天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

病を詠む(11/12)

君病みがちにうら若くして女神のごと集団ありき何にみな過ぐ 近藤芳美 虹にかけし手が堕ちてゆく夢覚めてまた病むと知るこの朝の冷え 杉山敏代 千羽鶴はなばなしくも吊るされて祭りのごとくわれは病まむか 久保田幸枝 湯たんぽに病む身ほのぼの温もればまた…

病を詠む(10/12)

わが病むを知らざる人らわが心の広場に遊ぶ楽しきさまや 高安国世 病み臥して高層の窓より眺むれば何の裏側かこの秋天は 栗木京子 病めるゆゑ見むと思ひて歩みゐぬ長江に光 無限のきらら 石川一成 病みながら大き屁ひりてかしこきろ六十七歳を迎へたりけり …

病を詠む(9/12)

病みながら痛むところの身に無きを相対的によろこびとせん 佐藤佐太郎 妻の病めば子供もいたく静かにて襖を少しあけて見ている 大島史洋 粉雪より霙に変はる白日(まひるま)を押されし花のごとく病みゐき 塩原早智 病み呆けて行く幸ひも今おもふ厭はれて人に…

病を詠む(8/12)

明けゆけど人の許せば起きもせず朝の夢みる病おもしろ 尾上柴舟 間歇の意識に〈すまぬ〉と繰り返す夫の手足のはやままならず 筒井早苗 ふとんの上でおかゆをすするあと何度なおる病にかかれるだろう 斎藤斎藤 どの病ひで死なせますかと訊ねゐる使ひのものが…

病を詠む(7/12)

十年のわれの病をみとりつつ妻も老いたり髪白くなりて 五味保義 癒えがたき病を生きて見る萩のくれなゐ深し月の光に 桐原美代治 ある日ふと病(やまひ)あらはれかなしげな顔して春の われをみつむる 馬場あき子 病む父が花とよびゐし死のことを椿咲く日は思ひ…

病を詠む(6/12)

貧は我を病は汝を育てきと思ふ病に汝は倒れぬ 土屋文明 新しく萌して吾のたもつもの病癒えたる孤独といはん 川島喜代詩 病癒えて妻を伴う冬(ふゆ)園(ぞの)の裸木の梢みな天を指す 前田 透 おのづからこころ閑かに生きゆけば病ひある身は日月長し 安田章夫 怠…

病を詠む(5/12)

手にあまる抜髪かなし四日経て見しらぬ尼が鏡にありぬ 畑 和子 蛍(ほうたる)よどうすればいい 病む汝を取り戻すべくわれは点らむ 池田はるみ 雨脚の去りたれば地の匂ひ湧く病むもの置きて帰るうつしみ 佐藤通雅 掃き寄せて掃き寄せて椋の葉よ昨日まで知らな…

病を詠む(4/12)

こころの悲(ひ)からだの患(かん)と分かちがたく今朝も白粥の 椀を食(たう)べぬ 春日井 建 さしあたり満足すべき境涯となりしうつつは病床にをり 佐藤志満 癒ゆるなき身は帰らなん沙羅の花さきて妻子(つまこ)の待ち ゐる家に 上田三四二 ほがらかに日々ありく…

病を詠む(3/12)

ゼネストを病みてむかふる北窓の一と間の室に光差しこめ 小名木綱夫 死ぬまでに指輪が一つ欲しと言ひしそれより長く長く 病臥(やみふ)す 清水房雄 眼(まなこ)昏み口もの言へずなる我を妻はおどろき声高く 喚(よ)ぶ 窪田空穂 華やかに新車のショーの楽は鳴る…

病を詠む(2/12)

冬の日のふかき曇のしづけさよ母の病のひまあるごとし 岡 麓 しづかなる病の床にいつはらぬ我なるものを神と知るかな 山川登美子 病ひ深く身に沁みぬらしみちたぎち流るる水を見れば痛しも 古泉千樫 妻は母に母は父に言ふわが病襖へだててその声をきく 明石…

病を詠む(1/12)

このシリーズでは、病気の具体名に特定せず、いわゆる病、病むと詠まれた作品を取り上げる。病には疾の字を当てることもある。 癌など特定の病気に関する歌は、別の機会に取り上げたい。 関連する言葉として、古称の「いたつき」、病み伏す(病みこやす)、…

声を詠む(10/10)

日が落ちて遠く野に呼ぶ声のあり人か獣か木霊か知れず 渡辺幸一 声をもてこの身を包みくれたりき秘すればたのし電話の後も 山本かね子 鬼やらふ声遠々に雪ふかしそのはるけさにわれはゐるなり 郷原艸夫 ああいやだいやだわというこの声も半世紀ほど生きてき…

声を詠む(9/10)

悲しみの部屋を思へばことばなし かあさーん かんごふさーん と叫ぶ夜の声 川涯利雄 水紋のやうにひろがるその声はわがししむらに入りて息づく 外塚 喬 こゑといふかそけき風を身に入れてあはきなごりを幾日たもたむ 水沢遥子 柴舟の歌碑を説きゐるわが声を…

声を詠む(8/10)

わたくし あなた うめ もも さくら 声たてて言えば 胸あたたまる日本の言葉 信夫澄子 丘の上の天つ光に“重荷なら捨てよ”と言いし声のかえるも 大島史洋 ロンドンの冬告ぐる声か細くて受話器に暗き風の音湧く 羽生田俊子 ひとはなぜ亡きひとのこゑを憶えゐる…

声を詠む(7/10)

美しく醒めて生きよと父の声満身創痍のみどりしたたれ 辺見じゅん 静脈の枝分れ見ゆもろ人の刃なすこゑわれが受けとむ 辺見じゅん 張り上ぐるわが声われに響くとき窓に来てゐし鳩を忘れず 柴生田 稔 もろくさに少女は伏して聞こえくるひとこえ終わり声萌黄な…

