里山の夏
私がよく訪ねる里山は、藤沢市の新林公園、横浜市の舞岡公園、座間市の谷戸山公園の三か所。都会に住みながらありし日の田舎を偲ぶよすがとして、こうした里山を訪ねてみるのである。
里山に水の音聞く青田風
翡翠の池にせり出す合歓の花
葉の蔭に梨の実ふとる袋かな
池の辺に翡翠を待つカメラかな
里山の谷の湧水さへずれる
大山に嵐呼ぶ雲駈けきたる
朝顔や鉄路の柵を咲きのぼる
瓢箪の青きが垂るる葭簀かな
脚赤き鳩が砂浴ぶ暑さかな
風下になびきて垂るる稲穂かな
おしろいの花に跳びつく蝗かな
山道にくれなゐこぼす百日紅
翡翠が見つむる池の静寂(しじま)かな
里山のほそき流れの音を聞く姫緋扇水仙の花咲く朝に
筋肉はいまだ健在坂道に自転車を押す半裸の翁
なまぬるき風吹き寄する本堂に坂東八番星の谷観音
五種類の蛙棲むとふ里山にひときは響く牛蛙のこゑ
大いなるレンズかまへて鳥を待つ里山谷戸の朝の水の辺
里山を歩きめぐりて汗まみれバスの座席も汗に濡れたり
草の葉にしがみつきたる執着は梢に鳴ける蝉の抜け殻
小さくも赤き斑(まだら)の恐ろしき蛇の泳げる泥落とし池
山間の稲田に青きネット張り案山子立てたり小谷戸の里は
山間の池のま中の枯枝に翡翠一羽首かしげたり