天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

(閑話休題) アザミは、キク科アザミ属及びそれに類する植物の総称。葉は深い切れ込みがあるものが多い。また葉や総苞にトゲが多く、さわると痛い。スコットランドでは、そのトゲによって外敵から国土を守ったとされ国花となっている。花言葉は「独立、報復…

衣のうたー袖・袂・襟(11/11)

襟は、衿,領とも書くが、首のまわりを取巻く衣服の部分の名称である。また「胸の中、心の中」という意味を持つ場合がある。熟語にも「襟を正す」「胸襟を開く」などと象徴的な意味を表す用法もある。 染むれども散らぬ袂にしぐれ来てなほ色深き神無月かな …

衣のうたー袖・袂・襟(10/11)

かりに来(く)と聞くに心の見えぬればわがたもとにはよせじとぞ思ふ 金玉集・伊勢*「狩に来ると聞くと、あれかと心が見えてしまうので、わが手もとには寄せ付けまいと思う。」 涙にも波にもぬるる袂かなおのが舟々(ふねぶね)なりぬと思へば 和泉式部 唐ころ…

衣のうたー袖・袂・襟(9/11)

袂(たもと)(手本)は、和服の袖の、袖付けより下の垂れ下がった部分を差す。 帰るべく時は成りけり都にて誰(た)が手本(たもと)をかわが枕かむ 万葉集・大伴旅人*「還るべき時は来たが都にていったい誰の腕を私は枕にしようか。」 秋立ちて幾日(いくか)もあ…

衣のうたー袖・袂・襟(8/11)

陰くらき軒のした荻おと更(ふけ)て月待袖(つきまつそで)にあきかぜぞ吹く 冷泉政為*上句、特に「おと更(ふけ)て」の意味が不可解。冷泉政為は室町後期の歌人・公卿。下冷泉家。 貝拾ふ少女が袖のうらみれば沖にもかすむ朱のそほぶね 千種有功*そほぶね: …

衣のうたー袖・袂・襟(7/11)

いづくにていかなることを思ひつつ今宵の月に袖しぼるらむ 建礼門院右京大夫*「あの人はどこでどんなことを思いながら、今宵の月を眺め、涙で濡れた袖をしぼっているのだろうか。」 松が根を磯辺の浪のうつたへにあらはれぬべき袖のうへかな 新勅撰集・藤原…

衣のうたー袖・袂・襟(6/11)

立田山秋行く人の袖を見よ木木のこずゑはしぐれざりけり 新古今集・慈円 わきてなど庵もるそでのしをるらむ稲葉にかぎる秋の風かは 新古今集・慈円*「とりわけどうして田の庵を守る私の袖だけがぐっしょりとなるのだろう。稲葉に限って吹く秋風ではないであ…

衣のうたー袖・袂・襟(5/11)

沢に生ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖はぬれけり 新古今集・藤原俊成*「沢に生える若菜ではないが、むだに年をつむほどにこの袖は濡れてしまったことだ。」(新日本古典文学大系より) 春ごとに心をしむる花の枝に誰がなほざりのそでか触れつる …

衣のうたー袖・袂・襟(4/11)

契りきなかたみに袖をしぼりつつすゑの松山なみこさじとは 後拾遺集・清原元輔*「約束したのにね、お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。末の松山を波が越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと。」 恨みわびほさぬ袖だにある…

衣のうたー袖・袂・襟(3/11)

おろかなる涙ぞ袖に玉はなす我はせきあへずたきつ瀬なれば 古今集・小野小町*「玉になるぐらいの涙なら大した事はありません。私の方は堰き止められないほどの激流になっていますよ。」 わが袖にまだきしぐれのふりぬるは君がこころにあきやきぬらむ 古今集…

衣のうたー袖・袂・襟(2/11)

袖ひちてむすびし水の氷れるを春立つ今日の風やとくらむ 古今集・紀 貫之 春ごとにながるる川を花と見て折られぬ水に袖やぬれなむ 古今集・伊勢*「春が来るたびに流れる川に映る梅を本物の花と見て、手折ろうとして折れない水で袖が濡れてしまうでしょうか…

衣のうたー袖・袂・襟(1/11)

袖は着物の両腕を覆う部分。古くから袖のしぐさは、人の心を表し露や涙を連想させた。現代でも歌舞伎や講談のしぐさに見られる。古典和歌に袖を詠んだ作品は極めて多い。わけても古今集、新古今集に目立つ。「袖」は古典和歌の典型的なうた言葉であった。 采…

衣のうたー帯・紐(3/3)

紐は糸より太く、帯や綱よりも細いものをさす。紐の語源は、「引く」「捻る」と同根という。 難波津に御船(みふね)泊(は)てぬと聞え来(こ)ば紐解き放(さ)けて立(たち)走(ばし)りせむ 万葉集・山上憶良*「難波津に帰朝の船が到着したと聞いたならば、着物の…

衣のうたー帯・紐(2/3)

夏の帯砂(いさご)のうへにながながと解きてかこちぬ身さへ細ると 吉井 勇*かこつ: 不満、ぐちを言う。夏帯をしていると身さえ細ってしまう、と愚痴ったのだ。それでなくとも夏痩せするのに。 朝なればさやらさやらに君が帯むすぶひびきのかなしかりけり 古…

衣のうたー帯・紐(1/2)

帯は、着物の上から腰の上に巻いて結ぶことで、着物を体に固定させる幅広紐状の装身具。その始まりの形態は、未開社会において裸体に腰紐のみを巻き、そこに狩猟で用いる道具を挿していたことであろう。ちなみに帯には、多種多様な派生語、転義語がある。例…

