天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

わが歌集からー樹木(6/11)

梅林の花まちどほし流鏑馬の土けむりたつ下曽我の野辺 早咲きの梅めでて聞く歌謡ショウ “泣いて私の首筋かむの ” 岩つかみ亭々と立つ樅の木の肌にふれたるわが命かな つぼみなす緋寒桜の幹に垂る高砲二十二聯隊の札 中国産竹の林はあたたかき日本の春の風に…

わが歌集からー樹木(5/11)

「置き引きに注意」の札があちこちに桜落葉の濡るる霊園 つがのきのつぎつぎ落つる黄葉にわが照らされてベンチに坐る しあはせは銀杏もみぢの並木道黄の絨毯を肩寄せてゆく 逝く年の陽を吸ひ尽くす紅葉の山みなやさし三ヶ日(みつかび)の里 白秋が移り住みに…

わが歌集からー樹木(4/11)

さやさやと秋風に揺るうら若きメタセコイアのさみどりの梢(うれ) 酸橘(すだち)三つ姫柚子五つ買ひにけりめでたかりける極楽寺産 心にも傷が残ると竹林の落書禁ずるいましめの札 夕されば小鳥集ひてかしましき樹齢九十年のくすの木 地獄門と化したる根方大楠…

わが歌集からー樹木(3/11)

苗植ゑて十万本になりぬべし群れてけぶれる杉の実花粉 春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇院 極楽寺坂のトンネル覗き込む山の桜と橋の上の我 大枝垂桜見に来る見て帰る人のあふるる入生田(いりゆうだ)の駅 遊行寺のおほき木蓮咲きにけり毎年見…

わが歌集からー樹木(2/11)

張り出だす根のたくましき辛夷の木風に光れる和毛(にこげ)の蕾 硫黄ガスにはかに臭ふ冬木立ヒメシャラ赤き肌をさらせる 弥生いまだ寒き日あるを待ちきれず長興山の桜訪ひにき 誰か言ふ枝垂桜はタランチュラ白き毛深き手足張りたる くれなゐの蕾ふくらむ桜木…

わが歌集からー樹木(1/11)

御仏は灼熱の国天竺に檳榔樹(びんらうじゆ)の風沙羅双樹の花 大樟の長寿の息吹き慕ひつつ注連張る幹に顔寄せてゐつ 虫棲まぬ植物園に朽ち果てつうつぼかづらの食虫袋 元日の神籤を結ぶ梅が枝にはやくれなゐの蕾出でたり 崖を這ふ木の根は岩の水を吸ふ岩砕か…

わが歌集からー魚類(7/7)

アナゴ 1首 腐食せしガス弾の穴に棲むアナゴDNAと皮膚に傷もつ 鮟鱇(あんこう) 1首 耳石器の平衡感覚試さるる宇宙飛行のガマアンコウは イカナゴ 1首 嘴にイカナゴあまた咥へたるウトウ帰り来の島に イサキ 1首 海流の出会ふ海域雲のごとイサキ大群ゆ…

わが歌集からー魚類(6/7)

アブラボウズ 2首 深海魚アブラボウズはみた目には煮ても焼いても食へさうにない 日本一海底ふかき駿河湾アブラボウズ釣れくぢらジャンプす カジキ 2首 尾を振りて青き海面をくぐりゆくカジキの雌に鈷迫りたり シチリアの男の太き手の伸びてカジキに鈷をう…

わが歌集からー魚類(5/7)

鰾(えひ) 3首 港湾に英語の指示が響かへり渚に鰾(えひ)が泳ぐ横須賀 下顎のとび出だしたる長き尾のマダラトビエイ実直なる顔 入江ありマングローブの水底を重なり進むえひの編隊 鰹 3首 釣られたる鰹ビビビビすべりゆく船の甲板淡き鮮血 幽門水、腸、胃袋…

わが歌集からー魚類(4/7)

鯖 5首 魚座とふビルの二階の窓に見ゆ鰤・鯖の群一匹の鱏(えひ) 白秋が三崎揚場(あげば)に聞きし声ひとよひとひと鯖を数ふる 関鯖の刺身に酌める大吟醸山茶花梅雨の憂さを晴らせり みち潮にのりて寄せ来る秋鯖を釣りては裂けり島の岩場に 青ざかな認知症に…

わが歌集からー魚類(3/7)

鰻 13首 人身事故のありしを知らず妻が待つ鰻食はむと鎌倉駅に われもまた鰻を好む性なれど日に二度まではためしなかりき 漬物と鰻と原酒うまき故わが幾たびも来しこの鰻屋に ひたすらに鰻重食へる老夫婦言葉交はさず食ひ終りたり 乙女ひとり鰻屋に来てう…

わが歌集からー魚類(2/7)

鯉 23首 青澱む水面に映る雲の下白銀の鯉静もりゐたり 右目病む白銀の鯉蹌踉と濁れる川に死にゆくらしも 飛び石を伝ひ来れば大いなる緋鯉片目にわれを見上ぐる 蓮の葉にむすびてまろぶ朝露を口開きて待つ池の鯉かも 黒々と鯉つらなりてあぎとへり下水処理…

わが歌集からー魚類(1/7)

