天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鹿

蓑毛山中にて

 偶蹄目シカ科の総称。日本には、エゾシカ、ホンシュウジカ、ヤクシカツシマジカケラマジカ などが生息する。「鹿」は秋の季語。「鹿狩り」となれば冬の季語になる。晩秋交尾期の雌を呼ぶ雄の声は、遠くで聞くと哀れで寂しい。いにしえから和歌の題材になった。万葉集では58首に、新古今集では29首に詠まれている。


      ぴいと鳴く尻声悲し夜の鹿    芭蕉
      暗闇を鹿列なして横切りぬ    岡井省二
      旅人を遠く眺めて月の鹿     津根元潮


  大和へに君が立つ日の近づけば野に立つ鹿も響(とよ)みて
  そ鳴く                万葉集・麻田陽春       
  夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜(こよひ)は鳴かずい寝に
  けらしも               万葉集舒明天皇
  我が庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢやまと人はいふなり
                     古今集・喜撰
  嵐吹く真葛が原になく鹿はうらみてのみや妻を恋ふらむ
                     新古今集・俊恵
  我ならぬ人もあはれやまさるらむ鹿なく山の秋の夕ぐれ
                     新古今集源通親
  山びとの 言ひ行くことのかそけさよ。きその夜、鹿の 峰を
  わたりし                釈 迢空
  草に臥て石のごとくにいくつゐる鹿みな聡くその耳うごく
                      上田三四二
  飛火野のつゆけき朝(あした) 紅葉を映してしづむ鹿の
  眼の沼                 藤井常世