天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

食のうたー櫂未知子『食の一句』(1/6)

櫂未知子『食の一句』(ふらんす堂)は、2003年1月1日から12月31日の間、食の句を一日一句取り上げた本である。その「あとがき」に次の一節があり、作者の考えが分かる。 「俳句は、食べ物が作品のメインになり得る稀有な詩型である。「食べる」というごく日…

食のうたー食器(2/2)

ゆえしらぬ涙は下る朝の日が茶碗の中のめしを照らせる 山崎方代 かたわらの土瓶もすでに眠りおる淋しいことにけじめはないよ 山崎方代 こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり 山崎方代 *作者の代表歌としてよく知られる。鎌倉瑞泉寺門…

食のうたー食器(1/2)

鍋、椀(もひ)、荀(け)、皿、包丁、土瓶、茶碗、膳、匙、グラス など。日本人の食生活では、鍋が基本的な調理用具だった。 椀(もひ): 水を盛る器。 荀(け): 物を入れる器。食物を盛る「飯(いひ)荀(け)」をいうことが多い。 下野三毳(しもつけのみかも)の山…

食のうたー菓子・スイーツ(4/4)

この秋はせんべいを焼くどんづまりわが血を濃くし生きねばならず 坪野哲久 *せんべい: 小麦粉に卵・砂糖・水などを加えて溶いて焼いた瓦煎餅と、米の粉をこねて薄くのばし、醤油や塩で味つけして焼いた塩煎餅とがある。 せんべいを焼きて凌ぎし昨日(きぞ)…

食のうたー菓子・スイーツ(3/4)

失恋の<われ>をしばらく刑に処す アイスクリーム断(だ)ちという刑 村木道彦 ゆふぐれの雨明るけれ氷菓にも蛇にも見放されつつ歩む 水原紫苑 *氷菓(ひょうか): アイスクリーム、シャーベットなど、氷菓子の類。下句に唐突に蛇がでてくるところが面白い。実…

食のうたー菓子・スイーツ(2/4)

一つありし求肥(ぎうひ)を食ひて くきやかに<無>があらはるる夜の白き皿 高野公彦 *求肥: 和菓子の材料のひとつで、白玉粉または餅粉に砂糖や水飴を加えて練りあげたもの。 幼らの丸く整へし草餅の大小は掌の大小にして 東野典子 ひざに置く信玄餅はしんみ…

食のうたー菓子・スイーツ(1/4)

菓子は、古くは果物や木の実の総称であった。ふつう米・小麦・豆などを主材料とし、砂糖・乳製品・鶏卵・油脂・香料などを加えて作る。和菓子と洋菓子に分けられる。言うまでもなく日本の伝統的な菓子が和菓子である。生菓子と干菓子に分けられる。餅菓子、…

絞め殺しの木(続)

(閑話休題) 2017年5月27日の項にご紹介した木のその後のことである。当時は、「藤(八重黒龍という)はまだ元気に生きているが、根方から枝先まで巻き付かれているので、あとどれほど生きられるか分らない。」と書いたが、現在は藤は文字通り絞め殺されて…

食のうたー水、お茶、コーヒー(6/6)

雪の来るけはひの空を見はるかしレイアウト室に珈琲をのむ 篠 弘 注文はいつも二つのアメリカン 相思相殺かもしれないね 俵 万智 *アメリカン: アメリカン・コーヒーの略。浅煎りの豆を使用した薄めのコーヒー。 シュガー抜き朝のコーヒー一杯がひと日を決…

食のうたー水、お茶、コーヒー(5/6)

コーヒー(珈琲)は有史以前から利用されていたらしいが、現在見られる「焙煎した豆から抽出したコーヒー」が登場したのは13世紀以降らしい。 掌(て)のうちに包みて啜るコーヒーの朝さしあたり迫る声なく 岡井 隆 君去りしけざむい朝(あした) 挽く豆のキリマ…

食のうたー水、お茶、コーヒー(4/6)

茶の原産地は中国で、喫茶の風習が始まったのは古く、その時期は不明。「茶」という字が成立し全国的に通用するようになったのは唐代になってからだという。日本の茶は、805年に唐より帰国した最澄が茶の種子を持ち帰り、比叡山山麓の坂本に植えたことにはじ…

食のうたー水、お茶、コーヒー(3/6)

<自然水>買ひて巷をあゆむとき西方十万(じふまん)億土(おくど)赤しも 高野公彦 *<自然水>: 株式会社サーフビバレッジが販売するボトル詰めの国産の軟水。 大きなる鍋のなかにて熱せられふつふつと嗤ひはじめたる水 田村美智代 一息に喉すべりゆく長月のコ…

食のうたー水、お茶、コーヒー(2/6)

一杯の水をしんじつ冷たしと飲みゐるときにこの救あり 遠山光栄 朝明けとなりゆくひかり人おりて硝子器より硝子器に水移しゐる 真鍋美恵子 夜半ながら起きて一杯の水を飲むある係累を断つ思ひにて 佐藤通雅 暗がりに水求めきて生けるともなき肉塊を踏みてお…

食のうたー水、お茶、コーヒー(1/6)

酒類についてはすでに取り上げているので、ここでは省略する。 水は生命の根源である。古代中国の五行説では、万物は木・火・土・金・水の5種類の元素から成るとされた。 鈴が音(ね)の早馬(はゆま)駅家(うまや)の堤(つつみ)井(ゐ)の水をたまへな 妹(いも)が…

食のうたー果物(7/7)

ブドウの栽培化の歴史は古く、紀元前3000年頃には原産地であるコーカサス地方やカスピ海沿岸ですでにヨーロッパブドウの栽培が開始されていた。原産地から東へと伝播したものは、紀元前2世紀には中国に到達した。日本で古くから栽培されている甲州種は、中国…