衣のうたー背広・喪服

背広は、男性用の上着で、折襟カラーと呼ばれる襟を持ち、着丈が腰丈のもの。また、この上着と共布のズボンからなる一揃いのスーツを差すことも。もちろん西洋伝来のものである。明治維新を機に広まった。 喪服は、葬儀や法事などの際に着用する礼服で、まれ…

衣のうたー和服(3/3)

甚平は「甚兵衛羽織」の略。名前の由来は、諸説あるようだ。丈が短く、袖に袂がなくて衿と身頃(上衣の胴部を包む部分)につけた付け紐は、右を表左は裏側で結び、ふつうの和服のように右前に着る。 丹前は、防寒のための部屋着の一種。厚く綿を入れた広袖 (…

衣のうたー和服(2/3)

袷(あわせ)とは、単衣(ひとえ)に対し、表布と裏布とをあわせ、1枚の布のように仕立てた衣服をいう。秋から春先にかけて用いる。 袷には下着重ねよとうるさく言ふ者もなくなりぬ素直に着よう 土屋文明 夏衣粋紗(すいしや)のすそをひるがへしわれは女(め)な…

衣のうたー和服(1/3)

和服という言葉は、明治時代に西洋の衣服である洋服に対するものとして、従来の日本の衣服を表す語として生まれた。それ以前は昔から着物といった。 和服きて今日うつくしとわれ思ふバスより降りて歩み来れり 柴生田稔*和服の女性と待ち合わせていたのだ。 …

俣三郎は芝刈りロボット

去る5月27日の「自動車ロボット」のところで、俣野別邸庭園の俣三郎というロボットについて、遠隔無線操縦なのか自走なのか、いずれ事務所に聞いてみよう、と書いた。その機会がやってきた。晴天の日曜日に件の庭園に散歩に行ったら、都合よく事務員の女性が…

卯の花(4/4)

卯の花の垣根たづねてほととぎす今宵は来鳴け月もさやけし 木下幸文 岡越の切通したるつくり道うの花さけりみぎにひだりに 井上文雄 卯の花は咲きにけらしな稀にとふ都の人の袖と見るまで 加藤千蔭 風脚にしらじらなびく若葉山うつぎの花はすぎにたるらし 土…

卯の花(3/4)

雪のいろをぬすみて咲ける卯の花はさえでや人に疑はるらむ 詞花集・源 俊頼*「雪の色を盗んで咲いた卯の花は、冷たくないから人に疑われるだろう。」 むらむらに咲けるかきねの卯の花は木の間の月のここちこそすれ 千載集・藤原顕輔 ゆふ月夜ほのめくかげも…

卯の花(2/4)

わがやどのかきねや春を隔つらむ夏来にけりと見ゆる卯の花 拾遺集・源 順*「我が家の庭の垣根は今ちょうど春を分け隔てているのだろう。夏が来たよと生垣の卯の花が教えてくれているように見える。」 山がつのかきねに咲ける卯の花はたがしろたへの衣かけし…

卯の花(1/4)

卯の花については、2007年5月30日、2011年5月26日、2012年5月17日 のブログでも取り上げているので、それらとは重複しない作品をあげた。 卯の花は、幹が中空なのでウツギとも呼ぶ。初夏に白い五弁の花が穂をなして咲く。箱根うつぎの花は、白、紅、紫 と多…

友を詠む(7/7)

気障なりし面影もなく杖による友の繰り言なだめつつきく 丸山郁子*気障(きざ): 「きざわ(気障)り」の略。服装や言動などが気どっていて嫌な感じをもたせること。 年積みて穏しくなりと思ふ友長く話せば以前と同じ 東野典子*穏(おだ)し: おだやかだ、…

友を詠む(6/7)

信頼を温めながら酌む友の寡黙をほぐす酒をまた注ぐ 吉田秋陽 死顔を見られたくないと言ひし友それよりはやく過ぎし幾とせ 清水房雄 この友とも老を嘆きあふいとま無く歌会果つれば相別れゆく 清水房雄 かむりきの峠の駅はわが友が駅長にて萩の花植ゑし駅 斎…

友を詠む(5/7)

たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき 橘 曙覧 雨荒く降り来し夜更け酔い果てて寝んとす友よ明日あらば明日 佐佐木幸綱 俺は帰るぞ俺の明日(あした)へ 黄金の疲れに眠る友よおやすみ 佐佐木幸綱 友達として書きかはす手紙には空のこと海の…

友を詠む(4/7)

貧生涯ただいちにんの侶たりき吾妻のいのち死なしめざらむ 坪野哲久*吾妻とは6歳上の歌人・山田あきのこと。 戦争に君を死なしめざらむとす友の多くが今夜(こよひ)つどふも 高田浪吉 歯ぎしりの時期を糧ともなしながら得し友遂に去りゆきし友 水野昌雄 心弱…

友を詠む(3/7)

酒飲めば酔ひてたのしくなる友にひとり飲ましめ我は飯食ふ 窪田空穂 凩(こがらし)を聴きておもふはすでに亡き友啄木がありし日のこと 吉井 勇 よき友にたより吾がせむこの庭の野菊の花ははや咲きにけり 古泉千樫 友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来…

友を詠む(2/7)

やま里にうき世いとはむ友もがなくやしく過ぎしむかし語らむ 新古今集・西行 ながむるに慰むことはなけれども月を友にてあかす比(ころ)かな 新後撰集・西行 ありあけの月よりほかに誰をかはやま路の友とちぎり置くべき 新古今集・寂超 とまるべきやどさへみ…