阿久 悠(続)
『愛すべき名歌たち』を読み終わった。すごいなあ、すごいなあ と、その文章のうまさに心の中でつぶやきながら。
天才でも無から有を生み出すわけでないことが、阿久の作詞の背景説明から理解できた。つまり創作の種子があったのである。2例あげておく。
「ペッパー警部」 の場合
「ペッパー警部」は突然ひらめいた。ひらめいてみると
結構その根拠のようなものが説明出来るもので、この
詞には、「ピンク・パンサー」のクルーゾー警部も、
「若いお巡りさん」も、落語の「くしゃみ講釈」も、
その頃売れていた清涼飲料水も、ザ・ビートルズの
「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」
も含まれているということである。
「みかん」 の場合
“あなたの部屋が寂しすぎたから
みかんをひとつ 置いて来ました
食べないで下さい 食べないで下さい・・・
教科書でお馴染みの芥川龍之介の短編が頭に
あったことは確かである。・・・・
歌の中で敬意を払っている。
”あなたと二人で汽車の旅
とび去る景色は春のいろ
小説みたいに このみかん
窓から投げたくなりました・・・
これも初めて知ったことだが、阿久は日記のページの片隅に毎日、ニュース短歌を書き付けていた。例えば、
恥じることせぬに男は はじらいて 少なく語ることが美わし
俳優の芦田伸介が亡くなった時の歌という。