天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

月の詩情(2/12)

月の表現 日本の詩歌において月が現れるのは、万葉集からのようである。記紀歌謡には、月が女性の月経に掛けて詠われているのみで、美しさの表現は見当らない。 月が喚起する人間の感情、或は月が象徴するものとして、大きくは幻想と狂気があろう。 ただ日本…

月の詩情(1/12)

はじめに 古来、和漢の詩歌において、自然の美を対象とする際に「雪月花」という言葉が使われる。「雪月花」の日本における初出は『万葉集』巻十八に残る大伴家持の歌。「宴席詠雪月梅花歌一首」と題して、「雪の上に 照れる月夜に 梅の花折りて贈らむ 愛し…

子規と野球

日本に明治期に野球が紹介されてすぐに夢中になったのが、正岡子規であったことはよく知られている。「バッター」「ランナー」「フォアボール」「ストレート」「フライボール」「ショートストップ」などの外来語に対して、「打者」「走者」「四球」「直球」…

Shohei Ohtani(5)

アメリカン・リーグの試合では、打者・大谷はDHで先発できるが、相手がナショナル・リーグのチームの場合は、打者・大谷は一回の代打になる。もちろん投手・大谷なら先発できる。 8月18日のレンジャーズとの第三戦で代打に立ち、3ランホームランを打った。…

敗戦の記憶(3/3)

戦の日、戦に負けし日、顕ちきたり春浅き山の尾根たどりゆく 佐藤美知子 草中に刀をはふりて立ち尽す敗戦の日は暑かりしかな 大越一男 敗戦を迎へたる日に崩しゐしこの斜面いまも草いきれして 吉野昌夫 敗戦の日の熱き記憶また蘇る夕べ見てをり子らの遠花火 …

敗戦の記憶(2/3)

国やぶれ歌滅びなむといふこゑに我は答へきただ否とのみ 鹿児島寿蔵 国やぶれて唇紅きマグダレナ昼の巷にもの怖れなし 山田あき やぶれたる国に秋立ちこの夕の雁の鳴くこゑは身に沁みわたる 前川佐美雄 国やぶれ山河のもみぢかくのごと紅かりしやとおどろき…

敗戦の記憶(1/3)

中国の詩人・杜甫は、757年の春、安禄山の乱に遭い長安に拘禁されていた時に、五言律詩「春望」を詠んだ。その冒頭に「国破れて山河在り」とある。古来、敗戦の詩歌によく引用される。 国やぶれて山河あり今宵さやかなる大空の月を仰ぐに堪えず 佐佐木信綱 …

原爆の記憶(9/9)

原爆忌昏れて空地に干されゐし洋傘(かうもり)が風にころがりまはる 塚本邦雄 被爆二世の手帳もつ嫁が二人目を妊りて暑き夏逝かんとす 東野典子 被爆時を満〇歳としるしたる手帳わが持つ持ちてゆくべし 管野多美子 炎天に出でゆく父のポケットの被爆者手帳見…

原爆の記憶(8/9)

母と子が炎中に崩れゆきしなる被爆の瓦われとつながる 山田あき 第七艦隊泊つる港の夕凪ぎよ恥じおそれなく原爆を積む 山田あき 原爆にただれし甍を掘りおこしまた夏来ると全身に受く 山田あき 天に二日(じつ)ありたる朝の凄じさ言ひし被爆者の声忘るなし 岡…

原爆の記憶(7/9)

惨劇を未(いま)だ引きずる兄ありて被爆のはなし禁句のわが家 西岡洋子 少女らは声透き徹り歌ふなり胎内被爆の運命(さだめ)を負ひて 米田律子 全身にガラスささりし被爆ピアノ 六十年へて旋律かなでる 影山美智子 すめろぎの訪ひまさば聞かせん被爆死者の声を…

原爆の記憶(6/9)

裁かるるものは誰かと崩れつつ原爆ドームは烈日に立つ 田中 要 胸内を深く突き刺し抜きあへぬ棘の痛みよ原爆ドーム 宮坂和子 眸(まみ)しばし力うしなう 洞ふかき原爆ドームに鳥入るを見て 江戸 雪 写真屋が笑えと言いて笑わざる顔一つあり原爆碑の前 橋本喜…

原爆の記憶(5/9)

鉄骨は原爆ドームの弧を保ち晩夏(ばんか)の青き空をいただく 葛原 繁 軽快に身をひるがへし燕飛ぶ原爆ドームの洞(うろ)よりいでて 葛原 繁 夏空のむなしき青さよみがへる原爆忌また八月十五日 葛原 繁 炭化せる遺体は宙に手をのべて原爆資料館の壁に動かず …

原爆の記憶(4/9)

救ひがたき人間の智がうみし死の灰といふ言葉かなしく 平井乙麿 死の灰をまじへてふるてふ梅雨のあめに濡るる草木と われと悲しき 尾上柴舟 無慚なる死の灰降らす天かなと首のべて池の亀が言ひたり 前川佐美雄 原爆をのろふ言葉の絶えしとき夜ふけの街の口笛…

原爆の記憶(3/9)

第一報は特殊爆弾次の日は原子爆弾と変りしも知る 宮地伸一 実験だつたといふ原爆に数多死せり二十世紀の罪に首垂る 山本かね子 原爆を投下せし兵八十余歳の死を報ずいのち全うしたり 山本かね子 原爆に影のみ遺したりし人の魂のかたちこの石の影 佐藤輝子 …

原爆の記憶(2/9)

怒りふるふ身を投げかけておもふとも 子をかばひがたし 原子雲のもとには 五島美代子 原子雲あがりし空を指して建つ三角柱のここに黒きかげ 吉野昌夫 とばされしその日の記憶いつの日までとどめ得む瓦礫と なりし天主堂 吉野昌夫 原爆の孤児のかなしき告白に…

