猫の歌(1)
日本で猫を飼い始めたのは、奈良時代からという。平安時代には、文学でもしきりにとりあげられている。猫の品種は、約40種で、犬よりは少ない。古代エジプトでは、霊獣としてあがめられていたが、わが国でも化け猫譚があるように、魔性のものと見られていた。
しきしまのやまとにはあらぬ唐猫のきみがためにぞもとめ
出でたる 夫木抄・花山院
猫の子は鼠とるまでになりにけり何にくらせし月日なるらむ
香川景樹
猫の舌のうすらに紅(あか)き手ざはりのこの悲しさを知り
そめにけり 斎藤茂吉
よき椅子に黒き猫さへ来てなげく初夏晩春の濃きココアかな
北原白秋
生みし仔の胎盤を食ひし飼猫がけさは白毛(はくまう)となりて
そよげる 葛原妙子
胡桃ほどの脳髄をともしまひるまわが白猫に瞑想ありき
葛原妙子
盲(まう)の杖おもへるときに猫などのしづけきものに日ざし
は及ぶ 葛原妙子
枯草の庭よりのぼりきし猫はみどりのまなこ燃えてちかづく
葛原妙子
正坐のまま眠りこみし猫にも立春大吉来るがごとしも
高瀬一誌
一日に一度はみせ場をつくるまで猫一匹を飼いならしたる
高瀬一誌
風の夜を猫が大事に見せに来しもぐらは小さき影のなかに死す
永田和宏
最もよく猫を詠んだ現代歌人は、小池光である。次回、特別にとりあげたい。