天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

彼岸花

東海道鉄砲宿にて

 毎年とりあげているので繰り返しになるが、ヒガンバナ科多年草で、古く中国から渡来したという。ただ、古典和歌に詠まれている例を知らない。彼岸花の別称として、曼珠沙華、狐ばな、死人花、天蓋花、幽霊花、捨子花 など多様。全草にアルカロイドを含み有毒。


  現実の暴露のいたみまさやかにここに見るものか曼珠沙華のはな
                      佐佐木信綱
  曼珠沙華茎立しろくなりにけりこの花むらも久しかりにし
                      北原白秋
  彼岸花咲きて閉じざる山峡(やまかひ)を婚礼の列、葬(はふり)に
  似て進む                斎藤 史

  曼珠沙華のするどき象(かたち)夢にみしうちくだかれて秋ゆき
  ぬべき                 坪野哲久

  あかあかとほほけて並ぶきつね花死んでしまえばそれっきりだよ
                      山崎方代
  夜を哭けば鬼は来るとぞ曼珠沙華めぐれる家に父は病めりき
                      前登志夫
  死びと花薙ぎ倒したる子ら去りてやがて一面闇がおおえる
                      高瀬隆和
  夏ゆけばいつさい棄てよ忘れよといきなり花になる漫珠沙華
                      今野寿美
  風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに逢い
  たさを越ゆ               吉川宏志


 今年夏の異常気候のせいで、彼岸花の咲き具合が悪いという新聞記事を読んだが、東海道・鉄砲宿の路傍には、例年どおり咲きだしている。また鎌倉の谷戸でもそこここに見かける。


     彼岸花ひと夜ふた夜に茎伸びて
     彼岸花あはき緑の茎立てる
     ガロアの夭折無残彼岸花
     一里塚跡のいしぶみ漫珠沙華
     湧水の底抜の井や漫珠沙華
     鳴き交はす烏の朝(あした)漫珠沙華