天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

現代歌枕の発掘(5/8)

地図への関心 古典和歌の時代、都の貴族や女性が歌枕の現場にわざわざ出かけて歌を詠むなど困難であった。歌枕の名所旧跡や植物は、屏風絵などに描かれたので、歌人をそれを見てイメージを膨らませた。地方の情況を知るには、国司の報告や風土記などが参考に…

現代歌枕の発掘(4/8)

続く世代として塚本邦雄から多くを学び、短歌に知の詩情という革新をもたらした小池光は、他の歌人以上に文字・言葉への関心が強い。以下、一々のコメントは省略する。 「讒(ざん)」の字の二十四掻画を数へつつ白紙のうへに 書くことのなし 『草の庭』 少…

現代歌枕の発掘(3/8)

*類似語への興味、疑問 オーボエの通奏低音胸を占む「聴姦」といふ言葉や在(あ)りし 『約翰傳偽書』 新約聖書マタイ傳以来、「視姦」という言葉はよく知られているのだが。 中風の、中毒の中、中傷の、中陰のかつ中絶の中 『約翰傳偽書』 中が意味する内…

現代歌枕の発掘(2/8)

文字への関心 平安朝以降の和歌は、短冊などにしたためた流麗な筆致を眺めて楽しむ側面があったにせよ、本来、朗読し耳で聞いて理解し韻律を楽しむことが主体であった。漢詩と異なり、大和言葉と平仮名を多く用いた和歌では、漢字の字面や意味に興味をもって…

現代歌枕の発掘(1/8)

この機会に歌枕・歌ことばについて、現代短歌の視点から私見をまとめてみたい。 今日、歌枕といえば、歌に詠まれた土地あるいは地名という意味にとられているが、古くは、『能因歌枕』に見られるように、その本義は、歌を詠むための基本的な歌言葉のことであ…

短歌と花言葉

和歌や短歌に使用される題材や言葉は、歌枕、歌詞、歌語などと呼ばれる。一方、花言葉とは、一つ一つの花に、それぞれふさわしい象徴的な意味をもたせたもの。国によって異なるが、日本では、主に西欧起源のものを核として様々なバリエーションがあり、花を…

死を詠む(26)

このシリーズが一段落した後に届いた「短歌人」平成30年7月号を見ていると、同人1欄に以下のような気になる作品を見つけた。それで本稿を追加した次第。 阿ではなく吽でゆくべし吽吽と唸っておればいつか終わるよ 森澤真理 従兄の死知らせる電話一瞬の予感…

ブーゲンビリア

ブーゲンビリアは、オシロイバナ科のつる性低木。花言葉は、「情熱」「魅力」。原産地は、中南米の熱帯雨林。ブーゲンビリアという名前はブラジルで木を見つけたフランス人探検家ブーガンヴィルにちなむ。和名は筏(いかだ)葛(かずら)、あるいは九重(ここのえ…

猛暑日の植物園

テレビのニュースでたまたま大船フラワーセンターの蓮の花が紹介されていた。早朝に見ると咲いたばかりの花が見れるということで、この時期特別に朝七時から開園しているという。早朝はきついので十時ころに訪ねてみた。種類は多くないが、美しく咲いた蓮の…

幻想の父(12/12)

■第三者として世の父、概念としての父も詠んだ。現代短歌の題材として聖書を重視したので、イエスの家族の歌もある。 瀝青(れきせい)は遅遅とかわきてゆふつかたきみねがはざれど イエスの父 『青き菊の主題』「きみ」とは大工・ヨセフのこと。わが子がイエ…

幻想の父(11/12)

■子が父になった場合。作者は祖父の立場。 長男・青史夫妻に子供ができたことを契機に詠んだものと思われる。 父となる汝おそろし熱湯のシャワーしたたるタイルの薔薇繪 『閑雅空間』 薔薇繪のタイルの浴室で熱湯のシャワーを浴びたのは、父となる汝=子であ…

幻想の父(10/12)

■自分が父になった場合はどうか。 父となりて父を憶へば麒麟手(きりんで)の鉢をあふるる十月の水 『天變の書』 麒麟手の鉢とは、首の細長い鉢であろう。そこに十月の水があふれる。自分が子を持って父のことを想う複雑な気持を象徴した下句である。この父と…

幻想の父(9/12)

■父への願望、父恋の歌もある。 父とわれ稀になごみて頒(わか)ち讀む新聞のすみの海底地震 『水銀傳説』 微笑ましい情景ながら、わかち読むをどう解釈するか。新聞のすみの海底地震に関心を持ったのが子なら、その面を父がはずして渡したか。父も関心があっ…

幻想の父(8/12)

■父の病気、老い、死などを詠んだ歌 宿題は緑の薔薇の花式圖と父が身投ぐるまでのいきさつ 『歌人』 花式図は花の模式図のことで、 花を構成する萼片・花びら・雄蕊・雌蕊・蜜腺などの配置を模式図に表わしたもの。緑の薔薇の模式図を描くことと父の身投げの…

幻想の父(7/12)

■父と子の体の接触から男色のホモセクシャルな感覚が芽生える。それを詠んだところにも塚本邦雄の独自性がある。 うす暗くして眩しけれ父と腕觸る満開の蝙蝠傘(かうもり)の中 『驟雨修辞学』 父と息子が一つ開いた蝙蝠傘のうす暗い中で裸の腕を触れ合ってい…

幻想の父(6/12)

