2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧
梅林の花まちどほし流鏑馬の土けむりたつ下曽我の野辺 早咲きの梅めでて聞く歌謡ショウ “泣いて私の首筋かむの ” 岩つかみ亭々と立つ樅の木の肌にふれたるわが命かな つぼみなす緋寒桜の幹に垂る高砲二十二聯隊の札 中国産竹の林はあたたかき日本の春の風に…
「置き引きに注意」の札があちこちに桜落葉の濡るる霊園 つがのきのつぎつぎ落つる黄葉にわが照らされてベンチに坐る しあはせは銀杏もみぢの並木道黄の絨毯を肩寄せてゆく 逝く年の陽を吸ひ尽くす紅葉の山みなやさし三ヶ日(みつかび)の里 白秋が移り住みに…
さやさやと秋風に揺るうら若きメタセコイアのさみどりの梢(うれ) 酸橘(すだち)三つ姫柚子五つ買ひにけりめでたかりける極楽寺産 心にも傷が残ると竹林の落書禁ずるいましめの札 夕されば小鳥集ひてかしましき樹齢九十年のくすの木 地獄門と化したる根方大楠…
苗植ゑて十万本になりぬべし群れてけぶれる杉の実花粉 春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇院 極楽寺坂のトンネル覗き込む山の桜と橋の上の我 大枝垂桜見に来る見て帰る人のあふるる入生田(いりゆうだ)の駅 遊行寺のおほき木蓮咲きにけり毎年見…
張り出だす根のたくましき辛夷の木風に光れる和毛(にこげ)の蕾 硫黄ガスにはかに臭ふ冬木立ヒメシャラ赤き肌をさらせる 弥生いまだ寒き日あるを待ちきれず長興山の桜訪ひにき 誰か言ふ枝垂桜はタランチュラ白き毛深き手足張りたる くれなゐの蕾ふくらむ桜木…
御仏は灼熱の国天竺に檳榔樹(びんらうじゆ)の風沙羅双樹の花 大樟の長寿の息吹き慕ひつつ注連張る幹に顔寄せてゐつ 虫棲まぬ植物園に朽ち果てつうつぼかづらの食虫袋 元日の神籤を結ぶ梅が枝にはやくれなゐの蕾出でたり 崖を這ふ木の根は岩の水を吸ふ岩砕か…
アナゴ 1首 腐食せしガス弾の穴に棲むアナゴDNAと皮膚に傷もつ 鮟鱇(あんこう) 1首 耳石器の平衡感覚試さるる宇宙飛行のガマアンコウは イカナゴ 1首 嘴にイカナゴあまた咥へたるウトウ帰り来の島に イサキ 1首 海流の出会ふ海域雲のごとイサキ大群ゆ…
アブラボウズ 2首 深海魚アブラボウズはみた目には煮ても焼いても食へさうにない 日本一海底ふかき駿河湾アブラボウズ釣れくぢらジャンプす カジキ 2首 尾を振りて青き海面をくぐりゆくカジキの雌に鈷迫りたり シチリアの男の太き手の伸びてカジキに鈷をう…
鰾(えひ) 3首 港湾に英語の指示が響かへり渚に鰾(えひ)が泳ぐ横須賀 下顎のとび出だしたる長き尾のマダラトビエイ実直なる顔 入江ありマングローブの水底を重なり進むえひの編隊 鰹 3首 釣られたる鰹ビビビビすべりゆく船の甲板淡き鮮血 幽門水、腸、胃袋…
鯖 5首 魚座とふビルの二階の窓に見ゆ鰤・鯖の群一匹の鱏(えひ) 白秋が三崎揚場(あげば)に聞きし声ひとよひとひと鯖を数ふる 関鯖の刺身に酌める大吟醸山茶花梅雨の憂さを晴らせり みち潮にのりて寄せ来る秋鯖を釣りては裂けり島の岩場に 青ざかな認知症に…
鰻 13首 人身事故のありしを知らず妻が待つ鰻食はむと鎌倉駅に われもまた鰻を好む性なれど日に二度まではためしなかりき 漬物と鰻と原酒うまき故わが幾たびも来しこの鰻屋に ひたすらに鰻重食へる老夫婦言葉交はさず食ひ終りたり 乙女ひとり鰻屋に来てう…
鯉 23首 青澱む水面に映る雲の下白銀の鯉静もりゐたり 右目病む白銀の鯉蹌踉と濁れる川に死にゆくらしも 飛び石を伝ひ来れば大いなる緋鯉片目にわれを見上ぐる 蓮の葉にむすびてまろぶ朝露を口開きて待つ池の鯉かも 黒々と鯉つらなりてあぎとへり下水処理…
