天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

天空のうた(10)

藤原忠隆の歌は、彼のおおどかな性格を反映している。即ち、「数国の刺史を経て家富財多し。性、鷹、犬を好む。人がため施しを好み、その報いを望まず。世、その態度に伏す」(信西『本朝世紀』)と称賛されたように、大きな器量の持ち主であった。 いづくに…

天空のうた(9)

一首目はわかりにくいが、どうせ雪が降るなら袖を通して濡れるくらい降ればよいのに、今降っている雪は、地につかないうちに空に消えているよ、という意味。貫之の歌は、桜が散って風に舞っているいる様子を、海に波が立っているようだと譬えてみせたもの。…

天空のうた(8)

一首目、「月の船星の林」とは大変おしゃれな言葉使いである。古代エジプトの物語に出てきそうな情景になっている。業平の感性は独特のようだ。雲のない空にはかなさを見るとは。実兼は暁の雪景色と空の様子を巧みに表現している。 天の海に雲の波立ち月の船…

天空のうた(7)

(2017年02月21日のブログからの続き。) 次の一首目の「天飛ぶや」は、「鳥」、「雁」また地名「軽(かる)」にかかる枕詞。西行の歌には、旅先のそこここに庵を編んで暮らした自身の気持がよく現れている。定家の「たく柴のしばしと見れば」は縁語用法という…

絞め殺しの木

凄まじい名前がついているが、熱帯に分布するイチジク属や一部のつる植物などの俗称という。日本の森林公園でも見かける。絞め殺され枯れた大木は幹が空洞になって残る。右の画像は、わが身近の俣野別邸庭園の歩道傍にある情景で、八重黒龍という藤の大木に…

現代俳句の笑いー川崎展宏

川崎展宏は古典的な俳諧(発句)の技法を現代俳句に展開した。自身の人生の終末期も「笑い」の俳句で表現した。失笑、苦笑、泣き笑いが多いようだが。全句集の中の『冬』以後 から例をあげよう。 枯芭蕉厚いおむつをあてようか 表裏洗はれ私の初湯です セー…

現代俳句の笑いー現代風素材

川崎展宏の俳句の特徴として、素材に外国の名詞が多いことがあげられる。季語との取合せが見どころになる。現代俳句と呼べる所以でもある。 シグナルのがらがら降りる峡の秋 ゴルファーらヘアピンのごと枯芝に 臘梅をポケットに入れバスが揺れ クレヨンの沈…

現代俳句の笑いー比喩

比喩の種類には、次のようなものがある。高野公彦『うたの回廊』(柊書房)から要約。直喩(明喩とも): 一つの事物を、「やうに」「やうな」 「如く」「如し」「に似る」などの語を介して、 他の事物になぞらへる方法。 暗喩(隠喩とも): 一つの事物を直…

現代俳句の笑いー折句

折句とは、和歌や俳句で,各句の上に物名などを一文字ずつおいたもの。 有名な例では、 から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる たびをしぞ思ふ 在原業平 には「かきつばた」が折込まれている。次の和歌には「をみなへし(女郎花)」が折り込まれて…

現代俳句の笑いー掛詞・枕詞

掛詞は室町時代の俳諧連歌以降、特に江戸時代の貞門俳諧において盛んに使用された。以下に数例をあげる。 手をにぎるこぶしの花のさかりかな 『竹馬狂吟集』(室町時代の俳諧集) 見事やと誰も五体をゆりの花 松永貞徳 印地して人をあやめの節供哉 古仙慶友 …

現代俳句の笑いー深い切れ

俳句が最短詩形として認められるのは、一句に季語と切れがあることによる。切れの前後で一見、関係が無いように見えるほどの深い切れがあると、謎を感じさせ、それをうまく鑑賞できた時には、思わず快心の笑みが浮かぶ。もちろん鑑賞は読者の想像による。 姉…

現代俳句の笑いー誇張表現

一句のなかに極端な表現を入れて笑いを誘う方法である。 以下の例でいえば、 百骸九竅: 「百骸」は多数の骨、「九竅」は両眼・両耳・ 両鼻孔・口・前陰・後陰の九つの穴で人体の構成 要素。転じて、人体。 十万億土: この世から極楽へ行くまでの間にあると…

現代俳句の笑いー本歌取り・パロディ

俳句の背景として取り入れる原作品の種類により、本歌取り(和歌・短歌・唱歌)、本句取り(俳句)、本説取り(物語・小説・謡曲)などがある。 わすれては夢かとぞ思ふ真桑瓜 *本歌: 「忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪踏み分けて 君を見むとは」 在原業平…

現代俳句の笑いー擬人法

擬人法は周知のように、人間以外のものを人間に見立てて表現するレトリックである。比喩の点では、無生物を生き物(特に人間)であるかのように表現する活喩法に対応する。以下の例は一読瞭然であろう。 風鈴はひとり遊べり夜道へ出て おどろいて草を飛びゆ…

現代俳句の笑いーリフレイン

同じ音や文字を一句のなかでくり返し使用して笑いを誘うレトリックである。川崎展宏の全句集を通して、このリフレインのレトリックが最も多い。彼の一大特徴といえる。 (参考:オノマトペを除いて全2308句中176句で7.6%。入れると13.7%。) 夕焼けて指切…

