天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湯立神楽

白旗神社の配布資料より

 以前から気になっていた湯立神楽を初めて見る機会を得た。湯立神楽は各地にあるようだが、今回は白旗神社のものである。これは藤沢市の指定重要民俗文化財になっている。参加する宮司は、藤沢市内の神社からだけでなく、葉山市の森戸神社からも参加されていた。
 配布された解説パンフレットによると十二座からなる。打囃子(うちはやし)、初能(はのう)、御祓、御幣招(ごへいまねき)、湯上(ゆあげ)、中入、掻湯、大散供(だいさんく)、湯座(ゆぐら)、射祓(いはらい)、剣舞(けんまい)、毛止幾(もどき) である。
 古くは、平安時代から京都石清水八幡宮に伝わったものという。白旗神社湯立神楽は、この古式にのっとっており、格調が高いらしい。


  宮司らが笛・締太鼓・大胴をうちはやしつつ
  音合せせり


  洗米を扇にのせて鈴鳴らし四方に米撒く
  初能(はのう)といふは


  斎場と道具を神酒に御祓す神の降臨を待つ
  舞として


  うぶすなの神に火の神水の神御幣招の
  舞に招くも


  火の神と水の神との結びつき熱湯なるを
  桶に湯上(ゆあげ)す


  神前に供へられたる神酒赤飯人に分かつを
  中入(なかいり)といふ


  釜の湯を御幣の串で掻き回し湯華を見ては
  年をうらなふ


  招かざる八百万神に米ささげ四方を鎮むる
  大散供(だいさんく)の舞


  釜の湯に笹を浸してまきちらす湯座(ゆぐら)の舞は
  禍(わざはひ)祓ふ


  悪霊を追ひ払はむと矢を放つ射祓の矢は
  開運招福


  剣を持ち二本の指に九字を切る天狗は赤き
  面にて舞へり


  腰病みし宮司は黒き面かぶり餅を撒きたり
  毛止幾(もどき)の舞に


  年とりし宮司の舞のゆかしさに尻の痛みを
  しばし忘るる


  様式はかくのごときか鈴幣をふれば寄り来る
  天地(あめつち)の神


  笹の葉を湯釜に浸しうち振れば飛沫を受けて
  無病息災


  四方に撃つ矢にも功徳はあるといふわれに飛び来し
  矢を持ち帰る


  実朝も詠みし湯立の神事(かむこと)の里巫女がもつ
  笹のそよそよ


最後の詠草は、次の源実朝の歌を踏まえている。
  里巫女がみ湯立笹のそよそよになびき起伏しよしや世中
                 金槐集・源実朝

鎌倉長谷の御霊神社では、この歌の内容そのものの光景を現在でも見ることができる。