天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

洋楽器を詠むーオルガン

くさむらの廃棄オルガン鳴らしおり息ふきかえせとわが鳴らしおり 波汐國芳 オルガンのペダルは熊の舌のようふめふめふゆのあらしあまつぶ 加藤治郎 オルガンの音澄明に深く弾く石工(いしく)のごとき節くれし手が 岡部桂一郎 校庭にゆるく鳴りたるオルガンの…

洋楽器を詠むーピアノ(2/2)

蔽はれしピアノのかたち運ばれてゆけり銀杏のみどり擦りつつ 小野茂樹 ピアノ弾く爪先点れるごとく見ゆ黒きアメリカ人の左手 阿久津 英 カーテンのすこしふくらむときのまを凍ったピアノにあさの陽はさす 加藤治郎 見えてゐる世界はつねに連弾のひとりを欠い…

洋楽器を詠むーピアノ(1/2)

洋館(やうかん)の椿(つばき)をゆする疾(はや)ち風ピアノ鳴りつつ 弾(だん)音(おん)はやし 中村憲吉 部屋のうちに洋琴の弾音ちらばれば遊蝶花(パンジー)揺るるごときむらさき 筏井嘉一 ピアノの音棲みみて高まりゆくときに菜種咲く野をわれは思へり 柴生田 稔…

和楽器を詠むー三味線

永禄年間に琉球の蛇皮線が大阪の境に輸入され琵琶法師が改造したとされる。 松楓昼しづかなる庭の奥にこは清元の三味のね聞ゆ 正岡子規 雪の夜も稽古の人はやすまぬか三味線を弾く崖下の家 岡 麓 雪国のお酌は悲しほそぼそと音譜たよりに三味線をひく 内藤 …

和楽器を詠むー太鼓

太鼓は奈良時代に雅楽とともに渡来した。 この寺の時の太鼓は磯の浪おきしだいにぞ打つといふなる 足利義輝 小夜ふけて角の芝居の果太鼓かなしく水にひびき来るとき 吉井 勇 祭屋台の傍(そひ)ゆくとき不意に楽高まりあはれ日本の笛・太鼓 田谷 鋭 秋の夜のハ…

和楽器を詠むー鼓

時(とき)守(もり)の打ち鳴(な)す鼓数(よ)み見れば時にはなりぬ会はなくも怪(あや)し 万葉集・作者未詳 高尾寺あはれなりけるつとめかなやすらひ花と鼓うつなり 西行 神遊びきけばほのけし追い鳥の声の風なす鼓打つなり 馬場あき子 小鼓の胴は桜の蒔絵にてプ…

和楽器を詠むー笛(3/3)

よろめきて発動機船とほりたれやがてかぼそく汽笛ならすきこゆ 半田良平 遠い春湖に沈みしみづからに祭りの笛を吹いて逢ひにゆく 斎藤 史 美しく唇(くち)笛(ぶえ)を吹く少女とをり聖天(しょうてん)さまの甍昏れゆく 岡野弘彦 はつはつの夏よりうすき夕焼けに…

和楽器を詠むー笛(2/3)

朝あけて船より鳴れる太(ふと)笛(ぶえ)のこだまはながし竝(な)みよろふ山 斎藤茂吉 沖遠く出でにけらしな汽笛(ふえ)の綱ひけど答ふる山彦もなし 石榑千亦 ものなべて身に染(し)むゆふべわが船の笛のひびきも耳に残りぬ 吉井 勇 山かげの闇に吸はれてわが船は…

和楽器を詠むー笛(1/3)

「笛」は弦楽器の総称である「琴」に対して管楽器の総称である。 笛竹のもとのふるねは変るともおのがよよには居らずもあらなん 後撰集・よみ人しらず 笛竹の夜ふかき声ぞきこゆなる峯の松風吹きやそふらむ 千載集・藤原斉信 *この歌は、後撰集の「みじか夜…

