天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

蕪村俳句と比喩―直喩(4/4)

大仏や傘(からかさ)ほどの手向菊(たむけぎく) いもが子は鰒喰ふほどに成(なり)にけり 葉ざくらに類(たぐ)ふ樹も見ゆ山路哉 堀川の螢や鍛冶(かぢ)が火かとこそ 三椀の雑煮かゆるや長者ぶり うぐひすのあちこちとするや小家がち 乾鮭(からざけ)ものぼるけしき…

蕪村俳句と比喩―直喩(3/4)

飛(とび)かはすやたけごころや親雀*たけごころ: 猛々しくものおじしない心。句は、子雀を懸命に育てて飛び交う親雀の様子を詠んだもの。 我(わが)園(その)の真桑も盗むこころ哉 うつつなきつまみごころの胡蝶哉 襟にふく風あたらしきここちかな ゆく春やお…

蕪村俳句と比喩―直喩(2/4)

白梅やわすれ花にも似たる哉 裏枯(うらがれ)の木の間にも似たり後の月 *末枯れの木の間もそこに見える後の月も万物凋落の季節に向かう寂しさを感じさせる。 卯の花の夕べにも似よしかの声 枸杞垣の似たるに迷ふ都人 *京の人が洛外に家を訪ねて行って、どこ…

蕪村俳句と比喩―直喩(1/4)

直喩は、他のものにたとえて意味や雰囲気を表す時、類似を示すことば「ごとき」「ような」などを使用する修辞法。蕪村においては、「・・・がほ(皃、顔)」という例が多い。 歳旦をしたり皃(がほ)なる俳諧師*歳旦の句をしてやったりと得意満面でいる俳諧師…

蕪村俳句と比喩―はじめに

与謝蕪村の俳句の大きな特徴は、和漢の古典、能や狂言、伝説、諺などを背景に現実の情景をモディファイしているところにある。背景を読み取れないと俳句の鑑賞は無理なのである。前書きのある句も多いのだが、詳細に思い至るには相当の知識が必要。なお蕪村…

カポックと暮らす

カポックは、観葉植物のなかでも人気の品種。寒さや乾燥に強く、日陰でも育つ順応型の植物。このカポックの鉢植えの若木を転勤の際に社宅の知人から頂いた。その後何回か住む場所を変えたが、つねに連れてきた。ベランダに置いておく時期もあったが、室内に…

故郷を詠む(9/9)

古里はふるさと故に寂しさの限りなく湧くみなもとをもつ 築地正子 ふるさとの石鎚山系夕焼けて父のうた母のうた聞こゑくる 豊島未来 母の背に見しふるさとよ目つむれば雪の浄土のかがやきに充つ 伊藤俊郎 ふるさとよはげしき異郷なめくぢの背のひかりあふ廃…

故郷を詠む(8/9)

ものみなの青きふるさと老いてなほ親いますゆゑかなしきふるさと 岡野弘彦 山蒼きわがふるさとに帰りきて逢ふ人もなく家ごもりゐる 岡野弘彦*前の歌で詠んだ老いた父母もいなくなったふるさとに帰ってきて、家にこもっているのだ。 おおははの死にて久しき…

故郷を詠む(7/9)

たまさかに古里にかへり父母とおなじ家(や)にねつ寒き夜ごろを 半田良平*たまさかに: 偶然に。 榛原(はりはら)に鴉群れ啼く朝曇り故里さむくなりにけむかも 土田耕平*榛原: ハンノキ(山林中の湿地に自生し、高さ約17メートルの落葉高木)の生えている原…

故郷を詠む(6/9)

くれなゐの梅ちるなへに故郷につくしつみにし春し思ほゆ 正岡子規*病状が悪化し、もう庭を見ることもできなくなった子規に、伊藤左千夫が紅梅の下に土筆(つくし)を植えた盆栽を贈った。子規はその盆栽を見て、「紅梅下土筆」10首を詠んだ。その中の一首。 故…

故郷を詠む(5/9)

みし人もなき故郷よ散りまがふ花にもさぞな袖はぬるらむ 兼好*兼好はいろいろな場所に移り住んだので、この歌の故郷がどこを差すのか不明。概念的な感慨を詠んだ、と思える。 よもすがら声をぞはこぶ世々の人雲となりにし故郷の雨 正徹*よもすがら: 副詞…

故郷を詠む(4/9)

故郷のもとあらの小萩いたづらに見る人なしに咲きか散るらむ 新勅撰集・源実朝*もとあら: 根元や幹の方に葉や枝がまばらである様子。いたづらに: 存在・動作などが無益で役に立たない様子。 霞しくわがふる郷よさらぬだにむかしの跡は見ゆるものかは 新勅…

故郷を詠む(3/9)

忘れじとちぎりて出でしおもかげは見ゆらむものを故郷の月 新古今集・藤原良経*「お互いに忘れないと誓って旅立ったが、私の面影は古里の月にも映って見えているだろうに。(ちっとも便りが来ない。)」 吉野山花の古郷(ふるさと)あとたへてむなしき枝に春…

故郷を詠む(2/9)

同じくぞ雪つもるらむと思へども君ふる里はまづぞとはるる 後拾遺集・藤原道長 年をへて見る人もなきふる里にかはらぬ松ぞあるじならまし 後拾遺集・藤原俊方妻 道もなくつもれる雪に跡たえてふる里いかにさびしかるらむ 金葉集・皇后宮肥後 故郷は花こそい…

故郷を詠む(1/9)

故郷とは昔から関わりのある里のこと。➀自分の生まれ育った土地 ➁以前に住んでいた土地や家、よく訪れたことのある地 ➂古くなって荒れたところ、昔の都、古跡 ④留守宅 など。 印象に残るものには、花鳥風月、祖父母・父母、寂しさ・懐かしさ など。 こころゆ…

