天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

命の歌(8/17)

さりともと思ふ心になぐさみてけふまで世にも生ける命か 続後撰集・藤原敦忠 *さりとも: そうであっても。 めぐりあはむ頼みぞ知らぬ命だにあらばと思ふ程のはかなさ 新葉集・後村上天皇 死ぬばかりまことに嘆く道ならば命とともにのびよとぞ思ふ 新続古今…

命の歌(7/17)

命さへあらば見つべき身のはてをしのばむ人のなきぞかなしき 新古今集・和泉式部 *「命さえあれば亡き私を見届けることは誰にもできるが、思い出して懐かしんでくれる人は誰もいない、それが悲しく思われる。」(新日本古典文学大系) 昨日まで逢ふにしかへ…

命の歌(6/17)

なにか厭ふよもながらへじさのみやは憂きに堪へたる命なるべき 新古今集・殷富門院大輔 *「あなた、どうしてそうあたしを嫌うの? あたしとても長くは生きていないでしょうよ。だっていつまでもこんな辛さに堪えていられないんだもの」(田辺聖子訳) 草の…

命の歌(5/17)

命あらば逢ふよもあらむ世の中になど死ぬばかりおもふ心ぞ 詞花集・藤原惟成 変りゆくけしきを見ても生ける身の命をあだに思ひけるかな 千載集・殷富門院大輔 命こそおのが物から憂かりけれあればぞ人をつらしとも見る 千載集・皇嘉門院尾張 思ひ出でて誰を…

命の歌(4/17)

哀れとも君だにいはば恋ひわびて死なむ命も惜しからなくに 拾遺集・源 経基 惜しからぬ命や更に延びぬらむをはりの煙しむる野べにて 拾遺集・清原元輔 *詞書として「神明寺の邊に無常所まうけて侍りけるがいとおもしろく侍りければ」がある。 無常所とは墓…

命の歌(3/17)

恋しきに命をかふるものならばしにはやすくぞ有るべかりける 古今集・読人しらず *「この恋しい気持と我が命を換えることができるなら、命を失う死のほうがずっとた易いものなんだなあ。」という。 年をへてあひみる人のわかれには惜しきものこそ命なりけれ…

命の歌(2/17)

中臣(なかとみ)の太祝詞(ふとのりとごと)言ひ祓へ贖(あか)ふ命も誰がために汝(なれ) 万葉集・大伴家持 *一首目の意味は、「中臣氏に伝わる太祝詞をあげてお祓いをし、供物をして長命を祈ったのは誰のためか、お前のためなのだよ。」 ながからぬ命のほどに忘…

命の歌(1/17)

このシリーズでは、「命(いのち)」を詠み込んだ短歌を取り上げるが、命を詠んだ和歌・短歌は最も数が多いと思われる。動植物から微生物にいたるまで、命の不思議は宇宙の時空間の不思議と共に、人類最大の謎ではないか。 命の語源は、「いきのうち・いのう…

大樹を詠むーカシ

カシ(樫)は、ブナ科の常緑高木の一群の総称。日本では中部地方から南に生育し、高さ約20メートルに達する。果実がどんぐりで、でんぷんを多く含む。 遠き世の記憶のなかに立ちそそる照明弾の下の樫の木 大西民子 風になり蜉蝣になり鳥になり樫の大樹とたわ…

大樹を詠むーサンゴジュ

サンゴジュ(珊瑚樹)は、ガマズミ科の属する常緑高木で、よく庭木にされる。樹高は5~12mで、庭木としては高い方。秋に真っ赤に熟す果実がなり、この姿をサンゴに見立てたのが名前の由来。 さんごじゆの大樹(だいじゆ)のうへを行く鴉南なぎさに低くなりつも…

大樹を詠むーシイ

シイ(椎)はブナ科の常緑高木。大きいものは25mにも達する。椎の実は、縄文時代には重要な食料であったという。 忘れるとは恨みざらなむはしたかのとかへる山の椎はもみぢず 後撰集・読人しらず *女から「私を忘れるとはひどい、恨みます」と言ってきたの…

大樹を詠むースギ

スギ(杉)は、ヒノキ科スギ亜科スギ属で日本原産の常緑針葉樹。屋久島の縄文杉は樹高25.3 m、胸高周囲16.4 mに達し、推定樹齢は2000~7200年とされている。また豊臣秀吉の時代に伐採されたとされるウィルソン杉の切り株は、縄文杉とほぼ同格で、現存してい…

大樹を詠むーモミ

モミ(樅)は、マツ科の常緑針葉樹で、樹高は40mに達するものもある。日本特産。 はしき子ら降誕祭をうらまちぬ。樅の冬木を家にかざりて。 石原 純 *はしき: 愛らしい。 うらまつ: 心待ちに待つ。 鮎のごとき少女婚して樅の苗植う 樅の材(き)は柩に宜(よ…

大樹を詠むークス

クス(樟、楠)は、クスノキ科の常緑高木。暖地に生えて、幹回りが3 m以上になる巨木が多い。樟脳になる香木として知られ、飛鳥時代には仏像の材に使われた。 和泉なるしのだの森の楠の木の千枝にわかれて物をこそ思へ 夫木抄・よみ人しらず *「和泉の国に…

大樹を詠むーケヤキ

ケヤキ(欅)は、ニレ科の落葉高木。ツキ(槻)ともいう。高さ20 - 25mの大木になり40mを超す個体もある。 欅大樹昏れんとしつついましがた蝉鳴きやみしのみの空白 長澤一作 冬されば高き欅の枝(えだ)又(また)に円形(まろがた)ほやのゆれかかるみゆ 岡 麓 *…

