十月折々(1)
二宮町の吾妻山で鍾馗(しょうき)水仙の群落に出会った。いままで全く気づかなかった。朱の彼岸花がすっかり枯れ果てた後に、黄色の彼岸花が咲きだしたと思ったら、さにあらず。鍾馗水仙というヒガンバナ科の別種の花であった。
路の辺に容姿うつろふ曼珠沙華
小粒なる柘榴口開く朝日光(あさひかげ)
酸漿を鳴らす乙女を恋ひにけり
寂滅はさくらもみぢにシミの浮く
台風の狼藉跡を悲しめり稲田の蔭に鳴くちちろ虫
古本といへど戦後の出版の歌集を売れば只に等しき
スズメバチ、マムシ出づると綱張りて立入禁止の札立てる森
効率のよき発電はなきものか波寄せ返すこゆるぎの浜
橋桁の下に積れる流木の山にまぎるるタイヤに魚網
風化して文字は読めざりつはぶきの葉群に丸き石ひとつ見ゆ
西方の風に吹かるる山頂のさくらもみぢは芝生に散れり
彼岸花と見紛ふ姿かの枯れし後に黄に咲く鍾馗水仙