天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

源氏池の蓮

 蓮はスイレン科の多年草で、原産地はインドあたりらしい。有史以前に大陸から渡来したという。花の寿命は4日くらい。蓮華蔵世界(蓮華から出生した浄土)という言葉があるように、仏教とのかかわりが強い。
 万葉集には、一首は長歌であるが、「はちす」として四首詠まれている。さしたる歌はないが、例えば、次のようなもの。


  勝間田の池はわれ知る蓮無ししか言ふ君が鬚無き如し


      ほのぼのと舟押し出すや蓮の中    夏目漱石
      夜の蓮に婚礼の部屋を開けはなつ   山口誓子


  あくまでも蓮の紅愛づる国彼岸に寄せず愛憐に寄す
                        土屋文明
  暮方にわが歩み来しかたはらは押し合ひざまに蓮しげりたり
                        佐藤佐太郎


 鶴ヶ丘八幡宮の源氏池や平氏池には、はや蓮の花が咲いている。


      うぐひすや聖観世音笑みたまふ
      はぢらひのはちすのつぼみ源氏池
      昧爽に目覚めて白きひつじぐさ


  ぬすまれし仏像いづこ貼紙の「探しています」文字かすれたり
  古株に槐(えんじゅ)の若木生ひ出でて祈るは魔除安産長寿
  梶の葉の色紙に書けばかなふらむ乙女らが待つ七夕まつり
  中島に鷺の姿はなかりけり人に追はれていづち行きけむ
  池の面を覆ひ尽せる蓮の葉の間に咲きたり天界の花
  梅雨さむき八幡宮の舞殿の屋根にとまれる白鳩の群
  待つほどに空(あき)を知らする介護付有料老人ホーム
  うれしも