大樹を詠むー序

日本の巨樹・巨木について、環境省が調査している。地上から130cmの高さで、幹回りを計測して、巨木ベスト10をあげている。次のようなもの。 (https://tabi-mag.jp/bigtree/による) 1位: 蒲生のクス(鹿児島県姶良市) 24.22m。 2位: 来宮神社の大楠…

春になった

コロナ禍で外出自粛の折柄、なるべく散歩しようと近所の俣野別邸庭園に出かけることにしている。この庭園では、四季折々の草花を見ることができる。春の桜では、河津桜、寒緋桜、玉縄桜、陽光桜、ソメイヨシノ などが順次咲いていく。豪華に見えるのは、ハク…

松村 威歌集『影の思考』

型破りな歌集である。略歴には、「1945年生まれ、短歌暦10年」としか書かれていない。ただ「あとがき」に、何故短歌を書くか、という解説があるので参考になる。作品を読んでいくと、作者の分身が考え感じたことを短歌に表現したように思われてくる。それが…

心を詠む(20/20)

こころとは脳の内部にあるという倫理の先生の目の奥の空 小島なお *下句は、上句の内容を話す倫理の先生の目にたまたま空が映っていたのだろう。 なんとなく女になりうる心地して菜の花の村に雪ふるを見つ 前 登志夫 *菜の花の村に雪が降る情景を見ていて…

心を詠む(19/20)

いつさいがのろのろとして眞晝なり消費されゆくこころいちじるし 森岡貞香 *作者はいろいろなことに心を砕いて少し苛ついているようだ。 秋ふけて炎のごとき花カンナ咲きたれば一日炎のこころ 尾崎左永子 *カンナの花が咲いた日は、一日中こころが浮き立つ…

心を詠む(18/20)

完了の助動詞ひとつゆくりなく君がこころのおくがを見せぬ 島津忠夫 *「ゆくりなく」は、思いがけなく、突然に の意味。古典文法で完了の助動詞といえば、「つ ぬ たり り」であるが、この歌ではどれを指すのであろう。どれでも良いか。なお「おくが」とは…

心を詠む(17/20)

人疎(うと)むこころとなりてゐるわれの身をゆるがして鳴る虎落笛(もがりぶえ) 来嶋靖生 *虎落笛: 冬の激しい風が竹垣や柵などに吹きつけて発する笛のような音。 底冥(くら)き井戸に刃のごと光る水こころ渇ける夜の夢に見つ 宮坂和子 いにしへも火(ひ)と言…

心を詠む(16/20)

擬死つづけゐる一匹を炎天にはじき飛ばして心すこし起く 竹山 広 *擬死の主体が不明。昆虫なら、コガネムシ、ゾウムシ、コメツキ などがいるが、それがどこにいたのかも分らない。服にじっと止まっていたのだろうか。 あきらめの岸にこころを導かむうすくら…

心を詠む(15/20)

かさかさになりし心の真ん中へどんぐりの実を落としてみたり 山崎方代 *「かさかさになりし心」からは都会生活を、「どんぐりの実」からは懐かしい故郷を連想する。 心には形(かたち)はあらず限りなく深き心を持てとなるべし 都築省吾 *心の形とか深い心と…

心を詠む(14/20)

せめて同じき調べに心つながむとわれら危ふく木の扉押す 小野茂樹 忽然と心の中にあらはれしあをき扉のかげに佇む 小野茂樹 *二首に、扉が共通している。どうやら心のつながりを左右しているものを扉で比喩しているようだ。 冬山に来りてこころ緊るとも砕け…

心を詠む(13/20)

孤(ひと)りなる心のごとく居りしかど一日(ひとひ)一日はきびしく経(へ)ゆく 佐藤佐太郎 *ひとりでやっていけると思っていたが、周囲との関係からは厳しい日が続くという。 現(うつつ)なるこころのながれ惜しみつつかすかに生きてありと思はん 佐藤佐太郎 *…

心を詠む(12/20)

水清らによき渓選び梅をうゑしよき人の心かをらむ千春に 佐佐木信綱 秋の心水に動きて小さき魚がすいすいとゆく眞ひるの釣堀 佐佐木信綱 如何なるこころ現はす黒と黄と二色にわれは塗りかさねゐる 遠山光栄 *初句は四音なのでつまづく。「塗りかさねゐる」…

心を詠む(11/20)

わが心君に近づくこの日まづ悔の涙にみそぎししまし 原 阿佐緒 君思ふこころ極まり坂路をば息をもつかずひたのぼりけり 矢代東村 ひそやかに庭木をぬらす昼の雨あひたき心しのびてをらむ 松田常憲 日はのぼり日はまた沈むいつのときもわれに凛たり心の一樹 …

心を詠む(10/20)

しら玉の心は光れひもじくばあらがねの土もなほ啖(くら)ふべし 中村三郎 砂の上に死ぬる駱駝(らくだ)の心をも今夜(こよひ)悲しみ夜ふけむとす 柴生田 稔 *把握が独特だが、分かる気がする。 勢へる野戦志願の兵見れば寧(むし)ろいたましき心も湧きぬ 渡辺直…

心を詠む(10/20)

しら玉の心は光れひもじくばあらがねの土もなほ啖(くら)ふべし 中村三郎 砂の上に死ぬる駱駝(らくだ)の心をも今夜(こよひ)悲しみ夜ふけむとす 柴生田 稔 *把握が独特だが、分かる気がする。 勢へる野戦志願の兵見れば寧(むし)ろいたましき心も湧きぬ 渡辺直…