天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

わが句集からー春(8/21)

平成十二年 決意未だ湯に漂へる二日かな 墨痕の紙に馴染むも松納 花曇信号待ちの霊柩車 初春のチリフラミンゴ羽づくろひ ひこばえや眠りこけたる藁ぼつち 潮の香や声の幼き春の鳶 梅林を見渡す火の見櫓かな 妻と来し花の上野の国宝展 菜の花の光に曝す不精髭…

わが句集からー春(7/21)

平成十一年 願ひ文芯に込めたる手鞠かな 流れ藻や駿河の海の春濁(はるにごり) ふる里や年賀交はせる諏訪神社 初明り妻の木彫りの観世音 遊行寺の二日にぎはふ蚤の市 海苔舟の喫水浅く出でゆける 春の海光の布を広げたる 古竹の二本の支へ枝垂れ梅 銅の門をく…

わが句集からー春(6/21)

平成十年 断崖のウミウにのぼる初日かな 顎髭に白きが混じる初詣 校庭の夜の桜を恐れけり 廻縁美濃も尾張も芽吹きかな 野の梅と気付く白さでありにけり 縄跳びの足音そろふ春の風 渦潮の河口に出でし花見船 凧揚ぐる遠州灘の砂丘かな 老木の桜ますます美しき…

わが句集からー春(5/21)

平成九年 左義長や海に退く真の闇 平成の世に打初めの刀鍛冶 初漁や鴎伴ひ入港す 千年の樹に鶯の啼きにけり 鎌倉は路地多きかな沈丁花 白酒に正座の少しくづれけり 蕗の薹小さき指に摘まれけり 頂を白き雨くる紀元節 あきらめて下山を急ぐ春時雨 火渡りの呪…

わが句集からー春(4/21)

平成八年 客待ちのタクシー涼むプラタナス 左義長の炎に力む達磨かな 手で磨く北山杉のあたたかき 物干しに声掛け合へる四日かな 浅くなりまた深くなり貘枕 白秋の部屋の畳の手鞠かな 江ノ島や今年も買ひし根の若布 奥深く秘めたる決意臥龍梅 紅梅や幼きもの…

わが句集からー春(3/21)

平成七年 物言はぬ木木に囲まれ暖かき 敷島の大和は杉の花粉かな 鉢抱へ妻の出で立つ初明り わたつみの初日滴り出でにけり 大仏の胎内ぬくし暗くとも 天草やバラモン凧はうなりあげ チャルメラに和する遠吠おぼろ月 春の海光あふるる操舵室 白き帆の一列出づ…

わが句集からー春(2/21)

平成六年 子の居場所蛸風船のゆくところ 蜜蜂を連れて旅路の花野かな 転勤の片道切符流し雛 迎春の旗や中古車売場にも 凧揚がる切岸白き白亜層 梅園の光の中の昆布茶かな 秀嶺の消えてしまひぬ青霞 春光や高野をめぐる女人道 帆柱のならぶ入江や春の鳶 藁屋…

わが句集からー春(1/21)

平成四年 牡丹園傘さしたるが獅子頭 平成五年 青海苔を刈る浦波の朝日影 黒猫や合掌造りの春の夢 薄氷を踏めば思案のふつと切れ 珈琲の香や受験子を送り出し 春一番サッカーボールを追ふ一団 観梅や老いの集へる大茶釜 明王の剣見上げて福寿草 白魚を飲み込…

わが歌集からー人名(6/6)

吉田松陰 松陰の若き気迫のほとばしる真筆を見て背筋正しぬ 松陰も手を合はせけむ本堂の釈迦牟尼仏に吾も手合はす 小塚原回向院より移されし遺骨を想ふ松陰の墓 功なりし木戸孝允が寄進せし鳥居の奥にねむる松陰 松陰に学びし明治の元勲の寄贈の灯籠競ひてな…

わが歌集からー人名(5/6)