原爆の記憶(1/9)

8月は日本にとって無残な記憶に支配されている。原爆であり敗戦である。73年も経てば風化して、国民みんなが共有する記憶も少なくなっている。このシリーズで、短歌に詠まれた原爆の記憶をたどってみたい。 被爆時刻告ぐるラジオの鐘の音よ癒えてことしはわ…

わが愛飲酒(続)

「2018-03-21 わが愛飲酒」の続きである。今回はラム酒について。 ラム酒と言えば、海賊や海軍兵など船員に特有の飲み物というイメージがある。それもそのはず、カリブ海の海賊たちの物語の中に登場する酒が言えばラムであった。種類は現在、100種ほどもある…

墓を詠む(8/8)

こころ語ることにもあらず行き連るる墓苑のさくらまた老樹なす 近藤芳美 家継がぬ吾をいさめし母と思ひ建てし墓処に雪淡く舞ふ 光山半弥 おだやかな陽に 小草と鎮まる墓地 今在ることを 踏みしめる。 井伊文子 暮れなずむ墓地に遍き晩夏光 生き行きて一基の…

墓を詠む(7/8)

五条坂三年坂より二年坂母の墓への坂暮れゆけり 高田和子 陽も射ささぬ小暗き道を栗の毬(いが)踏みて詣でぬ 実方(さねかた)の墓 神作光一 野の花の添ふ君が墓額づきて四十年後の心を供ふ 沢口芙美 思ひ出が悲しといって一年も母を墓場に訪はずにをった 青山…

墓を詠む(6/8)

叔母の死を弔ひに来し 村の墓。山ふところに陽はあたたかし 岡野弘彦 おん墓の静まる彼方竹群の秀(ほ)の上ゆるく鐘わたりゆく 若浜汐子 札幌の街並遠き墓に来て彼岸尺余の残雪を掘る 足立敏彦 人の祈りのかく咲きにけむ墓の辺の白彼岸花ふれがたく過ぐ 小野…

墓を詠む(5/8)

岐れ路に墓石並び蒲公英の咲く哀れさも旅なれば見つ 磯 幾造 墓石の裏も洗って気がねなく今夜の酒をいただいておる 山崎方代 一族がレンズに並ぶ墓石のかたわらに立つ母を囲みて 小高 賢 冬(ふゆ)日和(びより)野の墓原の赤土のしめりともしみ わがたもとほる…

墓を詠む(4/8)

若葉ぬれ窗ぬれ空気しめりくるこの雨に子の墓もぬれゐむ 五島美代子 墓買いに来し冬の町新しきわれの帽子を映す玻璃あり 寺山修司 墓買いにゆくと市電に揺られつつだれかの籠に桃匂いおり 寺山修司 蝶とまる木の墓をわが背丈越ゆ父の思想も超えつつあらん 寺…

墓を詠む(3/8)

わた中のかかる島にも人すみて家もありけり墓もありけり 佐佐木信綱 今日よりは旅びとならずいとし子のなつ子が墓をここにし持てば 窪田空穂 一つ墓碑に並べ刻める四つの名よ愛(かな)しきその名は皆わが書きし 窪田空穂 死はやすきものとし思ふ白々と墓おほ…

墓を詠む(2/8)

人の身は消えゆくならひ墓石にこもれるこころ我感(し)らむとす 鹿児島寿蔵 萩寺の萩おもしろし露の身のおくつきどころ此処と定めむ 落合直文 我が墓を訪ひ来む人は誰れ誰れと寝られぬままに数へつるかな 落合直文 我さへや遂に来ざらむ年月のいやさかりゆく…

墓を詠む(1/8)

お盆の時期になったことでもあり、お墓や墓地がどう詠まれてきたかを見てみたい。 墓(はか)の語源は、「はうる(葬)」と「か(処)」にある。古く上代では、奥津城(おくつき)と言い、奥都城とも書いた。「奥深い所にあって外部から遮られた境域」、「柩…

火星のうた

7月31日に火星が地球に最接近した。その距離5,759万キロメートル。2003年の最接近以来15年ぶりという。 火星は五行説に基づく呼び名で、中国の天文史料では熒惑(ケイコク、エイコク)といった。 その大接近は災いの前兆と考えられての命名という。同音の「…

うなぎ供養

今年の短歌人夏季集会は、浜松駅前のホテルで7月末の土、日に開催された。数日前から異常な経路をたどる台風に、参加をためらったが、日曜日の歌会のみに参加することでなんとか台風を避けることができた。台風が浜松に来るまでのわずかな時間を浜松城公園…

Shohei Ohtani(4)

7月23日から始まったエンジェルス対ホワイトソックスの4連戦。大谷翔平は第一戦では「6番・指名打者」で本塁打を打ったが、第二試合では左ピッチャーが先発したためベンチスタート。9回に代打で出るも三振。二試合ともエンジェルスは負けた。第三戦で…

現代歌枕の発掘(8/8)

最近のインターネットでは、Google Earth により、地球上のあらゆる場所にジャンプして、衛星画像、地図、地形、3D の建物を表示できるようになっている。映画やテレビの映像のように一方的に与えられるのではなく、使用者が自分で視点を設定し、三次元の地…

現代歌枕の発掘(7/8)

塚本邦雄に次ぐ世代では、小池光が地名に強い興味を示した。地名に歴史的背景を暗示する要素を入れると歌枕になるが、その例を彼の作品から二首を引いておく。 フィレンツェの衰弱とともにこの地上去りし光を春といはむか 『廃駅』 チェルノブイリ「石棺」の…