夏木立(1)
夏の鎌倉は禅寺の木立に特に魅力がある。与謝野晶子のかの有名な歌ではないが、いかにも夏木立というおもむきがあって清々しい。杉本寺、報国寺、浄妙寺とめぐって、鎌倉の夏の風情を堪能した。杉本寺は、鎌倉最古の霊場で、頼朝入府以前からあった。頼朝や実朝が参拝している。この近くに俳人・松本たかしが、大正十五年から昭和二十年まで住んだ。
蜩や杉本寺のあさゆうべ 松本たかし
報国寺、通称・竹寺については、以前に紹介したが、ここの墓地には、歌人・木下利玄、小説家・林房雄が眠っている。
鎌倉は涼しき山の息吹かな
涼しさや抹茶頂く竹の寺
寺庭の空を支配す鬼やんま
筋目たつ粗砂の庭黒揚羽
禅寺は汗ふきとばす谷戸の風
三河では油蝉鳴き鎌倉はにいにい蝉鳴く梅雨明けの時
うす暗き本堂奥に立ちませり国の宝の秘仏本尊
本堂の闇ににいにい蝉を聞く黒光りせる観音諸仏
観世音菩薩三十三化仏運慶作と伝へ尊し
らうそくの炎ますぐに燃えたちて時折ゆるる杉の息吹に
伸び上がり岩の苔食む白き鯉清き流れの太刀洗川
大方は三人(みたり)連れなる女子学生夏の木立の古寺を
めぐれる
遣り水の音のひびかふ竹林に漏るる光のすがしかりけり
幾年の夏の日に焼け古りにけむ宝篋印塔貞氏の墓
ひさかたの天つ光にかがやけり「夢」一文字のあたらしき墓
「和」の一字「夢」の一字の墓多き谷戸鎌倉の禅寺の墓地