和楽器を詠むー琵琶

琵琶の別名には、「よつの緒」「なかばの月」などがある。 流れくるほどのしづくに琵琶の音をひきあはせてもぬるる袖かな 源 俊頼 よつの緒に思ふ心を調べつつひきありけども知る人もなし 平 兼盛 道をゆづる君にひかれて四のをのねもたかき名をぞあげぬる …

和楽器を詠むー琴(2/2)

松風のひびきも添へぬひとりごとはさのみつれなき音(ね)をやつくさむ 西園寺実宗 ひと張(はり)の琴かき鳴し中人(なかうど)と無くてめとりしあはれ我妻 与謝野鉄幹 春三月柱(みつきぢ)おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪 与謝野晶子 今の我に歌のあ…

和楽器を詠むー琴(1/2)

言(こと)問(と)はぬ樹にはありともうるはしき君が手馴(たな)れの琴にしあるべし 万葉集・大伴旅人 わが背子(せこ)が琴取るなへに常人のいふ嘆(なげき)しもいや重(し)き益(ま)すも 万葉集・大伴家持 言(こと)問(と)はぬ木にはありともわが背子が手(た)馴れの…

火事を詠む

火事に死にし少年文明(ふみあき)君の記事心にかかる四五のほど日 土屋文明 ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺 塚本邦雄 燻製卵はるけき火事の香にみちて母がわれ生みたること恕(ゆる)す 塚本邦雄 じだらくにありしひと日の終末にかか…

スポーツの歌ー登山(2/2)

ザイルにて結べる友と岸壁と青く澄みたる空だけが見ゆ 馬場明徳 音のなく我をめぐれる雲海の照ると陰るとただ果てしなし 川崎勝信 太陽の耳を噛みたし頂に辿り着きなほ渇きゐたるを 本田 稜 今日登る二つの山があらわれて秋空のなか二つ波うつ 吉川宏志 朝の…

スポーツの歌ー登山(1/2)

白山の頂上に立つ午前四時出でて来る日はどの山のあたりか 松村英一 剣岳この岩の上にわれ立てり清きかなうれしきかな渡る天つ日 松村英一 三百六十度視野となし得る赤岳の頂上に立つ空のあかるし 大越一男 超えて来る誰も誰も皆憩ふらむ岩とて倚れば人間く…

スポーツの歌ーマラソン

マラソンの最後の一人うつしたるあとの玻璃戸に冬田しずまる 寺山修司 アベベ走る群を抜きてひとり走るリズムに乗りて静かに速く 窪田空穂 翳りなきもののうつくしさ抜き切りしマラソンのをとめ真向(まとも)よりくる 真鍋美恵子 折り返すマラソン走者のおほ…

スポーツの歌ー相撲(2/2)

汪(ワウ)然(ゼン)と涙くだりぬ。古社(フルヤシロ)の秋の相撲に 人を投げつる 釈 迢空 相撲とる子等を叱れと来り言ふ妻よ幾年ぶりの畳ぞ 山本友一 のけぞりて体(たい)なきものを頸玉にかじりつきをり春の相撲は 日高尭子 力の差あらわにみせてつきおとす容赦…

スポーツの歌ー相撲(1/2)

軽々と吊り出されたる若ノ花を歩みつつ見つ街のテレビに 石田比呂志 ほこりかに塩高く撒くをうつくしと見たりしあとに転るは惜し 鹿児島寿蔵 小錦が昨夜(きぞ)泊りしとふ十二畳思ひつ切りまづ大の字に寝る 太田青丘 賜杯受くる若さうるわし国技館ちかごろわ…

スポーツの歌ー水泳(2/2)

腹筋の締りはいまだ若者におとるまじわがドルフィンキック 岡野弘彦 第三のコースに呼ばれ立ちあがる紺の水着のなかの浜木綿(はまゆふ) 河野裕子 のちの世に手触れてもどりくるごとくターンせりプールの日影のあたり 大松達知 全身の力をぬけば重力にまさる…

スポーツの歌ー水泳(1/2)