魚 56首 湿原のウルム氷期を生きのびし北山椒魚姿をさなき 野に座る老人の手の小魚をもらひてうれし朱鷺のをさな子 西日射す魚屋店先ぴゅうぴゅうと皿の浅蜊は水とばしゐつ ひそやかに水面揺らせしかはうそは海に潜りて魚をくはへ来 魚食ひて腹満ちたりし…

わが歌集からー鳥類(15/15)

みみづく 1首 「赤い鳥」の小さき歌碑を見つけたりみみづく幼稚園を覗きて ヤマショウビン 1首 舳倉島に今日見し鳥を記録せりヤマショウビンは赤き嘴 アカショウビン 1首 新緑の四万十川の森に聞くアカショウビンてふ火の鳥の声 アトリ 1首 ユーラシアよ…

わが歌集からー鳥類(14/15)

善知鳥(うとう) 2首 地を出でし善知鳥(うとう)の雛は六月のエゾカンゾウの風に吹かるる 嘴にイカナゴあまた咥へたるウトウ帰り来天売(てうり)の島に オウム 2首 「おはやう」と「ばか」くり返すオウムゐる人語悲しき公園の朝 みな目つきをかしくなりて人を…

わが歌集からー鳥類(13/15)

雲雀 2首 河川敷球場に巣を作れるか球児の空に雲雀啼くなり ボール打つテニスコートの河川敷ひばりは高く空に啼くなり 梟 2首 竹細工梟を売る口上に餌をやるなと人笑はせて つれあひを亡くしし雄のシロフクロウわが口笛にふり向きにけり フラミンゴ 2首 …

わが歌集からー鳥類(12/15)

アジサシ 3首 アジサシは卵抱きて動かざり砂地に迫る雨期の川水 あはれはやチョウゲンボウと野良猫が狙ふ川原のコアジサシの子 美しき小石敷き詰め葬られし少年の骨アジサシを抱く 郭公 3首 おほいなるボルガに沿へる林よりかすか聞こゆる郭公の声 つれあ…

わが歌集からー鳥類(11/15)

朱鷺 5首 野に座る老人の手の小魚をもらひてうれし朱鷺のをさな子 名を呼べば応ふる朱鷺の声かなし保護センターの金網の檻 老いてなほ羽の薄桃ほの見ゆる滅びゆく鳥ニッポニア・ニッポン 億年の朱鷺の歴史を断ち切りし今日も地上に農薬を撒く 海越えてもら…

わが歌集からー鳥類(10/15)

孔雀 6首 黒松の太枝(ふとえ)に止まり高啼けりインドクジャクの瑠璃色の首 華麗なる羽根ひろげたるありし日の孔雀の写真小屋にかかれり 礼状は「あそんでくれて、ありがとう」孔雀の棲みし小屋にかかれり かつて見しあまた孔雀のはなやぎがまぼろしに立つ真…

わが歌集からー鳥類(9/15)

雀・四十雀 10首 四十雀水面に映す己が影恋ひて鳴きつつホバリングする かしましき雀の群に疎外さる紅梅に来し一羽の目白 梅の木の直立つ梢(うれ)にとりつきてゆらゆら揺るるふくら雀は くさはらに朝の木漏れ日やさしきに雀は白き蝶を追ひかく 狗尾草(ゑの…

わが歌集からー鳥類(8/15)

鴨 13首 漣の沼に浮寝の鴨の群岸辺の鷺は風に吹かるる 足赤き鴨のつがひの居眠れる川中の岩水の越えゆく 水面に顔出す雌を押さへ込み瞬時交尾す青首の鴨 わたり來しはるけき空を思ふらむ鴨の憩へる芦刈小舟 明けちかき遠野の原に目覚めけり野鴨の声のはつ…

わが歌集からー鳥類(7/15)

カモメ 16首 さはさはと川面の空にはばたける朝を目覚めし白百合鴎 同居せる檻の狭きにいらだつや背黒鴎を川鵜がつつく 打ち寄する波を避けざるユリカモメしばし休みて潮風に乗る ユリカモメ浜に集ひて闇を呼ぶ一灯点る腰越漁港 ユリカモメ冬の岩場に群れ…

わが歌集からー鳥類(6/15)

鶯(うぐひす)・笹子 21首 夕暮の雨に桜の散り初めて藪にくぐもるうぐひすの声 うぐひすの声滴れり山蔭の小栗判官眼洗ひの池 たたなはる青垣山の花嵐谷戸をころがる鶯の声 明月院裏山に棲む鶯のしやつくり止まずケッキョケキョケキョ をみな三人離婚話を…

わが歌集からー鳥類(5/15)

鴉(烏) 24首 ぬばたまの黒馬駈くる戦場に鴉の群が屍ついばむ カアカアカア嘴太鴉の飛ぶ駅を貨物列車のワムワムワムワム ま直ぐなる岬の松に巣をかけし鴉かなしも潮風に揺る コアジサシの雛を襲ひ来東京湾ごみ埋立地のハシブトガラス 小鰺刺、白千鳥棲む…

わが歌集からー鳥類(4/15)

鷺 25首 秋雨に釣糸垂れゐる多摩川の中州におり来る白鷺の二羽 水底に脚差し入れてまさぐれる鷺のまなかひ泥鰌飛び出づ 白鷺(しらさぎ)の飛ぶ夕暮れの多摩川に漕ぐことやめしボートのふたり 白鷺の空のかよひ路よぎりける鴉に気付き姿勢乱るる 放牧の牛の…