寒の戻りと開花

今年も気候の変動が激しくなりそうな予感がする。東京では雪のふる中に桜の開花宣言が出た。新型コロナウィルスの跳梁で、桜の名所での花見もままならない。 いつもの近所の庭園を散歩すると白木蓮が見事に咲いていた。道を進むにつれて、雪柳、馬酔木(あせ…

日本を詠む(2/2)

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄 マッチ擦るつかの間海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司 流氷の来る季(とき)北へ帰るもの祖国持たぬはむしろすがしく 清原日出夫 うら若き青春の日を日本に小学教師なせるわれは…

日本を詠む(1/2)

四世紀の中ごろ大和朝廷が全国統一をして、この国を「やまと「おほやまと」と称した。当時、中国はわが国を倭国と呼んだところから「倭(やまと)」の文字を当てた。日の出るところの意味で「日本」を国号に定めたのは、大化改新の頃という。美称として、豊葦…

国を詠む(3/3)

必ずやひとり老いゆく熟れし国遠くに置きて目を覆ひたり 斎藤すみ子 優勝をたたへ打ち振るなかに見つ<国>かかげざる簡浄の掌(て)を 岡崎康行 土も草も涸(か)れたるのちなお戦いて獲たる「自由」を国の名となす 香川 進*どこの国を差しているのだろう? 釘を…

国を詠む(2/3)

わが児よ父がうまれしこの国の海のひかりをしまし立ち見よ 古泉千樫 雹まじり苗代小田にふる雨のゆゆしくいたく郷土(くに)をし思ほゆ 古泉千樫 古へを恋ひつつ吉野の山を行く吾をゆるせり国ゆとりありて 土屋文明 国こぞり電話を呼べど亡びたりや大東京に声…

国を詠む(1/3)

国は一定区域をなす土地を表わす言葉で,歴史的には,さまざまの範囲を呼ぶのに用いられた。例えば古く『後漢書』に,1世紀の倭国に百余国があったと書かれている。大化改新を経て国郡制が成立。郡の上に国司の治める新たな国を置くこととし,日本全国は8世…

地球を詠む(3/3)

地球はラテン語で「テラ(terra)」という。ローマ神話に登場する女神の名「テラ(テルースとも)」に由来している。テラは「大地」という意味も含んでいる。 汚染せし地球吊り上げ焼くごとし雲より山を射る光帯は 秋葉静枝 ほのぼのと地球の水の昇りゐむ公園…

地球を詠む(2/3)

今夜(こよい)想う草木虫魚禽獣ら愛(は)しきいのちに地球は満てる 坪野哲久 青葉枯れて薄き酸素に死ぬ予告、ビル累々と地球遺跡の 小瀬洋喜 地球がその影をもて月を蔽へればわがゐる地(つち)は闇濃くなりぬ 上田三四二*月食(地球が太陽と月の間に入り、地球…

地球を詠む(1/3)

日本語の「地球」という単語は、中国語によるという。中国語の「地球」は明朝の西学東漸期に初めて見られ、イタリア人宣教師マテオ・リッチ(1552年-1610年)の『坤輿万国全図』がこの単語が使用された最初期の資料らしい。日本には、江戸時代にこの漢語が輸…

北原白秋の新生(9/9)

参考文献■『評伝北原白秋』薮田義雄、玉川大学出版部 ■歌集『雲母集』北原白秋、短歌新聞社■歌集『桐の花』北原白秋、短歌新聞社■歌集『黒檜』北原白秋、短歌新聞社■北原白秋歌集 高野公彦編、岩波文庫■『梁塵秘抄』佐佐木信綱編、岩波文庫■『閑吟集』浅野建…

北原白秋の新生(8/9)

白秋と茂吉 白秋と茂吉は相互に影響し合った。二人とも『梁塵秘抄』に学んだ点も共通している。茂吉の『赤光』発表当時、アララギ内部からは『赤光』所収の歌のかなりの部分は、杢太郎や白秋の模倣または影響であることを指弾する声が起こっていた。白秋の『…

北原白秋の新生(7/9)

その他の特徴ある修辞 これまでに取り上げなかった修辞として、オノマトペ、素材、人名・職業などにつき、代表的な言葉だけではあるが、三歌集『桐の花』、『雲母集』、『黒檜』で比較した結果を以下に示しておく。 ■オノマトペ 『桐の花』 あかあかと、しみ…

北原白秋の新生(6/9)

雨月物語 寂しさに秋成が書(ふみ)読みさして庭に出でたり白菊の花 父と弟が始めた魚仲買の仕事は失敗に終り、一家は白秋と俊子を残して東京に引上げた。白秋夫婦は、向ヶ崎の異人館から二町谷(ふたまちや)の見桃寺に居を移した。妻への愛情が父母との隔絶を…

北原白秋の新生(5/9)

富獄三十六景 北斎の天(てん)をうつ波なだれ落ちたちまち不二は消えてけるかも固有名詞「北斎」を入れた歌として、『雲母集』には他に次の二首がある。 北斎の蓑と笠とが時をりに投網(とあみ)ひろぐるふる雨の中 とま舟の苫はねのけて北斎の翁(おぢ)が顔出す…

北原白秋の新生(4/9)

梁塵秘抄と閑吟集(続) 次に『閑吟集』からの摂取がある。『閑吟集』は、周知のように室町時代の小歌集で、永正十五年八月の頃に出た。洗練された構成で、小歌節にのりやすい七五調を連ねた長短自在な様式が多い。『雲母集』の例として、『閑吟集』にある “…