大谷翔平 張本も江本も無理と断言す二刀流なる大谷翔平 翔平の今日は四打席三安打ショータイムなるスリーランあり とび起きてテレビを前に手をたたく打者大谷のホームランには 投手打者いづれの技も秀でたりMLBはオータニに湧く 見るのみの生き甲斐なれば…

わが歌集からー人名(4/6)

イチロー(続) 観客の少なきセーフコフィールドは「イチロー・スズキ!」に少しざわつく 三割をきりし打率のイチローに厳しかりけり地元新聞 うたたねをしつつ見てゐるテレビにはイチロー立ちて三振したり 二百本安打の呪縛解かれしと明るく話すイチローなれ…

わが歌集からー人名(3/6)

イチロー しなやかに強靱(きやうじん)なればイチローのバットにもなるコバノトネリコ イチローと大輔の勝負途中にて勤めに出づる朝の深緑 イチローも松井も帽子胸に当てアメリカ国歌を面はゆく聞く イチローの打球に芝生ちぎれとびその後を追ふライト、セン…

わが歌集からー人名(2/6)

北原白秋 白秋が三崎揚場(あげば)に聞きし声ひとよひとひと鯖を数ふる 白秋の秋成が書の歌碑の文字ほそほそとしてかなしかりけり 白秋の死にし齢になりたれば日毎苦しくなる不整脈 白秋が遊女想ひて泣きにける八景原(はつけいばら)の夕茜かな 榧の木と石垣残…

わが歌集からー人名(1/6)

西行 書を習ふリハビリの手の定まりて水茎の跡西行の歌 夏木立西行庵は小さかりき座禅組みたる木像ひとつ チェーンソーの音の湧きくる杉木立西行庵を間近くにして 西行のたどりし道はいかなるや峰を見上ぐるこでまりの花 西行は芭蕉は如何に渡りけむこの波荒…

わが歌集からー花(10/10)

紅梅の山門入れば左手に誰姿森元使塚(たがすがたもりげんしづか)あり 吊り橋に迂回路あれど怖いものみたさに渡るつはぶきの花 身近なる花の名前も忘れはてただ美しと日々をすごせり よろこびを白き花さく野に見れば山の桜も間なく咲くらむ 樹齢千五百年とぞ…

わが歌集からー花(9/10)

菜の花のまぶしき山ゆ見下せばささくれ立てる一月の海 梅園の出店の主人この年の梅の開花の遅れを嘆く 菜の花と河津桜の中腹に客待ち顔の出店がならぶ 見てをれば白木蓮をさしおきて一足早く辛夷花咲く 横浜の西に位置して稼働せる馬酔木花咲く下水処理場 桜…

わが歌集からー花(8/10)

遠目には冬枯れの村下曽我は近づくほどに梅咲けり見ゆ 目白きてデジタルカメラの視野に入る熱海桜の爛漫の中 はくれんの花ちる池の底ひには濁れる色のうごめくが見ゆ ちる花の桜の下に並べたりこけしや根付、グラスのたぐひ 観山の押印見ゆる掛軸は三すぢ垂…

わが歌集からー花(7/10)

年々に居間に咲かせるアマリリス老いゆく妻のたのしみにして 石楠花の手入れする人おもむろになんじやもんじやの樹を教へたり 山門を入りくる女咲き満てるつつじの花に顔の明らむ 時くれば花はちるなり極楽寺白雲木の白き小花も 谷戸に飛ぶ黒き揚羽をひきよ…

わが歌集からー花(6/10)

もののふの万騎が越えし巨福呂の坂ふさがれて曼珠沙華咲く 腰つよく花のおもさに耐へてをりどこか明るきあすかの萩は がつしりと巌ふまへて小菊咲く日本国香会の盆栽 開花には十日もはやき城跡の桜見上ぐる出張帰り 池の面に静かにたたす観世音はくもくれん…

わが歌集からー花(5/10)