潮ぐもる夕べのしろき飛込台のぼりつめ男の死を愛しめり 春日井 建 追憶のもつとも明るきひとつにてま夏弟のドルフィンキック 今野寿美 *ドルフィンキック: バタフライの泳法で両脚をそろえ足の甲で水を上下に打つ キック法。イルカの泳ぐ様子に似ているの…

スポーツの歌ーボクシング(2/2)

膝震え脳髄震えてゴング待てば恐怖というはつね鮮しき 谷岡亜紀 未来とふ今日も見えざる敵のゐてひたすらわれはシャドウボクシング 本田一弘 痩身のボクサーとして打たれおり打たれ強きという強さあり 浜田康敬 万の葉の色(いろ)葉(は)のにほふ街並にボクシ…

スポーツの歌ーボクシング(1/2)

サンド・バッグに力はすべてたたきつけ疲れたり明日のために眠らん 佐佐木幸綱 ボクサー具志堅用高も孤りなり ああ東京に出でてたたかう 本田勝彦 昨夏はボクシングのまねしてたわむれしまま抱擁をとかずにいしを 普樹隆彦 中年のボクサーなればジムを抜け走…

スポーツの歌ー野球(5/5)

甲子園で巨人が連勝したる夜のあすは負けてもいいやうな躁 楠田立身 甲子園の夢のがしたる少年が夕べを帰る家の灯明り 横山裕子 胴上げの胴に触れ得ぬ選手らのあまた手のひら宙を圧し上ぐ 上田一成 つひにわが踏むをえざりし甲子園の土をかき入れゐる敗者た…

昆虫を詠むー虫(1/9)

「むし」の語源は、「むす(生)」の連用形名詞。土中、水中から自然に生まれてくるのが、「むし」と考えた。(西垣幸夫著『語源辞典』文芸社 による。) 広く昆虫類をさすが、古典和歌や俳句では、秋に鳴くコオロギ科(コオロギ、スズムシ、マツムシ、カン…

スポーツの歌ー野球(4/5)

タッチアップなど分かっているのか神宮で原を観ている君のまばたき 黒岩剛仁 *タッチアップ: 野球の進塁方法のひとつで、バッターがフライでアウトになった 場合でも既存のランナーがフライの捕球後に一度塁へ戻ればそのあとは次の塁に 進むことができると…

スポーツの歌ー野球(3/5)

場外に消えたボールを追いかけて今じゃどこでもない街にいる 光栄尭夫 弱き阪神長く愛せるわが胸のその暗闇をわれさへ知らず 草田照子 河川敷に野球争ふ少年の白の一角すばやく動く 佐藤通雅 ゆふもやのほころびを出づる虹見えて球場の声はるけくなりぬ 坂井…

スポーツの歌ー野球(2/5)

妻よ汝(な)は近鉄ファンこのわれは広島ファン広島よ勝て 宮 柊二 樋笠打ちし代打逆転サヨナラ満塁ホーマーを酔えば語れる中年兄弟 小川太郎 サボテンに苦情を言つてゐるやうに白球を投げてゐる野茂英雄 荻原裕幸 円くまるく体ちぢめてゐたる捕手伸び上がりた…

スポーツの歌ー野球(1/5)

白球を追ふ少年がのめりこむつめたき空のはてに風鳴る 春日井 建 球は球を打ちて奔れるあやつられもてあそばるるは魂かも知れぬ 春日井 建 韮たまご肴に夜の酒甞むるまなかひにしてああ野球負けてゐる 山本友一 おもわくのしらじらとして在る午後をまちに軟…

スポーツの歌ーサッカー(2/2)

サッカーを観るときぐらい詠むことは忘れてしまえ 行け柳沢 高橋禮子 球一つ争い芝を走り来し脚と脚よじれまた離れゆく 三井 修 わが打ちしシュート、ネットに吸はるるを 老の眠りの夢に見てをり 岡野弘彦 ゴール前の百花繚乱ほしいものすべてが見えるコーナ…