天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

島を詠む(1/3)

島とは、通常、周囲が水で囲まれている陸地のことであるが、時に仲間内の勢力範囲などを意味する。なお山斎や林泉を「しま」と読むが、これらは泉水や築山のある庭園をさす。 荒磯(ありそ)ゆもまして思へや玉の浦の離れ小島(こじま)の夢(いめ)にし見ゆる 万…

刃物を詠む(8/8)

鎌 金属の象形である「金」偏と「並んだ稲を合わせて手につかむ」象形である右偏「兼」とで機能を表現している漢字。 雨の中の草を刈り来て鎌さしにさしたる鎌が雫を垂らす 松井 保 葱坊主の首刈る利鎌ひらひらと遠稲妻もみちびく夕べ 波汐國芳 *利鎌(とが…

刃物を詠む(7/8)

剃刀 ひいやりと剃刀ひとつ落ちてあり鶏頭の花黄なる庭さき 北原白秋 めん鶏(どり)ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり 斎藤茂吉 *歌集『赤光』の代表作品。剃刀研人は茂吉の造語らしい。一首にラ行音が響いている。 見るため…

刃物を詠む(6/8)

鋏 鋏刀(はさみ)もつ髪刈人(かみかりびと)は蚊の居れどおのれ螫(さ)さねば 打たむともせず 長塚 節 狼藉(ろうぜき)の几(つくえ)の上に見あたらぬ鋏をさがす今日も夜ふけて 木俣 修 錐(きり)・鋏光れるものは筆差(ふでさし)に静かなるかな雪つもる夜を 宮 柊…

刃物を詠む(5/8)

ナイフ 磨きたての細刃(ほそば)のナイフ物清く割(さ)きて匂(にほ)はすさながらの君 尾上柴舟 *君の性格を「匂はす」までの長い詩句で形容したのだろう。 尋常のおどけならむやナイフ持ち死ぬまねをするその顔その顔 石川啄木 研ぎあげしナイフ一振り水張田…

刃物を詠む(4/8)

包丁 漢語では「包」は肉を包んでおく場所で「台所」を意味し、「丁」はその仕事に従事する人や使用人を意味する。「包丁」は料理人一般をさすようになり、やがて料理に使う刃物を包丁と呼ぶようになった。(百科辞典) 取り落としし包丁が床に突き立てりお…

刃物を詠む(3/8)

斧(おの) 斧は石器時代より、石斧(せきふ)として存在し、樹木をたたき切る道具や武器として用いられた。石斧はその製法により打製石斧と磨製石斧に分けられる。技術の発達に連れ、銅、青銅、鉄および鋼で作られた斧が現われた。(百科事典) この野の仏い…

刃物を詠む(2/8)

剣大刀(続き) 剣もて人をきる身のはてやただしでの山路の杣木ならまし 心敬 *しでの山路: 死出の山の険しい山路。 杣木: 燃料などにする雑木、たきぎ。 「剣で人を切る人間の行く果ては、ただ死出の山の険しい山路にある薪であってほしい。」 緋(ひ)威(を…

刃物を詠む(1/8)

剣大刀(つるぎたち) 片刃の物を刀。両刃であるものを剣と呼びそれらひっくるめて剣と呼ぶことが多い。 太刀: 平安時代から戦国時代にかけて一般的に使用された日本刀の一種。その語源は「断ち」から来ていると言われる。太刀は馬に乗ることができる身分の高…

汗のうた(3/3)

一日を共に働きし馬の背に流れし汗の塩かたまれる 石川不二子 若ければ臼ひく腰の官能に汗ばみながら踊りあかさむ 春日井建 *上句が鑑賞しにくい。臼をひく時の腰に感じる官能?!。エロティックな感覚か。 ジャージーの汗滲むボール横抱きに吾駆けぬけよ吾…

汗のうた(2/3)

汗かきて土用の入りの今日すがし皇軍(すめらみいくさ)火ぶた切ったり 川田 順 *皇軍: 天皇が統率する軍隊。もと、日本の陸海軍を称した。 往来(わうらい)に馬をとどめて荷を下(お)ろす人の汗にほふ家の中まで 三ヶ島葭子 命ありて朝をむかへし妻あはれ髪の…

汗のうた(1/3)

汗は、哺乳類が皮膚の汗腺から分泌する液体。皮膚表面からの汗の蒸発には、気化熱による冷却効果がある。気温の高い時や、運動により個体の筋肉が熱くなっている時には、より多くの汗が分泌され、体温を一定に保つような働きをする。主成分は、塩分、尿酸、…

歌麿とは(4/4)

52歳になったころに、美人画ではなく「絵本太閤記」に取材した作品による思わぬ筆禍事件で、手鎖50日という重い刑を受けてしまう。その後復活するものの、画力は衰え意欲も失した歌麿は54歳で、かつて大人気を博した絵師とは思えない寂しい最期を迎えた。 爪…

歌麿とは(3/4)

幕府は浮世絵が風紀を乱すものと考え、老中・松平定信による寛政の改革によって、美人画に遊女以外の名を記すことが禁じられる。寛政12(1800)年に美人大首絵の制作が禁じられると半身像や3人組を描き、取り締まりの裏をかいた工夫を次々に発表した。 ぬば…

歌麿とは(2/4)

版元蔦屋重三郎にその才能を見いだされ,蔦屋の専属絵師の形で狂歌絵本や美人錦絵などを世に送り出し、次第に頭角をあらわしてくる。歌麿の美人画では、その大半が吉原や遊女に取材した作品であることもその作画人生を特徴づける。 裏白の葉の叢に胴うねる蜥…