球根にやどる命をまざまざと見せて咲きたるアマリリスあはれ アマリリス咲きて朽ちたる後の世のさみしからずやわが部屋の隅 おーい雲よそこから富士はどう見える菜の花畑のわれは呼びかく 金色の菊花の紋はひかりたり二度と動かぬ「三笠」の舳先 清楚とは冷…

わが歌集からー花(4/10)

白雲の湧き立つ山のふもと辺に淡々咲ける山藤の花 緑陰の墓場に人は憩ふらしあぢさゐの花岩煙草の花 ベランダに海を見てゐる文学館みかんの花の甘く香れる ガソリンを補給して出づ国道の路肩に揺るる山百合の花 情熱はかく冷え冷えと燃ゆるべし数限りなく咲…

わが歌集からー花(3/10)

歳晩の卓に並ぶる酒肴訪ひくる子等を花活けて待つ 紅梅の根方に水仙咲きにほふ曽我自修学校発祥の地に 花咲くと町の知らせを読みにけむ車並べるかたくりの里 極楽寺坂のトンネル覗き込む山の桜と橋の上の我 大枝垂桜見に来る見て帰る人のあふるる入生田(いり…

わが歌集からー花(2/10)

棚引ける花の白雲下蔭に黄の水仙の群立ちて咲く 崑崙花萼苞白く目立ちたれ花は小さき黄の筒状花 虫来ざる露草の花夕されば雌蕊雄蕊を抱きて萎む 花咲ける庭の杏に縄掛けてふらここ遊ぶカラコルムの子ら 来る人に匂ひかがすや山百合の身を乗り出せる石の階(き…

わが歌集からー花(1/10)

駆け込みの寺の昔は忘れよと艶競ひたる花菖蒲かな 明けくれば囁きはじむ睡蓮の青きニンフェアカレルレア 御仏は灼熱の国天竺に檳榔樹(びんらうじゆ)の風沙羅双樹の花 スカーフを古代弥生の色に染むる遺跡に咲きし紫の蓮 白蝶の群れて眠ると思ひきや暁露の庭…

わが歌集からー樹木(11/11)

転勤の折にもらひしカポックの若木(をさなぎ)いまは成木となる 引越しのたびに連れ来しカポックは居間に居場所をもらひて静か こどもらと共に育ちしカポックは夫婦のもとに残りて暮らす 四十年ともに生き来しカポックは夫婦ふたりの心うるほす 夕光の窓辺に…

わが歌集からー樹木(10/11)

咲き満てる河津桜の山腹を人つらなりて九十九折(つづらおり)ゆく 小雨ふる桜まつりの山にゐてリーマン予想に囚はれてをり 谷間をうづむるほどに咲かせたしおかめ桜の根府川の郷 青空に辛夷つのぐむ公園は肥満防止の人ら走れる 六月はブルーベリーに桃、李(す…

わが歌集からー樹木(9/11)

朝光の及ばむとする葉の蔭にゆづるはの実の黒きむらさき 倒れにし大き銀杏の切れ端を木霊やどると買ふ初詣 若宮の横に立ちたる柏槇はピサの斜塔のほども傾く 母を呼ぶ声のかぼそき北上の津波の跡にさくら咲き出づ 大いなる津波に耐へてのこりたる一本松は根…

わが歌集からー樹木(8/11)

栗駒の高原の木々若葉せり雪雲のこるみちのくの空 原生のくろまつ立てる森蔭に蝉の声きく真鶴岬 この先の幾年を生く山頂の楠の若葉が風に笑へり 風かをる若葉の梢(うれ)に美しき声にうたへるあの鳥は何 鬱深き梅の青葉の下蔭に藤村夫妻の墓ならびたり 大杉の…

わが歌集からー樹木(7/11)

ふり返りふり返り去る杉木立滝音消えて高き瀬の音 「この木何の木」問ひかけの札立ちたれど木は見当たらず 大杉の梢さしくる夏の日を背に受けのぼる国上(くがみ)の山に 立ちならぶ柳の木々は夏なればおどろおどろし汗噴きやまぬ 音たてて桜もみぢの散りにけ…