天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

短歌と詞書とのコラボ(5)

タガメ(地球博物館にて)

 岡井隆の一連の最後は次のコラボ。

    ふみづき七月や六日も常の夜には似ず (芭蕉
  賜はりしワインをあけむ七日には世界は「意味」と
  なりて輝く


芭蕉の句は、元禄二年(一六八九)四十六歳の作。七月六日夜、直江津の宿で土地の俳人と巻いた連句の発句である。句意は、

七月も今日は六日。明日の夜は花やかな七夕だと思うと、
今宵から空の星、人の有様にも何やらふだんの夜とはどこか違った、
なまめいた趣きが感じられる。


「六日も」で言外に翌日の七夕祭をこめ、ほのぼのとした艶の余情を捉えている。発句の情緒に短歌上句の情緒とが呼応する。七月七日は七夕であり、様々な願い事を書いて竹に飾り、星空に祈る。この有様をウィトゲンシュタインの命題のごとく短歌の下句で詠んだのだ。

 短歌と詞書とのコラボは、岡井隆が発展させた現代の新しい文芸である。連句・歌仙の文芸の応用と考えると理解しやすいか? 即ち、付け合いの手法である。縁語、懸詞によって仕立てる物付、前句の意味から発想する心付、情趣の感合を旨とする匂付 など。
 前衛歌人いまだ健在といったところ。百年後も研究対象となるような作品を目指しているように見える。