天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

稲荷

鎌倉佐助稲荷

 古来、稲荷と言えば、京都市伏見区稲荷山西麓にある伏見稲荷のことを指した。和銅四年(711)に山頂に鎮座したが、弘仁七年(816)に現在地へ移ったという。もともと秦氏氏神であったが、全国に稲荷社が展開するに及んで稲荷神社の総本宮になった。稲荷山は山城の国の歌枕。


  我といへば稲荷の神もつらきかな人のためとは祈らざりしを
                     拾遺集藤原長能
  稲荷山杉のもとつ葉をりかざしゆふこえ行くは都人かも
                         村田春海
  稲荷山赤き鳥居のつづきたる頂ちかき遠太鼓かも
                         吉井 勇


 稲荷信仰は、祭神の倉稲魂神(うかのみたまのかみ)への信仰で、農耕神信仰から商業神・座敷神など多岐に渡る信仰に拡大し、全国に広まった。狐を神の使いとする。有名なところでは、茨城の笠間稲荷、佐賀の祐徳稲荷、宮城の竹駒稲荷、愛知の豊川稲荷、岡山の最上稲荷などがある。鎌倉には、由緒の古い佐助稲荷があるが、規模は小さい。麓の田畑を潤す水源になったという霊狐泉がある。万治2年(1659)に出た「金兼藁」に、源十郎弥十郎事として佐助稲荷の霊験譚が載っている。


     笊に入れ小銭を洗ふ水の秋
     湧き出づる霊狐の泉谷戸の窟


  立ちならぶ朱の鳥居をくぐり来て佐助稲荷の裏山を越ゆ
  ニッケルの一円硬貨ちらばれり佐助稲荷の霊狐の泉
  霊験を信じざれども投げ入れむ財布にあまる一円硬貨
  アライグマ、タイワンリスの増えたれば自然あやふし三浦半島