現代俳句の笑いー雅俗混交

俗語・口語のレトリックの範疇に入れてもよいが、雅語と俗語の対比を目立たせるレトリックである。 かきつばた欠伸して眼の濁りたる かきつばたvs欠伸 あら玉の年立つて足袋大きかり あら玉の年vs足袋 春の瀧肩から軽い布かばん 春の瀧vs布かばん 春宵一刻博…

現代俳句の笑いー俗語・口語

俳句の遠源は周知のように和歌であり、雅な言語の世界であった。そこに俗語や口語を導入することから新たに俳諧という分野即ち笑いの詩形が生まれた。 以下の例で、太字部が雅の世界からはみ出した笑いをもたらす俗語・口語のレトリックである。 蒲公英や日…

現代俳句の笑いーオノマトペ

周知のように擬音語(動物の音声や物体の音響を言語音によって表した語)と擬態語(事物の状態や身ぶりなどの感じをいかにもそれらしく音声にたとえて表した語)を総称してオノマトペと呼ぶ。なお広義には擬音語(擬声語とも)に擬態語を含めることもある。 …

「現代俳句の笑い」シリーズ

これから開始する「現代俳句の笑い」シリーズについて、以下に趣旨を述べておきたい。 わが所属の「古志」で、2014年2月号に発表した評論「スミレと薺」において、川崎展宏の俳句につき体系的な分析を行った。最近、復本一郎『江戸俳句百の笑い』(コールサ…

地蔵(続)

(2013年2月26日のブログの続き。)地蔵菩薩は釈迦の入滅後、5億7600万年後か56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまでの間、現世に仏が不在となってしまう為、その間、六道世界(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)のすべてに現れて衆生を救う菩…

観音(3/3)

以下にあげる作品はみな作者固有の感覚と思われ、読者にはどこまで共感できるか疑問。 水原: 百済びとが唐突。百済観音とどう関係しているのか。 大滝: 魚を選別している自分の手から観音の指の反りを連想 したようだが。 清水: 観世音とマリアとを一体視…

観音(2/3)

以下の作品の内、原田、三枝、永井の歌は、観音像を見ながら周囲の状況との関わりを詠んでいる。いずれも清々しい世界が感じられる。対して、辺見、内野の歌は信仰の対象としての観音にすがる気持が現れている。内野の歌は、母が亡くなった時のことと分る。 …

観音(1/3)

観世音菩薩や夢違観音のことで、誓子菩薩と共に阿弥陀如来の脇侍になっている。大慈大悲で衆生を救済することを本願とする。法華経の普及により広く崇拝されており、その仏像彫刻も多い。 観音の大慈大悲ぞむかふべき八葉のはちすむねにひらきて 慈円 くわん…

菩薩

菩薩とは仏教で如来に成ろうとする修行者のことを指すが、後に人々と共に歩み、教えに導くということで、庶民の信仰の対象になっていった。日本では、仏教の教えそのものの象徴である如来とともに、身近な現世利益・救済信仰の対象として菩薩が尊崇の対象と…

藤沢えびね・やまゆり園

五月連休に先立つテレビのニュースでたまたま見かけて出かけてみることにした。今まで全く知らなかった場所である。湘南台の慶応義塾大学に近いところに個人所有のかなり大きな竹林があり、そこに春から秋の草花が咲くのである。この時期は、海老根(えびね…

弁当箱

安土桃山時代には、現代でも見られるような漆器の弁当箱が作られるようになり、この時代より、弁当は花見や茶会といった場で食べられるようになった。それに伴い、弁当を持ち運ぶ入れものとしての弁当箱にも様々な工夫がこらされるようになった。ただ、現代…

弁当

すぐ食べられるようにした携帯用の食料が弁当である。その語源は、「好都合」「便利なこと」を意味する中国南宋時代の俗語「便當」とされる。日本においては、弥生時代のおにぎりらしきものの化石が見つかっているが、弁当かどうかは判別できない。平安時代…

海のうた(5)

以下にあげた岡井と塚本の前衛短歌は、あまりに有名。岡井の歌は、二国間の政治状況の暗喩であり、塚本の歌は、戦争のやりきれなさを詠う。このように同時期の他の歌人の作品と並べてみると、現代短歌における前衛短歌の位置が際立つように感じる。 めざめし…

海のうた(4)

葛原妙子の歌は、直喩と暗喩で出来あがっているが、観賞は容易でない。そもそも原牛とは何か?紀元前2万年〜紀元前1万年前に描かれたフランス・ラスコー地方の洞窟壁画の野生牛・オーロックスのことで、家畜牛の祖先種になる。しかし1627年にポーランド南部…

海のうた(3)

二首目の歌は、激しい恋心を風に荒れ狂う海のしきりに寄せる浪に譬えたもの。三首目は、法華経二十八品歌の中の提婆品の内容について詠んだもので、提婆品には竜女が海底から来たって男に変じて出家したという。 わたの原漕ぎ出でて見れば久方の雲ゐにまがふ…