天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

風の詩情(9)

前回の続きである。 *日方(ひかた): 日の方から吹く東風、東南風、西南風。 天霧(あまぎ)らひ日方(ひかた)吹くらし水茎の岡の水門 (みなと)に波立ちわたる 作者未詳『万葉集』 *黒南風(くろはえ): 梅雨入り頃の南風 一連のはだか電球かかげつつ高きに人…

風の詩情(8)

風の吹く方角(風向き)によって名付けられた風も多い。東風(こち)、西、南風(みなみ)、黒南風(くろはえ)、白南風(しらはえ)、北風、朝北、山せの風、日方(ひかた)、あなし 等々。なお、「こちのかへし」は、西風を意味する。 *東風(こち): 東の方から吹い…

MLB3000本安打へ(3)

日本時間7月27日午前、対フィリーズ第二戦に、イチローは五試合ぶりに一番センターで先発した。この日までの4試合はすべてベンチスタートで代打のみ。ヒットは全く出なかった。この日も三打席まで凡打に終った時には、先発してダメな時があるのかと、がっか…

風のうた(7)

一日の時間区分に対応して名付けられた風もある。朝風、あさけの風、夕風、朝凪、夕凪、昼の風などである。 恋ひつつも稲葉かき分け家居れば乏(ともし)くもあらず秋の 夕風 作者未詳『万葉集』 妹に恋ひ寝(い)ねぬ朝(あした)に吹く風は妹にし触ればわれと 触…

風の詩情(6)

ここで少し見方を変えて、吹く場所を意識した風の歌に注目してみよう。 *浜風 もろ人のねがひをみつの濱風にこころ涼しきしでの音かな 慈円『新古今集』 *浦風 さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風にあはれうちそふ波の音かな 肥後『新古今集』 *山風 花さそふ比…

風の詩情(5)

藤原良経は、幼少期から学才をあらわし、漢詩文にすぐれたが、和歌の創作も早熟で、千載集には十代の作が七首とられた。藤原俊成を師とし、従者の定家からも大きな影響を受けた。政治の立場では、後鳥羽院の信任を得て、摂政に任ぜられたが、三十八歳で急死…

風の詩情(4)

一首目の歌は、浮気心を恨む心情を表現している。「いたみ」は「強いので」の意。主体が男か女かは別として、「思はぬ方にたなびいた煙」は相手の心と解釈される。この歌は「伊勢物語」第一一ニ段にとられていて、そこでは男が女の浮気心を詠ったものとして…

風の詩情(3)

六首目の藤原勝臣の歌は、船で旅立つ人との別れをうまく表現している。白波の水脈も見えないほどに遠ざかる船を見送っている。旅だった人の便りは風だけになるという。通釈では、「どこを目指して行けばよいのか、行方も知れぬ恋にとっては、風の便りだけが…

先発してヒット2本MLB2996本

マーリンズはフィラデルフィアへ移動してフィリーズとの四連戦を済ませた。イチローは、三戦まではベンチスタートでヒットなし。四戦目に先発して2安打した。マーリンズは3勝1敗と勝ち星を貯めた。この調子で後半戦を乗り切れば、地区優勝なりワイルド・…

鎌倉扇ガ谷「八坂大神」の力石

鎌倉にある力石は、四日市大学・高島教授の御著書により、すべて見て来たはずだが、先日、高島先生から、あらたに表題の力石のご連絡を頂いた。先生は、ブログ「杜を訪ねて」 http://komainumeguri.blog.fc2.com/blog-entry-2206.html をご覧になった、との…

風の詩情(2)

二首目の歌は、なんともおおらかで微笑ましい。娘が恋している若者を、母に内緒で部屋に通そうとしている場面である。歌の意味は、「 小簾(おす)のすきまから入って通ってください。母が聞いたら、風だよって言いますから。」「玉垂の」は玉に緒を通すところ…

風の詩情(1)

風の語源を調べると、次のような説明がある。「かぜ」の「か」は空気の気、気配の気からきている。「ぜ」は「し」が転じたもの。古事記に風の神・志那都比古神の、「志那(し・な)」には「息が長い」という意味があり、「し」に風の意味がある、という。表…

先発してヒット3本、MLB2994本に

昨日(海の日)のこと。カーディナルス戦で久々に先発したマーリンズのイチローは、3安打して3000本まであと6本とした。イチロー大ファンのエイミーさんは、シアトルから駈けつけていて、試合前にイチローと挨拶を交していた。試合後は、一日で3本のヒット…

月のうた(13)

今回も比喩の歌が多い。比喩は作者の感性によるから、よく理解できる場合とそうでない場合がある。以下の歌で一見難解に見えて易しいのは、田宮朋子の作品であろう。月の夜に見る柿の裸木の様子を擬人化したのである。作者の思いを込めた作品は、共感するの…

月のうた(12)

直喩の歌が三首(阿木津、宮本、濱口)、暗喩の歌が二首(清田)。これらの内、阿木津の作品は、わかりにくいのではないか。古代のおとめが仰いだように月のくれないを仰いだというのだが、古代のおとめを我々は知らない。想像を働かせるしかない。清純な鑑…

月のうた(11)

