天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

芥子

ヒマラヤの青い芥子

 ケシは地中海沿岸から小アジアにかけての地域が原産の二年草。モルヒネ(麻薬としての阿片)は、未熟の果実を傷つけて浸み出した乳汁を集めたもの。



  くれなゐの芥子の花風に揺れながらいとまあるとき
  亡き母思ほゆ           佐藤佐太郎
                        
  父の死につづき罌粟は花ひらきいまひしひしと毒のけしつぶ
                   塚本邦雄
  揺れて鳴るグラスの氷いまだ見ぬヒマラヤの罌粟さやけく思へ
                   藤井常世

藤井常世は、「天上の妖精」と呼ばれるヒマラヤの青い芥子を詠んでいて珍しい。標高数千メートルの高山の草地に生える。この花、例えば、箱根湿性花園にいけば見られる。それが、先日撮ってきた右の写真である。


  あまりにも高きところに咲くからに空色の花ヒマラヤの芥子
 

 ところで今の時期、横須賀の久里浜花の国では、なだらかな丘に向けてヒナゲシが一面に花を開いていて壮観である。漢字では雛罌粟と書く。虞美人草(ぐびじんそう)、ポピー、アマポーラ、コクリコ などの呼び名がある。欧州原産のケシ科の一、二年草。ただし、雛罌粟から阿片はとれない。


  地震あとの日かげ寂しき昼さがり虞美人草の花散りてをり
                        松田常憲
  嘆かひも日を経て淡き夕まぐれ森閑と黄のひなげしありき
                        安永蕗子
  憂きとより愁ひといはむこころかな細き雛芥子の茎束ねつつ
                       蒔田さくら子