天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

穴のうた(2/2)

穴は比喩に使われることも多く、興味深い内容になる。以下のそれぞれの作品は比喩の多様性を示し、鑑賞するに歯ごたえがある。つまり言葉で歌の意味することを表現するのに汗をかく。 荷車に練炭積みてゆくが見ゆ陽に練炭の穴みなわらふ 沢口芙美 自らを苛む…

穴のうた(1/2)

「穴(あな)」は、孔とも表記するが、辞書を見ると次のように意外に多くの意味がある。 1 反対側まで突き抜けている空間。 2 深くえぐりとられた所。くぼんだ所。 3 損失、欠損、空白、欠点、弱点。 4 他人が気づかない、よい場所や得になる事柄。穴場。 …

ICHI-METER付ボブルヘッド

MLBの各球場の売店には、選手や監督などの「くびふり人形(ボブルヘッド)」が売られている。贔屓の選手や話題の選手のものがよく売れる。最近は、イチローのボブルヘッドが高い人気を博している。特に3000本安打へのカウントダウンが、盛んに報道される…

民主主義

イギリスが国民投票の結果、EUから離脱することが決まった。このプロセスを見るにつけ、下の清水房雄の歌が身に沁みる。離脱派と残留派とが6%程度の僅差しかないのに、多数決という理由で、いずれかに決めてしまう暴挙に唖然とした。叡知の国と思ってい…

夕立

夏の午後に降る激しいにわか雨のことで、雷を伴うことが多い。白雨(はくう)とも。夏の季語。万葉集以来、和歌にも詠まれている。以下では、古典的な作品をあげてみる。 夕立の雨うち降れば春日野の尾花が末(うれ)の白露思ほゆ 万葉集・作者未詳 よられつる野…

長雨(ながめ)

「雨のうた」のシリーズでは、季節を特定しない「雨」という言葉を含む歌をとり上げた。歌が対象とする季節の判断は、「雨」以外の言葉から判断する他はなかった。一方、季節がはっきり分る雨の言葉がある。「春雨」「五月雨」「時雨」などである。これらの…

五月雨

辞書によれば、 陰暦5月ごろに降りつづく長雨。梅雨。つゆ。さつきあめ。などとある。「さみだれ」の語源としては、「さ」は五月(さつき) などの「さ」、「みだれ」は水垂(みだれ) との説がある。 面白いことに、万葉集には一首も詠まれていない。古今集で2…

蘇芳

スオウは東南アジア、インドなどに生育する。わが国には古く中国から渡来した。マメ科の低木。枝にとげがあり、黄色の花が咲く。材質がかたいので、上代には弓に使われた。また赤色の染色用とされた。正倉院には薬物として保存され、また、これで染められた…

雨のうた(11)

高橋順子(文)・佐藤秀明(写真)『雨の名前』という本が手元にある。この本は、日本における雨の名前がいかに多彩かを示している。日常ではあまり聞き慣れない例を次にあげる。但し歌の例はほとんど無い。 梅若の涙雨: 謡曲「隅田川」の主人公梅若丸の忌…

雨のうた(10)

現在の地上の生物は、太古、海から生まれたとされる。そのせいで水がないと生きられない。陸上の水分は、天からの雨や雪によりもたらされる。その元は海や湖水、河川から蒸発する水分である。 この水の大気循環が、地球の生物を活かしている。こんな理屈を詩…

雨のうた(9)

「雨の色」は詩語である。雨に様々の色があるわけではない。透明でなく本当になんらかの色がついているとしたら、深刻な大気汚染を意味しており、大問題になる。俳句の季語に「つちふる」があるが、これは三月から五月かけて、中国北西部やモンゴルで発生す…

雨のうた(8)

福島泰樹は、安保闘争世代である。闘争時のことを数多く歌に詠んでいる。また「短歌絶叫コンサート」で、感情を込めた力強い声色で朗読会を開催している。台東区下谷の法華宗本門流法昌寺の住職である。 かぎりなき雨の中なる一本の雨すら土を輝きて打つ 山…

最も分り易い現代日本の英雄

イチローがついに日米通算で世界最多安打を達成した。日米通算という点に、賛同しない人達は多い。MLBだけで最多安打を達成したピート・ローズが、典型的である。この状況はよく理解できる。しかし、イチローが英雄であるのは、今回の世界最多安打達成だけで…

雨のうた(7)

高安国世は、リルケを専門とするドイツ文学者。アララギに入会し土屋文明に師事する。リアリズムに基礎を置きながらも、現実には存在しないものを表現の対象に求めるなど、常に新しい表現を求め続けた。ただし、以下の例歌はごく分り易い。短歌結社「塔」を…

雨のうた(6)

以前にも触れたことがあるが、大西民子の作品は実によく短歌の性質に合っているように思う。10年間別居した後に夫と協議離婚したのだが、それも家庭を裏切った夫に非があるのだが、離婚後もなお夫を待ち続ける心情が、どこかに感じられてなんとも切ない。 私…

