蛍
蛍はホタル科の甲虫だが、体が柔かく背は扁平。幼虫、成虫ともに腹部に発光器を持ち、冷たい光を放つ。源氏ホタル、平家ホタル、おばホタルなどの種類がいる。
古来、蛍を詠んだ名歌は多い。
沢水に空なる星のうつるかと見ゆるは夜半の
ほたるなりけり 藤原良経
もの思へばさはの蛍もわが身よりあくがれ出づる
玉かとぞ見る 和泉式部
なく声もきこえぬもののかなしきは忍びにもゆる
蛍なりけり 藤原高遠
葦がちる秋の入江の夕やみにひかりとぼしく飛ぶ
ほたるかな 上田秋成
夜の戸をささぬ伏屋の蚊帳の上に風吹きわたり
蛍飛ぶなり 正岡子規
其子等に捕へられむと母が魂蛍と成りて夜を
来たるらし 窪田空穂
草づたふ朝の蛍よみじかかるわれのいのちを
死なしむなゆめ 斎藤茂吉
昼ながら幽かに光る蛍一つ孟宗の藪を出でて
消えたり 北原白秋
暗道のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれは
いかなる河か 前登志夫
ふと消えし蛍の行方、囲りみなつやある闇ぞと
瞠きており 佐佐木幸綱