天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

枕詞要約

枕詞の全容について整理しておきたく、内藤弘筰『枕詞便覧』(早稲田出版) から以下に要約してみた。 ■枕詞は上代文学の修辞法の一つ(現代における位置づけ)。但し当時は修辞法という概念はなかった。平安時代には「発語」と呼ばれていたようだ。「枕詞」…

身体の部分を詠むー額(2/2)

蒼ぐらく空よりくだる雪片を人恋ふるがに額(ぬか)にうけゐる 樋口美世 ライター燃ゆる闇の束の間見し額ひろくかがやきゐしを忘れず 大塚陽子 矜りかに孤立しをれどわが額(ぬか)に触れしは誰ぞ雪のあかつき 三國玲子 まなかひを白き手首の行き来して昼ひそや…

身体の部分を詠むー額(1/2)

ひたい、ぬか。「額づく」は、拝礼すること。 相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼(がき)の後(しりへ)に額づくがごと 万葉集・笠 女郎 *笠女郎が大伴家持に贈った二十四首の相聞歌のうちの一首で有名。 この額(ひたひ)ただ拳銃(ぴすとる)の銃口(つつぐち)を当つる…

身体の部分を詠むー喉(2/2)

全天の紅葉を仰ぎひつそりと圧(お)されてゐたる男(を)ののどぼとけ 小池 光 わが咽喉(のど)の仮性球(かせいきゅう)麻痺(まひ)ものを食(は)みものを飲むとき 常に苦しむ 宮 柊二 *仮性球麻痺: 発声ができにくくなったり喋れても同語反復をしたりなどといっ…

身体の部分を詠むー喉(1/2)

「のど」を上代には「のみど」と言い、奈良時代の文献でも「喉・咽」を「のみど」と読ませている。「のみど」の「のみ」は「飲み・呑み」、「と」は出入り口を表す「と(門・戸)」で、呑むための入り口の意味と考えられる。(辞書から) 日の下に妻が立つと…

身体の部分を詠むー脳(2/2)

物忘れひどくなりたるわが脳を嘆けどかくてしばし生きゐん 佐藤志満 半球(ヘミスフィア)子の脳葉をほつほつと照らしそめけむ<ことば>の星は 坂井修一 * 脳葉(のうよう): 大脳の解剖学的に区分けされた領域。目立つ脳溝を境界として、前頭葉、側頭葉、頭…

身体の部分を詠むー脳(1/2)

脳の真中に薄明の谷ありありと ひるのまどろみ ゆふのまどろみ 葛原妙子 *まどろんでいるときの脳内の状況を想像した。 夜ふけて脳をついばむ月よみのさびしき鳥よ爪きらめかせ 前登志夫 *月夜に得物の脳をついばんでいる鳥の状態を詠んだ。 冬の浮標(ブイ…

身体の部分を詠むー腕(3/3)

包帯の腕を吊りたる少年が横切る後を蝶の従きゆく 村山千栄子 枇杷の皮を剥ぐがに撫ずるしずかさにひとは身じろぐ腕より指へ 永田和宏 水鳥の鴨の羽いろのブラウスにあした冷えたる腕(かいな)を通す さいとうなおこ *腕(かいな): 「うで」の古い言い方。肩…

身体の部分を詠むー腕(2/3)

取材せし船より酔ひて来し夫の額冴えつつわが腕の中 三國玲子 抱き来し女の肩を放したる用なき腕を垂らして帰る 石田比呂志 乾燥炉の火を搔きまはしゐる腕(かひな)細きながらに筋肉動く 大平修身 *乾燥炉: 各種の熱源を使用し、水分・溶剤・接着剤などあら…

身体の部分を詠むー腕(2/3)

取材せし船より酔ひて来し夫の額冴えつつわが腕の中 三國玲子 抱き来し女の肩を放したる用なき腕を垂らして帰る 石田比呂志 乾燥炉の火を搔きまはしゐる腕(かひな)細きながらに筋肉動く 大平修身 *乾燥炉: 各種の熱源を使用し、水分・溶剤・接着剤などあら…

身体の部分を詠むー腕(1/3)

「ただむき、かひな」とも言う。腕に宿る力から転じて、武芸のたくみさ、職人の技術などについても使う。 腕拱(く)みて/このごろ思ふ/大いなる敵目の前に躍り出でよと 石川啄木 楤(たら)の芽にがき晩餐ののち汝とねむり金色の腕の下にほろぶ 塚本邦雄 満月…

身体の部分を詠むー背(2/2)

胸郭の内側にかたき論理にて棍棒に背はたやすく見せぬ 岸上大作 *日頃の政治運動からできた一首。 さみしさをあらはにみせてゐるだらうわたくしの背(せな)をみないで欲しい 岩田記未子 ぽきぽきと背骨を折らばすがしからむ何にあらがひてきたるわが生(よ)か…

