0.02mm)に分ける。細分類では、名称のみをあげると、極粗粒砂、粗粒砂、中粒砂、細粒砂、極細粒砂 となる。 砂の上の文字は浪が消しゆきぬこのかなしみは誰か消す…

砂の歌(1)

石を詠んだ歌を取りあげているが、では砂の歌はどうか。調べてみるとかなり多い。石と同様、身近にあるので当然か。 真砂(まさご)は砂の歌語。すなご、いさごも同じ。「沙(まさご)」は細砂とも書き、こまかい砂をさす。「浜の真砂」の形でよく詠まれた。 八…

神奈川の力石10

今回は力石を見つけられなかった場合をあげる。白瀧不動尊では、所定の力石を見つけることが出来なかった。また本郷台の地蔵堂は、地元の人たちに聞いてもその場所を知らなかった。 [白瀧不動尊]横浜市中区・根岸 滝に沿ひ石段のぼる不動堂 霧雨に野良猫濡…

ノウゼンカズラ

中国原産のノウゼンカズラ科のつる性落葉樹。莖から出る付着根で他物にからみついて登る。落葉後から早春までに一年、枝をさし木するか根伏せでふやす。有毒。 茜色の花を見ると秋の深まりを感じて寂しくなる。それが散り始めるとなおさらである。 過去に何…

山法師の実

山法師はミズキ科の落葉高木で、夏になると小枝に咲く多数の小花に魅せられる。漢名は四照花。花はよく詩歌に詠まれているが、その実はあまり注目されないようである。俳句の例を知らない。短歌では次の一首を見つけたのみ。 花の時より待ちし庭の山法師実は…

石の歌(5)

石自体に注目した歌もある。 千古 人 手ふれざりつる頂の石の破片を思ふにうつくし 佐佐木信綱 われのゐる石をめぐりて行く水の波だつところ夕かげりたり 松村英一 雪の上にあらはに黒き石ひとつ冬を越えたるもののしづけさ 岡部文夫 石の面に腰をおろしてそ…

石の歌(4)

無機質の鉱物として扱うことで、他のものを際立たせる効果が出る。 夕霧に石を投ぐれば谷間より青竹のこゑ澄みて帰りぬ 前登志夫 対岸に組まるる石の限りなく声なきものに茜は激し 安永蕗子 石の蓋おもたき下に入るものを人と思ひきまつぶさに見き 河野愛子 …

石の歌(3)

石材として、塔や仏に形を変える。エジプトのピラミッド、ローマやギリシャの大理石の彫刻など多岐にわたる。詩文では 石の擬人化もある。以下に短歌の例を。 瞬時石割れ 内面匂う鮮しく 歪形なして褐色の紋 加藤克巳 夕いたり石は抒情すほのかにもくれない…