魚 56首 湿原のウルム氷期を生きのびし北山椒魚姿をさなき 野に座る老人の手の小魚をもらひてうれし朱鷺のをさな子 西日射す魚屋店先ぴゅうぴゅうと皿の浅蜊は水とばしゐつ ひそやかに水面揺らせしかはうそは海に潜りて魚をくはへ来 魚食ひて腹満ちたりし…
みみづく 1首 「赤い鳥」の小さき歌碑を見つけたりみみづく幼稚園を覗きて ヤマショウビン 1首 舳倉島に今日見し鳥を記録せりヤマショウビンは赤き嘴 アカショウビン 1首 新緑の四万十川の森に聞くアカショウビンてふ火の鳥の声 アトリ 1首 ユーラシアよ…
善知鳥(うとう) 2首 地を出でし善知鳥(うとう)の雛は六月のエゾカンゾウの風に吹かるる 嘴にイカナゴあまた咥へたるウトウ帰り来天売(てうり)の島に オウム 2首 「おはやう」と「ばか」くり返すオウムゐる人語悲しき公園の朝 みな目つきをかしくなりて人を…
雲雀 2首 河川敷球場に巣を作れるか球児の空に雲雀啼くなり ボール打つテニスコートの河川敷ひばりは高く空に啼くなり 梟 2首 竹細工梟を売る口上に餌をやるなと人笑はせて つれあひを亡くしし雄のシロフクロウわが口笛にふり向きにけり フラミンゴ 2首 …
アジサシ 3首 アジサシは卵抱きて動かざり砂地に迫る雨期の川水 あはれはやチョウゲンボウと野良猫が狙ふ川原のコアジサシの子 美しき小石敷き詰め葬られし少年の骨アジサシを抱く 郭公 3首 おほいなるボルガに沿へる林よりかすか聞こゆる郭公の声 つれあ…
朱鷺 5首 野に座る老人の手の小魚をもらひてうれし朱鷺のをさな子 名を呼べば応ふる朱鷺の声かなし保護センターの金網の檻 老いてなほ羽の薄桃ほの見ゆる滅びゆく鳥ニッポニア・ニッポン 億年の朱鷺の歴史を断ち切りし今日も地上に農薬を撒く 海越えてもら…
孔雀 6首 黒松の太枝(ふとえ)に止まり高啼けりインドクジャクの瑠璃色の首 華麗なる羽根ひろげたるありし日の孔雀の写真小屋にかかれり 礼状は「あそんでくれて、ありがとう」孔雀の棲みし小屋にかかれり かつて見しあまた孔雀のはなやぎがまぼろしに立つ真…
雀・四十雀 10首 四十雀水面に映す己が影恋ひて鳴きつつホバリングする かしましき雀の群に疎外さる紅梅に来し一羽の目白 梅の木の直立つ梢(うれ)にとりつきてゆらゆら揺るるふくら雀は くさはらに朝の木漏れ日やさしきに雀は白き蝶を追ひかく 狗尾草(ゑの…
鴨 13首 漣の沼に浮寝の鴨の群岸辺の鷺は風に吹かるる 足赤き鴨のつがひの居眠れる川中の岩水の越えゆく 水面に顔出す雌を押さへ込み瞬時交尾す青首の鴨 わたり來しはるけき空を思ふらむ鴨の憩へる芦刈小舟 明けちかき遠野の原に目覚めけり野鴨の声のはつ…
カモメ 16首 さはさはと川面の空にはばたける朝を目覚めし白百合鴎 同居せる檻の狭きにいらだつや背黒鴎を川鵜がつつく 打ち寄する波を避けざるユリカモメしばし休みて潮風に乗る ユリカモメ浜に集ひて闇を呼ぶ一灯点る腰越漁港 ユリカモメ冬の岩場に群れ…
鶯(うぐひす)・笹子 21首 夕暮の雨に桜の散り初めて藪にくぐもるうぐひすの声 うぐひすの声滴れり山蔭の小栗判官眼洗ひの池 たたなはる青垣山の花嵐谷戸をころがる鶯の声 明月院裏山に棲む鶯のしやつくり止まずケッキョケキョケキョ をみな三人離婚話を…
鴉(烏) 24首 ぬばたまの黒馬駈くる戦場に鴉の群が屍ついばむ カアカアカア嘴太鴉の飛ぶ駅を貨物列車のワムワムワムワム ま直ぐなる岬の松に巣をかけし鴉かなしも潮風に揺る コアジサシの雛を襲ひ来東京湾ごみ埋立地のハシブトガラス 小鰺刺、白千鳥棲む…
鷺 25首 秋雨に釣糸垂れゐる多摩川の中州におり来る白鷺の二羽 水底に脚差し入れてまさぐれる鷺のまなかひ泥鰌飛び出づ 白鷺(しらさぎ)の飛ぶ夕暮れの多摩川に漕ぐことやめしボートのふたり 白鷺の空のかよひ路よぎりける鴉に気付き姿勢乱るる 放牧の牛の…