食のうたー果物(6/7)

まくわ瓜は、ウリ科キュウリ属のつる性一年草。メロンの一変種で南アジア原産。 メロンの原産地はインドということが遺伝子研究により裏付けられた。紀元前2000年頃に栽培が始まった、という。日本では中世の考古遺跡から炭化種子が検出されている。 レモン…

食のうたー果物(5/7)

北半球では古くから各地で野生イチゴの採集と利用が行われていたが、日本には江戸時代にオランダ人によってもたらされた。イチゴが一般市民に普及したのは1800年代であり、本格的に栽培されたのは明治5年から、という(百科事典による)。 蛇いちごは、蛇の…

食のうたー果物(5/7)

北半球では古くから各地で野生イチゴの採集と利用が行われていたが、日本には江戸時代にオランダ人によってもたらされた。イチゴが一般市民に普及したのは1800年代であり、本格的に栽培されたのは明治5年から、という(百科事典による)。 蛇いちごは、蛇の…

食のうたー果物(4/7)

蜜柑は、ミカン科の常緑有刺低木またはその果実の総称で、ウンシュウミカン、キシュウミカンなど多くの品種がある。中国から伝わったものが、和歌山や静岡に移植され、種類も増えた。 無花果(いちじく)は、クワ科イチジク属の落葉高木またその果実。アラビア…

食のうたー果物(3/7)

林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹またその果実。原産地は北部コーカサス地方が有力という。品種改良が盛んで、世界では7500以上の品種が栽培されているらしい。 林檎かみぬ十月の朝庭の木の風鳴るをきき柱によりて 前田夕暮 顔ぢゆうを口となしつつ双手し…

食のうたー果物(2/7)

桃はバラ科モモ属の落葉小高木、またその果実で中国が原産地。世界各地で栽培されている。白桃は、水蜜桃(すいみつとう)の一品種で、果肉が白く多汁で甘味が強い。明治三四年、岡山県の大久保重五郎によって発見されたという。 岡山の大いなる桃皮むけばし…

食のうたー果物(1/7)

梨には、和なし(日本なし)、中国なし、洋なし(西洋なし)の3種がある。日本語で単に「梨」と言うと通常は和なしを指す。もとは中国が原産。 汁たるる梨食ひ終へぬひたすらに寂しきものか妻と在ることの 小暮正次 男なる鬱を抱きて帰り来つ梨むく妻へ梨食…

食のうたー調味料(2/2)

酢は、有史以前、人間が醸造を行うようになると同時期に作られたという。現代でも穀物や果実を原料にした醸造酒を酢酸菌で酢酸発酵して得る。 快く砂糖の角の溶けてゆく紅茶を見つつものはおもはず 尾上柴舟 冬ごもる蜂のごとくにある時は一塊の糖にすがらん…

食のうたー調味料(1/2)

塩は、塩化ナトリウムを主な成分とし、海水の乾燥・岩塩の採掘などによって生産される。調味料や保存などの目的で食品に使用される。 わが国の製塩法は、万葉集に「藻塩焼く」「玉藻刈る」などと枕詞になっている。海から海藻を採って天日で乾かし何度も海水…

食のうたー野菜(3/3)

村の子は、 大きとまとを かじり居り。 手に持ちあまる 青き その実を 釈 迢空 妻の前のすべすべしたる白き皿トマトを食へば水が残りぬ 松村英一 肌色の温室トマト剥きて待つ鎮咳剤の効かむ頃ほひ 滝沢 亘 *滝沢亘は、少年期より肺病と闘い、サナトリウムに…

食のうたー野菜(2/3)

ほつりほつり落花生の実をはみながら子供のことを思うてはゐる 前田夕暮 とろとろに摩られし豆がつづけざまに石臼より白くしたたりにけり 佐藤佐太郎 蚕豆(そらまめ)を皿に弾(は)じきて新しき季節を喰(く)らふこの簡素はも 吉植庄亮 *蚕豆は、マメ科の一年…

食のうたー野菜(1/3)

このシリーズでは野菜、果物、魚介は食べるときの状況を詠んだ歌に限る。 芋(いも、うも)の種類は多い。里芋、馬鈴薯あるいはじゃがいも、山藷あるいは自然薯あるいはとろろ芋、甘藷あるいはサツマイモ 等々。 葱はユリ科の多年草で、中央アジア原産。「ね…

食のうたー肉(2/2)

塩ふりて牛舌(タン)を焼きいる吾等二人 子を成せしなり若かりしかば 須藤若江 鴨を焼く炭火の匂ひ幾年ぶりか心のなごむ今のわが思ひ 大河原惇行 寒き夜肉焼きて食ひ酒のめり生まれて、食ひて、生きて、老いて、去る 高野公彦 冷蔵庫に五ポンドの肉を蔵(しま)…

食のうたー肉(1/2)

日本では古来、狩猟で得た獣(シカ、イノシシ、ウサギ、野鳥など)の肉は食べていた。食用に家畜を育てる習慣はなかった。仏教伝来以降は、獣肉全般が敬遠されるようになっていった。明治時代になって、牛肉を食べることが文明開化の象徴と考えられ、牛肉を…

食のうたー蕎麦、うどん、ラーメン(3/3)

ラーメン: 中華麺とスープを主とし、様々な具(チャーシュー、メンマ、味付け玉子、刻み葱、海苔など)を組み合わせた麺料理。日本への伝播としては、明治時代を迎え神戸や横浜などの港町に中華街が誕生し、そこで提供された南京そばに始まるとされる。(参…