歌麿とは(1/4)

たまたま喜多川歌麿に関する本を入手したので、歌に詠んでみたくなった。彼の生涯については、各種百科事典を参照・引用した。 歌麿は、1753〜1806(宝暦3年〜文化3年)美人画の代名詞的な浮世絵師。当初は黄表紙や洒落本などの挿絵を描く。ついで役者の大首絵…

将棋

将棋の起源は、紀元前2000年ごろの古代インドのゲーム「チャトランガ」で、そこから世界各地に伝わったといわれている。 目を病める人は将棋の半にて昼あつき部屋に電燈を点(つ)く 土屋文明 レーニンもカールマルクスもともどもに将棋好みしといふは面白し …

囲碁

囲碁のはじまりは、四千年ぐらい前の中国と言われている。紀元前770~前221年ころ春秋・戦国時代には、囲碁は戦略、政治、人生のシミュレーションゲームとして広まったらしい。 ふるさとは見しごともあらず斧の柄の朽ちしところぞ悲しかりける 古今集・紀 友…

仏を詠む(6/6)

天竺からみれば第三セクターのやうな大和のほとけほほゑむ 馬場あき子 *天竺: インドをさす中国での古称。日本では,インドは古来から明治にいたるまでこの呼称で呼ばれ,ブッダの生れた国として親しまれた。(百科事典から) 雨深き夜詣(まう)で来(き)ぬ …

仏を詠む(5/6)

太古より国の崎なるふるさとにみ仏よおはしませこの憂き世ゆゑ 田山 伸 *「国の崎なるふるさと」とは、紀伊半島および志摩半島の最東端に位置する三重県鳥羽市の国崎町を指すのだろうか? 古代より、伊勢神宮に奉納する熨斗鮑(のしあわび)をはじめとする…

仏を詠む(4/6)

砂の上に濡れしひとでが乾きゆく仏陀もいまだ生れざりし世よ 岡部桂一郎 会者定離愛別離苦とみ仏はほんとのことを告(の)らして術(すべ)なし 中原綾子 *会者定離: 出会った人とは、いつかは必ず別れるという苦しみがある。 愛別離苦: この世には、愛するも…

仏を詠む(3/6)

頭おさへ悶(もだ)え泣(なき)する仏あれば大声あげて泣く仏あり 川田 順 くろぐろと仏まろべり薄き日のただよふ床(ゆか)のむしろの上に 川田 順 網の目に閻(えん)浮(ぶ)檀(だ)金(ごん)の仏ゐて光りかがやく秋の夕ぐれ 北原白秋 *閻浮檀金: 仏教の経典中にし…

仏を詠む(2/6)

仏にはいくつかの種類がある。仏を分類すると、如来、菩薩、明王、天部、その他となる。仏に1位、2位、3位、と言うような上下関係はない。役割の違い。 如来(にょらい): 仏教の目標地点である悟りの境地に至った者 菩薩(ぼさつ): 悟りに至るために精進…

仏を詠む(1/6)

仏の意味を「世界大百科事典 第2版の解説」から以下に引用しておく。 サンスクリットbuddhaの音訳〈仏陀〉の略語で,〈如来〉の語とともに仏陀を指す普遍的な用語である。したがって仏陀の教説が仏教であり,仏陀の像が仏像である。この意味では仏は仏教を…

思想(5/5)

思想とはかくも無言に泥流に押し戻されているひとつ舟 石田比呂志 蝉木立ぬけて来たれば思想よりせつなき飢ゑをわれはもたざり 萩岡良博 *鳴きしきる蝉の木立を抜けてきて、自分にとっての思想の大切さを痛感したのだ。 ユニットバス膝を抱えて君は言う「も…

思想(4/5)

酔うほどの思想は持たず僧形に若葉の朝の庭掃いている 大下一真 *作者は、臨済宗円覚寺派の僧侶で鎌倉瑞泉寺の住職。 ことろ子奪(と)ろ。どの子もやれぬ。戦争を避くる思想は育たぬものか 新井貞子 思想と信条ゆゑの差別はせずといふ仮面は今もはづすことな…

思想(3/5)

ツアラッストラに次ぐ若き思想あれ錯迷(さくめい)に苦しみし一人の鎮魂のため 竹内邦雄 *ツアラッストラ: ニーチェの主著『ツァラトゥストラはかく語りき』 (1883‐85)の略称また主人公の名。古代ペルシアの予言者ゾロアスターの言行に仮託して〈超人〉〈永…

思想(2/5)

文字の羅列は思想でないとおもふとき明快な思想のうしろ姿をみた 西村陽吉 *「明快な思想」は、文字の羅列から得られるものではない、という悟り。 いくつかの思想うづまく中にゐて身じろぎならぬ齢至りぬ 吉田正俊 徒らに勉むる者をかろしめて如何なる思想…

思想(1/5)

思想とは、人がもつ、生きる世界や生き方についての、まとまりのある見解。多く、社会的・政治的な性格をもつものをいう(辞書から)。現代短歌において多く詠まれている。 積みあげし鋼(はがね)の青き断面に流らふ雨や無援(むえん)の思想あり 宮 柊二 *結…

新年、年の始め(2/2)

いく万の研究カードに新年(にひどし)のひかりさすときこころひらめく 木俣 修 新年(にひどし)は楽しきものか老いてなほをみなを語るわが痴愚(ちぐ)もまた 吉井 勇 昨年(さくねん)のいつ落ちしにや新年の影もちてまろぶ松笠二つ 宮 柊二 八十三の母が化粧袋よ…