天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

俳句は取合せ(8/10)

結社誌「古志」2019年1月号の作品から うとうとと夢の中味も土用干 大谷弘至季語=土用干、取合せ語=夢の中味、連結語(とりはやし)=うとうとと土用干は虫干ともいう。その時期に夢の中味も土用干する、という発想が新鮮。ただ、連結語(とりはやし…

俳句は取合せ(7/10)

蕪村の「さみだれ」28句(続続) 閼伽棚(あかだな)に何の花ぞもさつきあめ季語=さつきあめ、取合せ語=何の花、連結語(とりはやし)=閼伽棚に閼伽棚は、仏前に供える花や水などを置く棚。句は、古今集の旋頭歌「うちわたす遠方人にもの申す我そのそこに白…

俳句は取合せ(6/10)

蕪村の「さみだれ」28句(続) さみだれや鳥羽の小路(こみち)を人の行(ゆく)季語=さみだれ、取合せ語=鳥羽の小路、連結語(とりはやし)=人の行ここに出て来る人は、旅人ではなく、田んぼを見回る百姓であろう。風雅集の歌「あやめ草引く人もなし山城の鳥…

俳句は取合せ(5/10)

蕪村の「さみだれ」28句 藤田真一・清登典子編『蕪村全句集』(おうふう)による。 ほぼ年代順にあげてみる。 五月雨や美豆(みづ)の寝覚の小家がち 季語=五月雨、取合せ語=美豆の寝覚、連結語(とりはやし)=寝覚の小家がち美豆は洛南淀の地名で、宇治川…

俳句は取合せ (4/10)

芭蕉の「さみだれ」13句(続) 五月雨の降残(ふりのこ)してや光堂(ひかりだう) 季語=五月雨、取合せ語=光堂、連結語(とりはやし)=降残して名紀行文「おくのほそ道」平泉の条に出てくる。この句の前に次の文章がある。「かねて耳驚かしたる二堂開帳す。…

俳句は取合せ (3/10)

芭蕉の「さみだれ」13句 堀信夫監修『芭蕉全句』(小学館)による。 ほぼ年代順にあげてみる。 五月雨に御物遠(おんものどほ)や月の顔 季語=五月雨、取合せ語=月の顔、連結語(とりはやし)=御物遠「御物遠」は「ごぶさた」を意味する挨拶言葉。五月雨の…

俳句は取合せ (2/10)

二物衝撃 取合せ(配合)では、一句の中で、二つの事物(主に、季語と別のモノ・コト)を取り合わせることで、両者に相乗効果を発揮させて、読者を感動に導く。読者にとって衝撃が大きいほど感動も大きくなる。 一句の構造を取合せの観点から分解すると、次…

俳句は取合せ(1/10)

はじめに 松尾芭蕉は、俳句の骨法を「発句は畢竟取合物とおもひ侍るべし。二ツ取合て、よくとりはやすを上手と云也」(許六の記録)と、簡潔に要約した。つまり俳句とは、二つのものを取り合せて作る文藝という。もともと俳諧連歌から派生したものなので、取…

天地(あめつち)は動くか (7/7)

終りに 和歌の時代には、為政者、武人までが歌を詠んだので、紀貫之が書いたように、やまと歌が天地(=世論・政治)を動かした例があるやも知れぬ。また近代短歌では、第二次世界大戦の敗戦にいたるまでに作られた夥しい数の戦意高揚歌は、国民を突き動かす…

天地(あめつち)は動くか (6/7)

『震災歌集』について この長谷川櫂の歌集には、全部で119首の短歌がある。作品全体に関わる特徴をあげると、旧仮名・文語体が基本。韻律については、正調(五七五七七)は30首にすぎず、他の89首は破調で75%もある。それも全て増音である。彼のやむにやま…

天地(あめつち)は動くか (5/7)

2011年の短歌甲子園には、震災復興の願いがこめられていた。作品はみな三行書きにしてある。石川啄木『一握の砂』の表記に倣ったようだ。 東北の空に 天使はうずくまる 「翼があっても奇跡は起きない」 気仙沼高・山内夏帆 奪われた 二万人から 託された 今…

天地(あめつち)は動くか (4/7)

一方、東日本大震災では、地震によって引き起こされた津波と東電の福島原発事故が、前二震災と比べて特異な事象であった。津波に関して「震災の歌~鎮魂と希望と」(NHK総合テレビ)から例を二首あげる。 火の海を燃えつつ沖へ流れゆく漁船数隻阿修羅とな…

天地(あめつち)は動くか (3/7)

さて短歌が発揮できる力は、短歌表現の多様性によって推し量ることができる。それは、次のような要素の組合せで顕現する。★言葉の選択(文語、口語、記号・数式・化学式を含む)★言葉の組合せ(一物仕立、二物衝撃、モンタージュ)★表記(仮名、漢字、外国語…

天地(あめつち)は動くか (2/7)

短歌の力 関東大震災の折、情況を詠むのに適した詩形について考えた歌人がいた。釈迢空と北原白秋である。釈迢空は、短歌様式の詠嘆をはがゆく感じて、短歌に近い別の四行の小曲に表そうとした。歌集『海やまのあひだ』(大正一四年五月、改造社刊)のあとが…

天地(あめつち)は動くか (1/7)

[注]機会詩〈短歌〉ノート(2017-10-09から6回) で、震災の短歌に少し触れたが、ここではそこに焦点を当てて幅を広げてみていく。震災を詠んだ短歌は、鬼神や天地をも感動させることができるか(古今集和歌集の仮名序によればできるはず)、それが表題の…

食う・飲むを詠む(6/6)

