天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

春愁(1)

江ノ島弁天橋付近

 花の時期が過ぎて若葉の季節。若者は五月病にかかりやすい。春愁という言葉もある。
江ノ島に寄せる満ち潮は、島の左右から回り込み、弁天橋の下付近でぶつかり飛沫をあげて御神渡りのような様相を見せる。
 福島原発事故の後処理の行方が気に掛る。いつもは釣り人のいる岩礁には入れないようになっている。余震による津波の用心のためである。


     春愁の島に満ち潮見てゐたり
     春愁や松の梢の生殖器
     恋猫の一途の目付きもてあます
     春愁や原発事故の後始末
     八重桜奥津宮は修理中
     余震あり津波おそるる島の春
     春愁の江ノ島に食ぶ生しらす
     洗心の手水に散れる桜かな
     腰越の路面電車や初つばめ


  朝漁りの魚買ふ人ならびたり生簀に泳ぐ甲烏賊のむれ
  のこれるは石鯛メジナするめ烏賊トレイふたつに氷漬けなる
  岸壁の柵に釣竿ならびたり左右(さう)のうしほのぶつかるが見ゆ
  鳴りたれば人も菫もおののけり龍野が岡の龍恋の鐘
  近寄れば木立の中に見えざりき遠くより見し山さくら花
  常ならば釣人立てる岩礁津波おそれて人寄りつかず
  風紋を踏みし足跡あたらしき片瀬の浜の春の潮騒
  八重桜ちる下蔭に咲き出でしこでまりの花こゆるぎ岬