天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

花火のうた(2/4)

東京では、江戸時代から隅田川の花火大会が有名。この大会は、大飢饉とコレラの流行によって、江戸で多くの死者が出た享保17年(1732年)、8代将軍・徳川吉宗が隅田川河畔で催した「川施餓鬼」に遡る。なお両国川開きの花火もよく知られており、広重の「名所…

花火のうた(1/4)

このシリーズでは、過去にとり上げた花火の作品は省略する。 秋田県大曲の全国花火大会は、前日までの大雨や洪水で開催が危ぶまれたが、当日は晴天になり、滞りなく実施された。毎年、雄物川河川敷運動公園において、8月第4土曜日に開催されるこの花火大会の…

クルクマ

久しぶりに横浜市俣野別邸庭園を歩いてきた。猛暑の日でかまびすしいみんみん蝉の声が更に暑さを加えた。緑濃い林には、山百合と仙人草が群れて咲いていた。地面に気を付けて歩いていると、今まで見たこともない清楚な花を見つけた。名札には「クルクマ」と…

俳句と短歌の交響(12/12)

歌集『X―述懐スル私』(2010年刊)「夏越なごめど」一連から。 学者の言葉や俳諧を詞書としている。以下では、俳諧の場合を取りあげる。大変難しいシンフォニーである。なお、岡井の短歌は初期の頃から、その時代の問題・トピックスをふまえていることが多…

俳句と短歌の交響(11/12)

歌集『馴鹿時代今か来向かふ』(2004年刊)「葦のむかうに」一連から。詞書として自身(隆)の俳句を入れる。 クローンの子孫さびしき花曇り (隆) 倫理への従順がむしろ新しくみえる未受精卵・核移植未受精卵から核移植によりクローンを作る研究が盛んにな…

俳句と短歌の交響(10/12)

歌集『大洪水の前の晴天』(1998年刊)「与謝ノ蕪村賛江」一連から。 〈人の世に尻を据(す)ゑたるふくべ哉〉 蕪村 東より風ふく朝は窓明けて酔生スレド夢死ヲネガハズ 岡井 隆 与謝蕪村の俳句は、瓢箪の安定した形状が俗世に開き直って生きているように見え…

俳句と短歌の交響(9/12)

後回しになってしまったが、現代短歌の詞書の先駆者である岡井隆の場合について、俯瞰しつつ多くの例を見ていくことにしよう。岡井隆の歌集で、俳句を詞書にした歌が最初に現れたのは、歌集『人生の視える場所』(1982年刊)の中の「2.趨る家族」であった…

俳句と短歌の交響(8/12)

詞書としての俳句 俳句を詞書にしている短歌は、読者にとっては、先ず俳句を読み、その内容に感応して短歌ができたと思って、短歌を鑑賞するのが通常であろう。ただ、実際は、短歌の方が先にできて、後からその内容と響き合う俳句を詞書に配することも有り得…

俳句と短歌の交響(7/12)

短歌の上句に俳句を置く 俳句は、独立して鑑賞できる発句として、連句から切り離されたもの。それを逆行して、俳句に脇句を付けて短歌(短連歌)にする場合である。現代では、藤原龍一郎が歌集『ジャダ』において試みている。「東京低廻集」―俳句からの変奏…

俳句と短歌の交響(6/12)

俳句からの盗作とされた寺山修司の短歌。では、それらをコラボにしたとしたら、評価は変るであろうか? 俳句を詞書としてみるのである。 一本のマッチをすれば湖は霧 富沢赤黄男 めつむれば祖国は蒼き海の上 富沢赤黄男 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨…

俳句と短歌の交響(5/12)

斎藤茂吉は、芭蕉からも多くを学んだ。山口誓子の分析によると、芭蕉の影響を受けた茂吉は、芭蕉の「寂静」を受け継いだ。「寂」を、或る時は「さびし」と読み、或る時は「しづか」と読んだ。芭蕉句を本歌にしたと思われる短歌を、次にとりあげよう。 馬をさ…

俳句と短歌の交響(4/12)

本歌取り 山口誓子は、先人の研究成果を踏まえて丹念に芭蕉の俳句の本歌を調べている。源氏物語や古今和歌集との関係を詳しく説明している。西行との関係では、『山家集』と『芭蕉句集』とを読み比べている。西行歌を本歌取りした芭蕉句の例として、 年たけ…

俳句と短歌の交響(3/12)

寺山修司の場合、自作俳句から短歌に改作した例として、高校時代の俳句と歌集『田園に死す』の歌との関係を見てみよう。 旅の鶴鏡台売れば空のこる 売郷奴いぼとり地獄横抱きに 売りにゆく柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯野ゆくとき 青麦を大いなる歩で測…

俳句と短歌の交響(2/12)

北原白秋が句作に興味を持ち始めたのは、小田原山荘時代・大正十年の夏であった。短歌の俳句化を試みた。 日の盛り細くするどき萱の秀(ほ)の蜻蛉とまらむとして 翅(はね)かがやかす 萱の秀に蜻蛉とまらむとする輝きなる 歌の方は、芭蕉の句「蜻蛉やとりつき…

俳句と短歌の交響(1/12)

