天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

三鬼の犬の句

『西東三鬼の世界』

 西東三鬼は犬が好きだった。犬の代が変わっても名前はいつも「ラッキー」だった。
俳句にも随分詠んでいる。拾遺を含む全句集について調べてみたら、38句あった。他の俳人は、あまり犬を詠むことはないので、三鬼の場合は稀有といってよい。それだけ犬好きであり、常に「ラッキー」が身近にいたことがわかる。いくつかあげてみよう。


      風とゆく白犬寡婦をはなれざり  『旗』
      胎児老ケ無人地帯ハ犬ノ夜    『空港』
      炎天の犬捕り低く唄ひ出す    『今日』
      基地臭し炎天の犬尾をはさみ   『変身』
      死後も犬霜夜の穴に全身黒    『変身』以後
      犬となり春の裸の月に吠ゆ     拾遺


このうち、「炎天の犬捕り」の句が最も有名であろう。
 なお、随分以前に紹介したと思うが、彼の辞世句は、

      春を病み松の根っ子も見あきたり
  

三鬼邸があった堀内五六二番地は現在駐車場になっており、壁際に三鬼終焉の地としてこの句の碑が立っている。葉山町俳句協会の手になるこの碑には平成十一年四月一日建立とあるが、三鬼は昭和三十七年四月一日午後十二時五十五分に息を引き取った。