天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

挽歌―茂吉と隆―(1/4)

別離にはいくつかの場面がある。転勤、失恋、離婚、出征、死別など。このうちの死別には、寿命からくる老衰死、病死、戦死、事故死、自死、刑死などに伴う別れがある。死別に際して詠まれる歌が、挽歌・哀傷歌であり辞世歌である。ここでは、肉親への挽歌に…

寒川町一之宮の力石

高島慎助先生のブログ「ご存知ですか力石!」(1月25日に掲載)に、神奈川県高座郡寒川町「一之宮不動堂」前の力石が紹介されていた。先生の著書『神奈川の力石』に載っているのだが、以前に訪ねあぐねて失敗している。今回、ブログに刺激されて再度探しに出…

夢を詠う(18)

夢とふもの追ひ来しわれの黄昏にほとぼりのごと山鳩啼けり 深澤きみ江 花さきみのらむは知らずいつくしみ猶もちいつく夢の木実(このみ)を 佐佐木信綱 路上にてわれらは夢をあまた見きおおかたは夢のまま終わりたり 三枝昂之 地をおおう巨大なる雲の近づくを…

夢を詠う(17)

矮鶏(ちやぼ)抱いてとりも私も目をつむる風に乗りゆく夢をみるため 斎藤 史 アクロバティックの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばかり見き 斎藤 史 めずらしい血液型の恋人が戦場に行っ。て。し。ま。っ。た。悪。夢。 穂村 弘 夢の中では、光ることと喋…

夢を詠う(16)

眠りつつ髪をまさぐる指やさし夢の中でも私を抱くの 俵 万智 星をもぐ女が夢にあらわれてマンゴスチンひとつ置いて ゆきたり 俵 万智 この靴は濡らせないから花束は夢の渚に置いてゆきます 佐古良男 くらぐらと雨降る音すあかつきの夢のつづきの海(かい) 嶺(…

夢を詠う(15)

ヘイ・バード僕ら翔べない鳥だから彼(か)は誰(た)れどきの 夢を見るのさ 白瀧まゆみ かの時の子よりもうすき肩なりきむずと掴みし夢の中の子 安部洋子 日曜の朝(あした)の夢に少女なるわれは野球のボールに 衝(う)たれき 花山多佳子 女なること忘れをりしが…

夢を詠う(14)

夢違(たが)へやらむと微笑(みせう)たまへども夢といふもの なきは如何にせむ 北沢郁子 病み衰えし人抱き上げたる今朝の夢一日腕に軽さが残る 本土美紀江 追ひつめてゐたりしものは何ならむ夢よりさめてまたしんの闇 小野興二郎 生くる黴吐きしや胸を揺りあげ…

夢を詠う(13)

真夜中のねむり浅きに見る夢は汝があるときのありありとして 鹿児島寿蔵 ひたすらに恥づかしければ言はずおくおのれ山雀(やまがら) にて逃ぐる夢 伊藤一彦 雄の鶴となりて高きを渡りつつふいに空なき不可思議の夢 伊藤一彦 まひるまに夢見る者は危しと砂巻き…

新春の里山(横浜市舞岡公園)

閑話休題 例年春と秋に訪れる里山として横浜市舞岡公園がある。今回、朝方は晴れていたので、新春の里山の気配を感じるべく出向いたのだが、途中で雲が出て風が強くなってきた。手袋をしていないので、ポケットから出した手が冷たくなった。 地下鉄舞岡駅か…

夢を詠う(12)

熱のあるこころさびしも夢にさへ息切々と船漕奴隷(ガレリアン)われ 滝沢 亘 われはいまうめきつつありさめやらぬ夢また夢のつみふかきため 坪野哲久 貧病苦ただこれのみを財としてつながる無辺の夢ありにける 山田あき 夢に見てながく忘れず蛹から出てゆくと…

夢を詠う(11)

さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝(あした)の斧は 前登志夫 わがゆめの髪むすぼほれほうほうといくさのはてに風売る老婆 山中智恵子 一生吾がいだきて行かん寂しさや川暗く舟艇衛兵の夢 近藤芳美 扉押し扉を押して出口なき夢の怯えの明けの目覚め…

夢を詠う(10)

夢は恋におもひは国に身は塵にさても二十とせさびしさを云はず 与謝野鉄幹 夢にせめてせめてと思ひその神に小百合の露の歌ささやきぬ 与謝野晶子 ゆくりなく君見しものをわが夢の一つをえらび真夢(まゆめ)と せんや 三ケ島葭子 春の日や絡繹(らくえき)として…

夢を詠う(9)

なみだ河身もうきぬべき寝覚かなはかなき夢の名残ばかりに 新古今集・寂蓮 ぬる夢に現のうさも忘られて思ひなぐさむほどぞはかなき 新古今集・女御徴子女王 現をも現とさらに思へねば夢をも夢と何かおもはん 山家集・西行 古も夢になりにし事なれば柴のあみ…

新春の吾妻山

閑話休題。 新聞の朝刊で二宮町吾妻山の菜の花が満開とのニュースをみたので、さっそく出かけた。山頂の菜の花畑は、年末年始には花が咲き始めることで有名。私がこの山に登るときは、通常は梅沢口からゆるやかに時間をかけて登るのだが、今回はがんばって役…

夢を詠う(8)

覚めて後夢なりけりと思ふにもあふは名残の惜しくやはあらぬ 新古今集・藤原実定 身にそへるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに 新古今集・藤原良経 夢かとよ見しおもかげもちぎりしも忘れずながら現ならねば 新古今集・藤原俊成女 あふとみて事…

夢を詠う(7)