■父と子の重要な関係としてエディプス・コンプレクスがある。 「エディプス!」と吾(あ)に呟きて目つむりし父が雄蕊の ごとき睫毛は 『日本人霊歌』 父は作者に向ってエディプスの名を呟いて目をつむった。雄蕊のような長い睫毛が作者の印象に残った。父を殺…

幻想の父(5/12)

■父と子の関係として、しつけや教育に関係する歌を見てみよう。塚本邦雄には兄が一人、姉が二人いた。 わかき父あり時に激してわれを殴(う)つよろこびと夏あをき石榴と 『感幻樂』 サド・マゾ感覚が匂う。父が子を殴る、子が父に殴られる両者が感じる喜び。…

幻想の父(4/12)

■次に父の趣味、嗜好に関わる歌。 禁断の煙草に酔へば幻の琥珀色なす父のなかゆび 『驟雨修辞学』 結核を患った塚本にとって煙草は禁断であったはずが、あえて吸った時、煙草をよく吸った父の脂(やに)に染まった中指を幻想したのだ。 父はひそかに聖母の白…

幻想の父(3/12)

■次は父の行状に関わる歌。実の父・欽三郎は近江商人であり、酒と女で放蕩の限りを尽くしたという伝説がある。 影繪芝居ドン・キホーテの活躍を父の頭(づ)がぬきんでて邪魔する 『驟雨修辞学』 父が子の前にいて一緒に影絵芝居を見ている。 ドン・キホーテ…

幻想の父(2/12)

■父の風貌や性格を詠んだ歌から見ていこう。 革命とほくなりつつ今宵わが家には蕗青く煮え父の哄笑 『日本人霊歌』 この父は革命などに期待しなかったようだ。蕗を煮て食べる夕食に高らかに笑う父を作者空しく思い軽蔑しているようだ。 夭折の無頼の父に白緑…

幻想の父(1/12)

この人は生まれつき父を知らない。誕生後四ヶ月して父が亡くなったからである。母はこの人が二十四歳の時に亡くなっている。この人は随分たくさんの「父」の歌を詠んだ。男性歌人でこれほど多くの「父」を詠んだ人はいないのではないか。塚本邦雄である。 塚…

Shohei Ohtani(3)

エンジェルスとマリナーズの初戦で、大谷翔平が故障後にバッターとして復帰することが、試合直前に発表され、マスコミもファンも吃驚した。試合場のセーフコフィールドにたまたま来たお客にはハッピーであった。DH6番で先発したのである。 故障から復帰初…

仏像を詠む(4/4)

目を閉ぢてまた目をあけて阿弥陀仏の音とならざる声聞かむとす 市村善郎 梅雨明けの苑渡り来て汗しとど「見返り阿弥陀」に振り返られぬ 根本芳平 弥陀の顔を線に描ける秋の夜のどうにも笑ってしまへり弥陀が 根本芳平 知る人の如しと思ひ見上げゐて誰ともわ…

仏像を詠む(3/4)

西の衆は怖しといひし人ありぬ水掛不動に聞いてみなはれ 奥田清和 青黒の不動明王炎眼に我をみすゑて引き裂きたまへ 河出朋久 八百年よくぞ保てる摩崖仏撫づれば砂が掌につく 青木久佳 秋深きつゆのひびきに思はずもどうと落ちたる摩崖仏頭 馬場あき子 海に…

仏像を詠む(2/4)

観音の指(おゆび)の反りとひびき合いはるか東に魚選(え)るわれは 大滝和子 この観世音も或いはマリア様か知れず長き敬虔のうちに包まれて 清水房雄 常(とは)に微笑(ゑ)む観音は母 若き日の母またさらにその母のゑみ 桑山則子 差しのべし手くびおとしてささえ…

仏像を詠む(1/4)

みとらしの蓮華色褪(あせ)いよいよに十一面観音唇朱し 太田絢子 観音のすずしき眼みそなはし春野をゆらに月のぼりそむ 原田 清 闇のなかに仄かにあかるみくる視野の慈母観音の春の てのひら 三枝浩樹 じゃがたらの咲きたるまひる渡岸寺(どうがんじ)のくわん…

Shohei Ohtani(2)

NHK-BS1の「ワールドスポーツMLB}の中で紹介されるデータ分析手法は、科学的ですばらしいものがある。MLBの各球団は、こうした現代的ツールを駆使して、試合ごとに戦略を立てて戦っているのであろう。大谷翔平の投手としての特徴、打者としての特徴は…

滝のうた(6/6)

ただよへる白き雲をも攫(さら)ひしか滝りんりんとひかり を増しぬ 春日真木子 凍りたる滝を見上げて立つわれは寒き柱を身の内にもつ 柏崎驍二 宙空のみどりごに乳与へゐる滝の母性の轟きつづく 岩井謙一 藤の花うすむらさきの宙に垂れ地にはとどかぬ未完なる…

滝のうた(5/6)

滝音はさわがしからず自らのいのちを垂るる如く落ちくる 宮岡 昇 やはらかく体ひろげて落つる滝一断崖を白く覆へり 高野公彦 しんしんと体のなかの風ぐるま回りて我は滝に近づく 高野公彦 ちりちりと岩を這うありとびはねてしぶきとなるあり滝の おもては 沖…

滝のうた(4/6)

滝の水は空のくぼみにあらはれて空ひきおろしざまに落下す 上田三四二 千年の杉みな濡れて落つる瀧かがやくみづはこずゑに高し 上田三四二 夢窓国師作るところの心地庭(しんちてい)男滝女滝の音の しづけさ 野村 清 崖高き青葉の中より一条(ひとすぢ)の垂れ…