声を詠む(6/10)

わが内なる聲はときのまも汝を呼び呼び止まぬかも人と居りつつ 五味保義 録音機のわが声低くうたいいで鋭(と)き深谷(ふかだに)のごとし 夜の部屋 伊藤一彦 迫力のなくなれる声などといふなかれひとつふたつ歯の欠けたるゆゑぞ 木俣 修 紅桃が咲くといひサン…

声を詠む(5/10)

雨の奥の森の奥の 茫々のはてなき遠き戦場の声 加藤克己 埴道にみな自転車を倒しおき泳ぐ少年か崖下のこゑ 田谷 鋭 こゑ細るすなわち肉のほそるべき母見えねども夏うぐひすよ 塚本邦雄 ほうほうと声よく徹る山国の寒(かん)に来会ひて澄みし物言ひ 富小路禎子…

声を詠む(4/10)

よもすがら声をぞはこぶ世々の人雲となりにし故郷の雨 正徹 とる筆の尖(さき)も凍りてこの朝わが書く紙に声のあるかな 落合直文 さ夜ふけて慈悲心鳥(じひしんてう)のこゑ聞けば光にむかふ こゑならなくに 斎藤茂吉 屋根の上にちちと啼くとき天(あめ)高く切な…

声を詠む(3/10)

郭公(ほととぎす)あかで過ぎぬるこゑによりあとなき空に ながめつるかな 金葉集・藤原顕輔 郭公(ほととぎす)すがたは水にやどれども声はうつらぬもの にぞありける 金葉集・藤原忠通 夜はになく声にこころぞあくがるる我が身は鹿のつまならねども 金葉集・内…

声を詠む(2/10)

声の語源は、「聞こえ」の「き」が落ちた、「ことあへ(言合)」の約 などの説がある。 慨(うれた)きや醜霍公鳥(しこほととぎす)今こそは声の 嗄(か)るがに来鳴き響(とよ)めめ 万葉集・作者未詳 秋萩の恋も尽きねばさ男鹿の声い続(つ)ぎい続ぎ恋こそ 益(まさ…

声を詠む(1/10)

古典和歌では、動物の鳴き声に感動して詠んだ作品が多い。鹿、雁、かはづ、こほろぎ などのような例を思いつく。特に鳥類については例歌が多い。代表に万葉集をとってみよう。かなり詳しい調査がいくつかなされている。野鳥研究家で歌人 でもあった中西悟堂…

Shohei Ohtani(12)

9月29日(日本時間)から今期最後となるアスレティックスとの三連戦がエンジェルスの本拠地アナハイムで始まった。 第一戦: 大谷は4番DHで先発。レフト前ヒット、二塁から三塁へ盗塁(10個目), ライト前二塁打、センターへの犠牲フライ、ピッチャーへの…

スミレと薺(なづな)(10/10 )

おわりに 川崎展宏は古典的な俳諧(発句)の技法を現代俳句に展開した。それを立証するために、展宏作品を俳句の詩学の立場から分析すると共に、具体的な技法を芭蕉の句と対比させて見てきた。共通する面と異なる面があるが、なによりも時代と経験の違いが際…

スミレと薺(なづな)(9/10)

戦時体験から 川崎展宏にとって戦時体験は、重要な作句動機になった。彼の十代は第二次世界大戦と重なっていて、学徒勤労動員を経験し、B29が東京市街を空襲するのを間近に見た。 南無八万三千三月火の十日 八万三千は「米国戦略爆撃調査団報告」による東…

スミレと薺(なづな)(8/10)

三 挨拶句 近代以降の挨拶句については、高浜虚子の「慶弔贈答句」が有名であるが、展宏も負けず劣らず数多く詠んでいる。一般に挨拶句という場合、挨拶の対象は、人物のみならず土地にたいしても詠まれる。また人物が対象である場合もお互いが相見知ってい…

スミレと薺(なづな)(7/10)

二 古典を踏まえる 次に俳諧の大きな特徴として、古典文学を踏まえる(本歌取りをする)ことがある。 貞門派の俳諧では、連歌で必要とされた源氏物語、伊勢物語などの知識は必須であった。その後に庶民の間に広まった談林派の俳諧では、古典文学に代って能楽…

スミレと薺(なづな)(6/10)

俗語や口語、漢語(和製音韻)の使用も俳諧の大きな特徴であり、芭蕉も盛んに用いた。時代の違いはあるが、展宏の句にも大変多い。なお、漢語とは別の外来語については、芭蕉には、鎖国の時代でもあり、少ない。一方、展宏の場合は現代俳句らしく、西洋語(…

スミレと薺(なづな)(5/10)

俳諧精神の継承 川崎展宏は「俳句の基本は笑い」と考えた。その作品群は、芭蕉の作句法に学び、俳諧精神を現代に継承するものであった。東京大学文学部国文学科及び同大学院卒業の川崎展宏は、当然ながら日本の古典文学に関する素養を身につけていた。俳諧の…

スミレと薺(なづな)(4/10)

三 注意 干渉部にもそれなりの活気を持ち込もうとする傾向が進むと、二つのまとまりのどちらが基底部で、どちらが干渉部なのか、つまりどちらが主でどちらが従なのか、ほとんど判断のつかない構成をもつ句が現われる。句中の切れの上下が同等の重みを持つ場…

スミレと薺(なづな)(3/10)

二 干渉部 基底部に働きかけて、ともどもに一句の意義を方向づけ、示唆する部分。基底部との重複による意義の方向づけを主な任務とする。一般にそれほど大きなスペースを必要としない。 干渉部の修辞法について。基底部の文体上の意外性即ち「俳意」の意義の…