まえがき和歌や短歌の詞書が果たす役割について関心を持ったのがきっかけで、その変遷を調べたことがある。簡単に言えば、和歌の時代には、歌を詠む背景が詞書になった。ところが現代になって、詞書と短歌が響き合い、詩として一体化する流れが出て来た。そ…

海のうた(9)

一首目は、作者自身か別人が潮干狩りでとった貝の袋を、コインロッカーの中に入れたのだろう。あるいは海水浴後の水着かも。二首目は下句が共感しにくい。海と一億年からすぐに読者に思い当る事象がないので、ああそうですか、で終り。五首目は、言い得て妙…

海のうた(8)

海と周辺の情景を見つめていると内省的になりロマンチックにもなる。叙景のうちに自分の感情を入れる短歌にとっては、格好の素材といえる。 我が歩む前も後も孤をつらねあなはろばろし渚白波 葛原 繁 わが影の折れては伸ぶる石段の尽きて海あり職退かむとす …

海のうた(7)

一首目の袰(ほろ)月(つき)とは、青森県東津軽郡今別町袰月のことであろう。晴れた日には、竜飛崎、下北半島また遠く北海道を臨むことができる。二首目には年上の女性が青年に抱く恋情を感じる。三首目は、長い人生を経て来た人に固有の感性と思われる。最後…

海のうた(6)

(2017年5月4日のブログからの続き) 一首目の葛原妙子の歌はどう読めばよいのだろう。彼女の歌は、おおむねこのように破調であることが多い。短歌のリズムに無理に納めようとすると意味が取りにくくなる。言葉の意味の素直な続きに従って切れを入れると良さ…

宇都宮の蕪村

今年の短歌人・夏の歌会は宇都宮市内のホテルで開催された。横浜から湘南新宿ラインで直通なので、久しぶりに参加した。宇都宮市はちょうと宮まつりの最中で、にぎやかであった。ホテルに入る前に、近くの二荒山神社に寄って境内を歩いてみた。ただ、この神…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(11/11)

ちなみに酒井佑子は、小池 光と同様に猫好きのようであり、 猫に関する歌が多い。『地上』で四首、『流連』で九首 『矩形の空』では42首と、歌集の発行が重なるにつれ多くなる。 数多い小池の作品(『山鳩集』までに111首)と比べてみたくなる。 先ず小池 光…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(10/11)

□死の歌 ほほゑみてもの言はす声はつはつに耳に残りて遠き面影 『地上』 *五味和子夫人の死の報に接しての思い出であろうか。 輸送船に死にて骨だに還らざりし右腕長かりし巨人軍投手 *叔父にあたる(叔母さんの夫)澤村栄治のこと。 みひらける灰色の眼に…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(9/11)

□病の歌 咲ききりて五日を保つ薔薇の花わが腹腔の腫物 (しゆもつ) 育つや 『地上』 *薔薇の花を見て作者の腹腔に生育する癌細胞を思ったのだが、 「咲ききりて五日を保つ」という措辞には、癌細胞にもピーク があるのでは、という楽観もあるようだ。 恰も夏…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(8/11)

□老の歌 赦されしとまだ思はなくに玉の緒の細りゆく父を 如何にせよとか 『地上』 *「赦されしとまだ思はなくに」をどう解釈するか。余命いくばくも ない父なので好きなようにさせてあげて、というわけでもないが、 それでもどうしようもない、という嘆きで…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(7/11)

■普遍のテーマ「生老病死」 酒井佑子の三冊の歌集を底流しているテーマは「生老病死」と いってよいだろう。 生は、この世に自然と共に生きて在ること。その幸福と喜び を詠う。 老は、加齢に伴う父母や自身の老いである。その感慨を詠う。 病は、自身の病気…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(6/11)

□口語歌 例は極めて少ないが、土屋文明にも酒井佑子にも口語歌はある。 日向(ひうが)の寒蘭も見て行きたいが花より先に人間がゐる 土屋文明『続青南集』 *初句四音の字足らずである。 酒井佑子の場合は最近の歌集『矩形の空』に次の三例がある。 大耳狐(フ…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(5/11)

□古典的語法 酒井佑子の短歌の一大特徴として歌語や古典的語法をあげる ことができる。統計的な調査は、あまりに煩雑になるので実施 しなかったが、読者には目立つはずである。依ってきたる ところは、短歌初心のころや大学在学中から五味保義に師事し アラ…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(4/11)

□直喩 喩法は和歌の生れた時代から、主要な技法のひとつであった。 特に直喩がそうである。隠喩については、現代の前衛短歌が多用し、 主要な技法にした。酒井佑子の場合は、分りやすい直喩を使用して いる。 三首づつ例をあげる。 身のうちに痛みあるごとく…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(3/11)

□畳語 畳語とは文字通り言葉の繰り返し(リフレイン)である。オノマトペ(擬態語・擬音語)によく見られる。破調にして読みにくくしても、リフレインによる韻により歌らしさが保たれるのである。土屋文明もよく用いた。二例あげる。 近づけぬ近づき難きあり…

古典短歌の前衛―酒井佑子論(2/11)

■特徴ある技法について 一首についてのコメントは*印の部分に示す。 □破調 まず正調の短歌について定義しておく。それは短歌の五七五七七 の音節と言葉の意味の文節とが一致する調べの歌である。 三歌集から正調の歌をそれぞれ二首を以下にあげる。 槻大木…