稲扱(いねこ)き
思いがけず懐かしい光景を見た。横浜市戸塚区の舞岡公園をいつものように歩き廻っていたら、小谷戸の里の古民家の庭で、昭和時代に使われていた足踏み式の稲扱き機を動かしていた。右の画像のように一人が横について稲束を手渡し、別の一人が足でペダルを踏んで機械を廻しながらそこに稲束の穂先を入れて籾を掻き落すのである。
現代の機械では、稲刈りと稲扱きとが一体化している。トラクターの形態で、稲田にトラクターを乗り入れ稲を刈り取ると稲扱き機が連動して籾を吐き出す仕組みになっている。これにも驚かされる。
鵙啼いて里山道をおどろかす
芋掘りに歓声あぐる親子かな
人つどひ小谷戸の里に稲を扱ぐ
稲を扱ぐ手足の動きなつかしき
池の辺に鷺の秋思のありにけり
足腰をきたへむとわがたもとほる朝日かそけき里山の道
鵙は常木の天辺に止るなり己が領分を見渡して啼く
ルリビタキ、イカル、ヤマシギ、ベニマシコ カメラ
構へるきざはしの谷戸
稲束を抱へ来れる古民家の庭さはがしき稲扱ぎの音
古民家の裏庭に咲く鳥兜花のいのちの長きを知りぬ
秋ふかみ水音たかき川の辺はセイタカアワダチソウの群落
昆布巻のしめ鯖あればわが酒はほどよくすすむ秋の日差に
稲扱きを詠んだ歌を探してみた。次のようなものがあった。
稲搗(つ)けばかかる吾が手を今夜(こよひ)もか殿
の若子(わくご)が取りて嘆かむ
万葉集・東歌・作者未詳
音たつる時雨もしらで稲こきの夜声にぎはふ冬の
山里 上田秋成
余呉川と磯野山とのあひにある小山田は稲を扱き
捨てしまま 小西久二郎