天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

桃の実

近所の畑にて

 明治期に中国から天津水蜜や上海水蜜が輸入され、改良を加えて大正時代に普及した。万葉集に八か所でてくる「桃」は山桃(楊梅)らしい。桃は、古来中国では、神仙・長寿の果物とされた。また邪気を払う呪力があるとされ、日本書紀・神代の巻では、イザナギが黄泉の国から、イザナミの醜悪な死体を見て逃げ帰ってくる時、追いかけて来た雷神たちを、桃の実を投げつけて追い払った話がある。


     白桃をよよとすすれば山青き    富安風生
     白桃に対ひし胸の息づくも     石田波郷
     唇を吸ふごと白桃の蜜すする    上村占魚
     白桃といふ幸をたなごころ     長谷川櫂


  うるはしき色せる白桃わが爪の触るるがままに雫としなる
                      窪田空穂
  岡山の大いなる桃皮むけばしたたる雫よき香を立つる
                      窪田空穂
  ただひとつ惜しみて置きし白桃のゆたけきを吾は食ひ
  をはりけり               斎藤茂吉


  さにづらふ桃食へばとほし初々しかりし日本映画の
  中の桃割髪(ももわれ)          斎藤 史


  あしびきの山の泉にしづめたる白桃を守れば人遠みかも
                      前登志夫
  わが坐るは暗黒に泛く星の一つ露けき桃を食みつつおもふ
                      高野公彦
  白桃のうぶ毛に宿るしずくあり遠い記憶の窓につながる
                      俵 万智
  桃よりも梨の歯ざはり愛するを時代は桃にちかき葉ざはり
                      萩原裕幸