せき水に又衣手は濡れにけりふたむすびだにのまぬ心に 増 基 あさいでにきびの豊(とよ)御酒(みき)のみかへしいはじとすれど しひてかなしき 源 俊頼 秋の雨寂しき今日を友もなし海苔を火にあてて独りこそ飲め 大隈言道 夜の炉べに蜜をのみつつ眼つむれば幾百…

食う・飲むを詠む(5/6)

出でゆくと飯いそぎ食ふ弟を見れば立ち入りてもの言はざりき 五味保義 雉食へばましてしのばゆ再(ま)た娶りあかあかと冬も半裸のピカソ 塚本邦雄 仕残しの仕事を置きて旅に来つ落ち鮎の身を身に沁みて食う 佐佐木幸綱 君は食う豚足ざりがにゲバラの死金平糖…

食う・飲むを詠む(4/6)

食ひなづむ玉蜀黍(たうもろこし)粉(こ)やうやくに減りて今年の秋も深めり 柴生田 稔 み枕べ去らむとするを押しとどめ飯食ふさまを見よといはしぬ 岩津資雄 磯山の香にたつ松露を食はむとす北京放還のとも東京飢餓のわれ 坪野哲久 秋分のおはぎを食へば悲しか…

食う・飲むを詠む(3/6)

水(みづ)芥子(からし)冬のしげりを食ひ尽しのどかに次の伸びゆくを待つ 土屋文明 道に倒れし馬なりしことは後に知りき幼くて食ひしにくといふもの 土屋文明 何をして食ふかと村人の疑ふまでとどまりし彼の谷を忘れず 土屋文明 何が食ひたい言はれて答容易な…

食う・飲むを詠む(2/6)

わが盛りいたく降(くた)ちぬ雲に飛ぶ薬はむともまた変若(をち)めやも 万葉集・大伴旅人 柵越(くへご)しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛(かな)しも 万葉集・東歌 うつたへに鳥は喫(は)まねど縄(しめ)延(は)へて守(も)らまく欲しき 梅の花かも …

食う・飲むを詠む(1/6)

「食(く)う」には、食(た)べる、食(は)む などの変形がある。「はむ」は歯の動作の動詞形。他方、「飲む」は「のど(喉、飲門)」の同根語。 青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし 万葉集・笠沙弥 馬酔木なす栄えし君が掘りし井の石井(いはゐ…

俳句を詞書とする短歌(9/9)

あとがき 岡井隆の場合、詞書や注釈にも作品として主要な役割を与える方向に展開したようである。その究極の姿が、高見順賞を受賞した詩集『注釈する者』(2009年刊)であろう。俳句あり、短歌あり、鑑賞や注釈が散文詩の形式をとる。 藤原龍一郎は、俳句に…

俳句を詞書とする短歌(8/9)

『ジャダ』―鬱王― から四作品を。藤原によれば、「鬱王」一連は、赤尾兜子の俳句作品に対する反歌であるという。つまり短歌の部分は、俳句の意を反復・補足し、または要約する働きをする。更には、兜子への心寄せであり、俳句作品へのオマージュでもある。な…

俳句を詞書とする短歌(7/9)

藤原龍一郎の場合 岡井の例でも分るように、詞書にとる俳句には、他の俳人のものをもってくる場合と、自身の作品をもってくる場合とある。前者の徹底した例が藤原龍一郎の歌集にある。『楽園』(2006年刊)では、三橋敏雄の十句集から、全部で百句取り上げて…

俳句を詞書とする短歌(6/9)

歌集『X――述懐スル私』(2010年刊)「夏越なごめど」一連から。学者の言葉や俳諧を詞書としている。以下では、俳諧の場合を取りあげる。大変難しいシンフォニーである。 市中(いちなか)は物のにほひや夏の月 (凡兆) はいつて来る奴の死角につねに立つ訓練…

俳句を詞書とする短歌(5/9)

歌集『馴鹿時代今か来向かふ』(2004年刊)「葦のむかうに」一連から。詞書として岡井自身(隆)の俳句を付ける。 クローンの子孫さびしき花曇り (隆) 倫理への従順がむしろ新しくみえる未受精卵・核移植未受精卵から核移植によりクローンを作る研究が盛ん…

俳句を詞書とする短歌(4/9)

歌集『臓器』(2000年刊)「わたしの会つた俳人たち」一連から。〈さみだれを集めて早し最上川 芭蕉〉のアクロスティックとして、十七首とそれぞれによく知られた俳句を詞書に付けた。アクロスティックとは、折句(おりく)のこと。十七首の短歌の初字をつなげ…

俳句を詞書とする短歌(3/9)

以下では、意図的に組み合わされたと思われる俳句と短歌の一連を持つ歌集からいくつか例をとりあげて鑑賞を試みる。どのような交響があるのか、ギャップが大きく難解な場合も多い。歌集『神の仕事場』(1994年刊)「死者たちのために」一連から。 来し方や東…

新元号「令和」発表

閑話休題 新元号発表の日は、朝からテレビの前に陣取って、成り行きを見守った。フジテレビであったか、人とAIとで元号を予想していた。結果はいずれも外れていた。AIといえど人間が情報とアルゴリズムを与えるので、それが適切でなければ予想は外れる。…

俳句を詞書とする短歌(2/9)

[注意]このシリーズには、2017年8月17日から連載した「俳句と短歌の交響」というシリーズと重複する箇所があります。 岡井隆の場合 俳句を詞書にしている短歌は、読者にとっては、先ず俳句を読み、それを本歌として短歌ができたと思って、両方を鑑賞するの…