須磨の関夢をとほさぬ浪のおとをおもひもよらで宿をかりけり 新古今集・慈円 ゆめかともなにか思はむ浮世をばそむかざりけむ程ぞくやしき 新古今集・惟喬親王 哀れなるこころの闇のゆかりとも見し夜の夢をたれかさだめむ 新古今集・藤原公経 あひ見しは昔が…

夢を詠う(6)

憂き事のまどろむほどは忘られてさむれば夢の心地こそすれ 千載集・読人しらず 橘のにほふあたりのうたたねは夢もむかしの袖の香ぞする 新古今集・藤原俊成女 かたしきの袖の氷もむすぼほれとけて寝ぬ夜の夢ぞみじかき 新古今集・藤原良経 駿河なる宇都の山…

新春の里山(藤沢新林公園)

閑話休題。 寒気がくる前の晴天の日を見計らって、久しぶりに初春の新林公園の山中を歩いてみた。古民家の裏手の山道登り口から入り、獣落し、見晴台、電力鉄塔下、冒険広場とたどって長屋門まで戻ってきた。広葉樹はみな落葉して裸木となり、見通しをよくし…

夢を詠う(5)

うたたねの夢や現に通ふらむ覚めてもおなじ時雨をぞ聞く 千載集・藤原隆信 おもひねの夢に慰む恋なれば逢はねど暮のそらの待たるる 千載集・摂政家丹後 仮寝(うたたね)に果(はか)なくさめし夢をだにこの世に または見でや止みなむ 千載集・相模 春の夜の夢ば…

夢を詠う(4)

古典和歌の場合、夢は現と対比させて詠むことが多い。 みる夢のうつつになるは世の常ぞ現のゆめになるぞかなしき 拾遺集・読人しらず 夢とのみこの世の事の見ゆるかなさむべき程はいつとなけれど 千載集・永縁 夢にのみむかしの人をあひ見れば覚むるほどこそ…

夢を詠う(3)

夢かとも思ふべけれど覚束な寝ぬに見しかばわきぞかねつる 後撰集・清成女 思ひねのよなよな夢にあふことをただ片時のうつつともがな 後撰集・読人しらず うつつにもあらぬ心はゆめなれや見てもはかなきものを思へば 後撰集・読人しらず 陽炎(かげろふ)のほ…

夢を詠う(2)

忘れては夢かとぞ思ふおもひきや雪ふみわけて君を見むとは 古今集・在原業平 むば玉の闇のうつつはさだかなる夢にいくらもまさらざりけり 古今集・読人しらず なみだがはまくら流るるうきねには夢もさだかに見えずぞありける 古今集・読人しらず 寝られぬを…

夢を詠う(1)

夢の語源は「寝(い)ぬ・見(め・み)」にある。つまり寝て見るもの。 み空行く月の光にただ一目(ひとめ)相見し人の夢にし見ゆる 万葉集・安都扉娘子 思はぬに妹が笑(ゑま)ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞをる 万葉集・大伴家持 思ひやるこしの白山しらね…

年始の鶴ケ丘八幡宮

仕事始めの4日に鎌倉鶴ケ丘八幡宮に出かけた。大変な人出だろうな、と判っているのにである。過去に正月四日に出向いたことはなかった。横須賀線の電車は鎌倉でどっと乗客が降り、八幡宮に向かう若宮大路から八幡宮の賽銭箱まで参拝の人たちの列が続いてい…

副詞―個性の発現(11/11)

おわりに 本稿では五七五というの短い音数律の俳句において、作者の特徴・独自性を発揮する場として、副詞なかんずくオノマトペの工夫があることを見て来た。それは江戸期において、特に小林一茶に顕著であること。そして現代俳句においても川崎展宏の作品に…

副詞―個性の発現(10/11)

オノマトペの工夫 「かるみ」をオノマトペで表現する芭蕉の方法を継承した一茶や展宏も、独自の工夫を試みた。辞典には出てこないものも多い。また辞典に出ている意味とは少し違った雰囲気を醸し出している場合も多い。オノマトペは、作者の独自性が発揮しや…

副詞―個性の発現(9/11)

一茶の場合: 時に下品に感じるほどに生々しいオノマトペ表現。十三例をあげる。 うそうそと雨降(ふる)中を春のてふ 春雨とはいえ、蝶にとっては不安で落ち着かない様子が見て取れる。 つるべ竿(ざを)きよんとしてあるわか葉哉 「つるべ竿」は、釣瓶を取り付…

副詞―個性の発現(8/11)

各俳人の特徴ある副詞 ここでは芭蕉、蕪村、一茶、展宏 それぞれに特徴的な副詞につき、例句をあげる。 芭蕉の場合: 軽味のある俗語調。八例をあげる。 夕がほにみとるるや身もうかりひよん ウリ科の夕顔からは、瓢(ひさご、ひょん)と呼ばれる実がとれる(…

副詞―個性の発現(7/11)

一茶の場合: 「又」「はや」の二種。「又」は蕪村よりも頻度が高い。 「又/また」九句 又窓へ吹(ふき)もどさるる小てふ哉 又(また)ことし娑婆塞(ふさぎ)ぞよ艸の家 又(また)人にかけ抜(ぬか)れけり秋の暮 蠅除(はへよけ)の草を釣(つる)して又どこへ 屁くら…

副詞―個性の発現(6/11)

各俳人がよく用いた副詞 俳人毎に最もよく用いた副詞がある。各人五句以上に使った例を全てあげよう。 芭蕉の場合: 「まだ」「まづ」「猶」の三種。 「まだ」九句 見る影やまだ片なりも宵月夜 京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲 春たちてまだ九日(ここの…