天才の技を目の当たり

6月13日(現地ペトコパーク)のマイアミ・マーリンズ対サンディエゴ・パドレス戦に、イチローは一番ライトで先発した。そして3安打して、日米通算ヒット数を4255本とし、ピート・ローズの持つメジャー記録4256本にあと1本と迫った。この日の成績は6打席で…

雨のうた(5)

西村陽吉(本名:西村辰五郎)は出版社・東雲堂書店を経営し、石川啄木『一握の砂』『悲しき玩具』、斎藤茂吉『赤光』、北原白秋『桐の花』、若山牧水『別離』など、文学史に残る歌集を出版した人物。歌人としても活躍し、口語短歌の先駆けの一人として知ら…

雨のうた(4)

良寛の歌にある「裳(も)のすそ濡れぬ」は、万葉集の歌(例: 霞立つ天の河原に君待つといゆきかへるに裳の裾ぬれぬ)からの転用である。彼が万葉集に親しんだのは、国上山(くがみやま)にある真言宗国上寺(こくじょうじ)の五合庵に定住して、近隣の村里で托鉢…

雨のうた(3)

風雅集は、第17勅撰和歌集で20巻、総歌数2211首からなる。花園院の監修のもと、光厳院が親撰。2人の上皇が深く関わった、二十一代集の中でも特異な和歌集である。風雅集の前が玉葉集。玉葉集も風雅集も共に清新自然な風体を特色とするが、風雅集においてその…

雨のうた(2)

金槐和歌集(別名:鎌倉右大臣家集)は、周知のように源実朝の家集である。国学者・賀茂真淵に称賛されて以来、斎藤茂吉までもが『万葉調』の歌人と位置付けているが、実際は万葉調の歌よりも古今調・新古今調の歌が多い。藤原定家に和歌を学んだからであろ…

雨のうた(1)

雨(あめ)の語源は、天(あめ)から降る水(みず)なので、「あ」と「み」の組合せ「あみ」から「あめ」と変化したのであろう。漢字の雨は、象形文字。日本ほど雨の種類毎に名前を付けた国は他に無いのではないか。季節に依存した雨だけでも、春雨、菜種梅…

ほろほろ鳥

ホロホロチョウ科の鳥。クジャクに近く、鶏よりも大きい。サハラ以南のアフリカに分布し、草原に群生する。頭部に羽毛はなく、ケラチン質に覆われた骨質の突起がある。また咽頭部には赤や青の肉垂がある。家畜化されたホロホロチョウの羽色は、白、茶色、灰…

豹(ひょう)

食肉目ネコ科ヒョウ属に分類される獣である。イエネコを除くとネコ科の中で最も広く分布しており、その範囲はアフリカから東アジアにまで及ぶ。もっとも個体数が多いのはアフリカヒョウ。夜行性であり、暗闇でも物がよく見えるため夜が狩りの本番である。大…

六月の明月院

世界中で異常気象になっている。アメリカ東南部では連日のように竜巻被害、フランスでは大雨でセーヌ川が氾濫しルーブル美術館が休館になるほど。日本列島はこれから梅雨に入る。震災跡地は厳しい対応を迫られる。こうしたニュースを見て、北鎌倉の明月院に…

夕陽のうた(10/10 )

夕陽に関わる思い出も人さまざまであろう。三枝昂之の歌のような記憶は、凄まじいが、案外似たような残酷な体験を持つ人もあるのではないか。物理的にも心理的にも。 沖に沈む夕陽のいろに染められし楕円の枇杷がひとつ 浮かべり 川戸れい子 夕日さすたたみ…

夕陽のうた(9/10)

前田透の歌にあるチークは、シソ科チーク属の落葉高木の総称。アジアの熱帯モンスーン気候地方に分布する。材質は堅く、伸縮率が小さく、水に強いので、船舶・家具などや建築材として広く使用される。 羚羊(かもしか)は岩をとびたりその細き四肢もて高く 夕…

短歌と俳句の表現様式

周知のように俳句(発句)の源は短歌(和歌)である。その移行の過程において表現様式がどのように変化したかを整理しておきたい。思いきって簡潔に要約すれば、次のようになる。 短歌(和歌) ――→ 俳句(発句) 31文字(57577) 17文字(575) 正述心緒 一…

夕陽のうた(8/10)

山中智恵子の歌にある「たまかぎる」は、枕詞。玉がほのかに輝く意から、「夕」「日」「ほのか」「はろか」「ただ一目」などに、また「磐垣淵 (いはかきふち) 」にもかかる。 前登志夫の歌にある「歳木(としぎ)」は、新年の燃料として、暮れのうちに用意した…

夕陽のうた(7/10)

夕映えには、(1) 夕日を受けて照り輝くこと。(2)夕焼けのこと。(3)夕方の薄明かりに物の姿がくっきり浮かんで見えること。また、その姿。 などの意味がある。 夕陽の情景が喚起する心情は、人それぞれだが、必ずしも寂しいとは限らない。幸福感をもた…

夕陽のうた(6/10)

以下の歌にでてくる言葉をいくつか説明しておこう。夕照(せきしょう)は、夕焼け、夕映え、夕日のこと。生漉(きすき)は、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)だけを用い,他のものを混ぜずに紙を漉くこと。また,その和紙。 たえまなきまばた…