岡部桂一郎の歌では「ふところ」の解釈がポイントである。山懐(山々に囲まれた奥深い土地)と解したい。大西民子の歌は、よんどころない事情で夫と別れた彼女の生活において、「狂ってしまった方がはるかに幸せだ」と思う日々があったことを想像させる。安…

月のうた(10)

古今東西を問わず、日(太陽)は生命の象徴、月は死の象徴である。実際に月面に降り立った飛行士たちもそのように感じたであろう。地球のかけがえのない美しさを痛感した。月光の下の接吻も、死と生の対比と見えて哲学的でさえある。 月の砂踏む感触を伝へつ…

月のうた(9)

竹山広の「月の夜の一対の椅子」の歌の鑑賞は、以下のようにしたい。 月光の下に、かつて妻とふたりで腰かけた二脚の椅子が置かれている。妻に先立たれた作者は、魂の抜け殻のように、つまり死者に等しい存在として、一つの椅子に座っているところを想像した…

月のうた(8)

高安国世は、以前にも触れたが、リルケを専門とするドイツ文学者である。よって、「利鎌」をドイツ語読みの「ジツヒエル」とした。斎藤 史の「月 神のごとく昇るに」は、ユーモアがあって思わず笑ってしまう。窪田空穂の歌は、竹取物語を創作した奈良・平安…

月のうた(7)

一、二、四首目は擬人法。葛原妙子の歌で、燻製の鮪(しび)は窓辺に吊ろうとしたのであろう。下句が鮮烈。佐藤佐太郎の歌は、古典的な趣がある。山田あきの歌、影となり光となるのは、作者である。冨小路禎子の歌、月の持つ幻想性を描く。 月ひとり天(あめ)に…

歌集『九年坂』(2/2)

歌の内容をおもしろく、あるいは不思議に感じさせる技法として、以下の四つがある。 □上句と下句の取合せ: 上句と下句の内容に断絶があると、 意外性やユーモアが生まれる。 多摩川沿ひマンションの灯のはてしなし鴉は白き眠りを もてり 酔ひつぶれ正体あら…

歌集『九年坂』(1/2)

田上起一郎さん(「短歌人」所属)の第一歌集である。小池光さんの「跋」に、田上さんの短歌修業歴や歌のふしぎさ、おもしろさについて紹介されている。 以下では表現上の具体的な特徴を分析してみよう。短歌に限らないが、詩情をもたらす技法がよく分るはず…

月のうた(6)

二首目の景式王(かげのりのおおきみ)の生没年は不詳だが、897年には従四位下にあった。「小夜ふけて」の歌は、なんとも勇壮である。「夜が更けて、半ば終りに近づいているあの月を吹き返してくれ、秋の山風よ」という意味。月に帰っていったかぐや姫を想像…

月のうた(5)

居待月、寝待月、更待月 などは和歌・短歌にはそのままではあまり詠まれていないようだ。もっぱら俳句に多く現れる。 18日目 居待月: 「座って待つ月」 くらがりをともなひ上る居待月 後藤夜半 わが影の築地にひたと居待月 星野立子 蒟蒻に箸がよくゆく居…

月のうた(4)

目で見る限りでは、接近した月齢の月は、どれと指摘するのは難しい。やはり新月なり満月を目安にして、そこから何日目かと数えることが別に必要である。 14日目 小望月: 満月(望月)の前夜の月。幾望。 待宵(まつよい)。 激浪にいろほのめくや小望月 山…

MLB3000本安打へ(2)

ニューヨーク・メッツとフロリダ・マーリンズの3回戦が始り、初戦にイチローはベンチスタートした。マーリンズは6点を先取したが、7回までに同点に追いつかれ、八回裏にイチローは先頭代打に立った。そこで見事右中間に二塁打を放ち、3000本まであと10本…

月のうた(3)

擬人法で月を、月読壮士(つくよみをとこ)」、「月人壮士(つきひとをとこ)」、「ささらえ男」などと呼ぶことがある。万葉集にでてくる。 7日目 上弦の月: 半月、弦月(げんげつ)、弓張月。 天の原振り放け見れば白真弓張りて懸けたり夜道は よけむ 間人…

月のうた(2)

次には、月齢を考慮した月の歌をあげていこう。 1日目 新月: 朔日・ついたちの月 新月の清らなる夜ににほふ木場鮮しくしてひとり 行きたり 平野宜紀 かなしみを遣はんと開くる夜の窓繊きわか月西 に傾く 木俣 修 木琴の絶え間にはたとわれ在りて踏み越ゆみ…

月のうた(1)

天体の月の語源は、太陽(日)の次の星の意味から「次(つき)」と呼ばれたらしい。この月は、ふたつの観点からまとめることができる。先ずは季節の月。そして月の満ち欠け(月齢)に関わる呼び名 である。これは陰暦八月の月齢に対する呼び名である場合が多…

MLB3000本安打へ(1)

マーリンズのイチローが3000本安打を達成する時期が近づいたので、折にふれわが短歌でフォローしてみたい。デトロイト・ダイガースとの試合で、二試合に先発して四本のヒットを打った。MLBの監督、選手たちは口には出さないが、イチローの調子に注目して…