天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

早春賦―熱海梅園―

熱海梅園にて

 熱海梅園では、蝋梅と白い野梅が満開であった。紅梅はまだ目立つほどではない。梅は桜と違って、満開になっても遠見には寂しい。今年から入園料をとるようになった。熱海市民でない一般の大人は、三百円。梅園の中を初川が流れているが、そこにいくつかの小さな橋がかかっている。それらの一つ々に名前がついていることを、今回初めて知った。漸佳(ざんか)、迎月、雙(そう)眉(び)、香浮(こうぶ)、駐杖(ちゅうじょう) の梅園五橋である。また句碑が六つもあることを知った。いちいち目で確かめたわけでないが、パンフレットによれば、次のようである。

     梅が香にのっと日の出る山路かな  松尾芭蕉
     夏すでに漲る汐の迅さかな     武田鶯塘
     月光は流れに砕け河鹿なく     波多野光雨
     梅園や湯あみの里の出養生     石田春雅
     三界のさとを出あるく頭巾かな   斧 三休
     梅一輪南枝一輪また一輪      詠人不知


中山晋平記念館周辺の草木には、関連する万葉集の歌が紹介されている。例えば、

  梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来たるらし
              万葉集・田氏肥人(でんしのうまひと)
  いにしへの恋ふる鳥かも弓弦葉の御井の上より鳴き渡り行く
              万葉集弓削皇子

弓削皇子の歌は、1月9日のブログで紹介したもの。
 梅園を出て来宮神社に寄り、樹齢二千年の大楠の回りを一周し、熱海市内まで坂道を下った。初川のほとりの芸妓見番は、閉まっていて人気がなかった。そこから糸川に戻って、川辺の熱海桜を見た。もう満開の時期を過ぎたようであった。毎年、多くの目白を見かけるのだが、今年は、ヒヨドリと雀であった。


     梅園に老婆が唄ふ「恋せよ乙女」
     いまに咲く馬酔木の赤きつぼみかな
     白梅や石割り榊ま直なる
     黄水仙白き野梅を見上げたり
     ひよどりが目白蹴散らす桜かな
     大楠の瘤に触れゆく御慶かな
     糸川やあたみ桜を恋ひ慕ふ


  台風に裂けて倒れし梅の木を起こせば咲きぬその白き花
  棒切に息吹きかくる真乙女は澤田政廣(せいかう)の横笛の像
  雪舟の作と伝へて真贋のいまだ分らぬ花鳥図屏風