身体の部分を詠むー背(1/2)

久方のあまつみ空は高けれどせをくぐめてぞ我は世にすむ 夫木抄・宗尊親王 闇を背にまじまじと孤(ひと)つ保ちいる水銀灯に雨のしたたる 高安国世 *まじまじと: 目をすえじっと見つめるさま。水銀灯を擬人化している。 暖かき日ざしの窓に背をむけて記憶の…

身体の部分を詠むー肩(2/2)

肩厚きを母に言ふべしかのユダも血の逆巻ける肉を持ちしと 春日井建 *なんとも難解。歌の背景を知りたい。 蝶の粉を裸の肩にまぶしゐたりわれは戦火に染む空の下 春日井建 *上句の目的は、裸の肩が冷えないようにするためであったのか? 不可解。 荒あらと…

身体の部分を詠むー肩(1/2)

肩は人の腕が胴体に接続する部分の上部、および、そこから首の付け根にかけての部分をさす。いくつもの比喩、成句、慣用句がある。肩書き、肩を貸す、肩の荷が下りるなど。 今年行く新島守が麻衣肩のまよひは誰が取り見む 万葉集・作者未詳 *「今年行く、新…

身体の部分を詠むー目(9/9)

眼にきけば辛いとまばたくいちにんを今日は起立(たた)せず励まさず抱く 望月綾子 *上句は相手の眼をじっと見つめていたが、何も答えず眼を瞬くばかりだった、状況をさす。 目薬のしづくをふかくたたへたる近江(あふみ)遠江(とほたふみ)ふたつのまなこ 小池 …

身体の部分を詠むー目(8/9)

移る世に変はらざるもの並(な)べて親し例へば若ひとの深き眼差 黒沼友一 わが方を見てゐるやうなゐぬやうなこんな小さな目だつたかきみ 池谷しげみ 正月用はまち活け締め千本をさばき眼の下くろずめる者 浜口美知子 目薬の一滴をさししばかりにてわが目は水…

身体の部分を詠むー目(7/9)

おとろふる眼(まなこ)をとぢて佇つ樹(こ)したさくらは燃ゆるほのほのおとす 上田三四二 *下句の桜が燃える炎の音が聞こえる、とはなんとも独特! なほ言へとうながす眼(まなこ)にむかひあふ二つプランを言ひ終へしいま 篠 弘 焼却炉にとろり溶けしはわれの…

身体の部分を詠むー目(6/9)

畳の上にごろりころんで眼をつぶる下界遮断の手段(てだて)とばかり 筏井嘉一 目のかぎり展く起伏に人住みてそのことごとく地番を享けをり 小野茂樹 朝早きニュースに告ぐる気圧配置かかる俯瞰の眼を誰が持つ 小野茂樹 *人間の眼には見えない科学的計測の結…

身体の部分を詠むー目(5/9)

むらがりてたゆたふ鷗窓に見え今日も朝より眼は充血す 近藤芳美 口荒く出でゆく夫よあはれ背にわれの憎悪の目を貼りつけて 中城ふみ子 *夫たる者、十分に承知しておくことが肝要! というまでもないか。 両の眼の盲(し)ひるくらやみいかなれば子は父よりも…

身体の部分を詠むー目(4/9)

をさなごの眼の見えそむる冬にして天(あめ)あをき日をわが涙垂(た)る 前川佐美雄 片ときも心しづまらぬわが身にて昼すぎ水の中に眼を開(あ)く 前川佐美雄 埴輪の目もちて語れる人と人 砂丘(をか)円くめぐれる中 葛原妙子 *和辻哲郎に「人物埴輪の眼」という…

身体の部分を詠むー目(3/9)

いや高くあがりゆく雲雀(ひばり)眼はなさず君の見ればわれはその目を見るも 川田 順 こころみに眼とぢみたまへ春の日は四方に落つる心地せられむ 前田夕暮 海底(うなぞこ)に眼のなき魚(うを)の棲(す)むといふ眼の無き魚の悲しかりけり 若山牧水 わが目のなか…

身体の部分を詠むー目(2/9)

あめの下芽ぐむ草木の目もはるにかぎりもしらぬ御代の末々 新古今集・式子内親王 *「天の下、春雨の恵みのもとで草木の芽が、目も遥か限りなく続き、、わが君の御代は末々まで限りなく続くでしょう。」 大空を眺めてぞ暮す吹く風の音はすれども目にし見えね…

身体の部分を詠むー目(1/9)

目(眼)は、光を受容する感覚器。中枢神経系の働きによって視覚が生じる。目には多数の意味が伴う。目つき、視力、注目、洞察力、外観、体験(つらい目にあう など)、すき間や凹凸、順序(xx番目など)、性質や傾向 等々。 なお「まなこ」は「目 (ま) の…