腰越
紫陽花は万葉集の頃から詠われている。七変化というくらいに花の色が変化するところから、移り気の喩になることも。
湘南海岸は、昨日が海開きであった。片瀬江ノ島の海辺には海の家が林立し始めた。ただ、梅雨のさなかなので、海水浴客はまばらである。今日は風が強く、頬が痛いくらい砂が吹きつけてくる。
言問はぬ木すら紫陽花諸弟(もろと)等が練(ねり)の村戸に
あざむかえけり 大伴家持
*ことばをいわぬ木でさえ紫陽花のように変化する花もある。
諸弟(もろと)等の練達の心にあざむかれてしまった。
紫陽花の八重咲くごとく弥(や)つ代にをいませわが背子
見つつ偲はむ 橘諸兄
*紫陽花が八重に咲くように、長い年月を生きてください、
あなた。紫陽花を見ながらあなたをお慕いしましょう。
女に成り代わって詠ったもの。
大いなる石碑ふりたり青葉闇
民宿の垣根なりけり額の花
即製の壁の絵ゑがく海開き
鎌倉の海毛羽立つや青嵐
江ノ島に雨のにほひす海開き
山田流箏曲流祖検校の銅像青き奥津宮の杜
多紀理毘売命祭れる奥津宮八方睨みの亀を見上ぐる
唐門のしゃもじ二つに大書せり天壌無窮神明霊瑞
陸軍大将桂太郎の篆額の大き碑島陰に古る
「児玉神社参道」の碑に寄りて咲くアガパンサスのうす青き花
海荒るる腰越に買ふ看板のたたみいわしと釜あげしらす
腰越の海に身投げし心中の女のみ死せり海松布うち寄す
江ノ電の鉄路に向かふ店先にキビナゴ干せり腰越通り
腰越の海に毛羽立つ白波を切り裂きてくるサーフボードは