天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

晩秋の大山

大山山頂にて

 何年ぶりになるか、久しぶりに伊勢原の大山に登ってきた。小田急線・藤沢駅から伊勢原駅へ。そこからバスで終点の大山ケーブル下へ。ケーブルカーに乗って阿夫利神社駅へ。後は登山ルートを歩く。以前は、ケーブルカーを利用しないで、山頂までを往復したことがあったのだが、運動不足の近年の体力では、とても無理。それで今回辿ったルートは、大山阿夫利神社下社から左手の道を行き、ヤビツ峠側の稜線をとった。海抜1252メートルの山頂からは不動尻分岐点、見晴台、二重滝、そして出発点の下社へ戻った。このルートに要した時間は、三時間ほどであった。空は晴れ渡っていたのだが、丹沢山塊からは盛んに雲というか霞が立ち上っていて、富士山は見えなかった。
 小田急の「丹沢・大山フリーパス」(13010円)が安上がりで便利。手軽な場所にあることもあって、高齢の登山者が目立つ。しかしこの日も山頂に救助用ヘリコプターが飛来していたように、決して楽な登山ではないので、事前の体力鍛錬が必須である。


     秋風の鳥居をくぐる御中道
     大山は鹿啼くこゑの奥の院
     大山の八大龍王滝しぶき
     石段はもみぢの炎(ほむら)童子
     本堂に燃えて迫れる紅葉かな


  看板の黄の地に書ける黒き熊出没注意の文字も怖ろし
  山頂へ瓦礫踏みしめかごや道うねうね登る秋ふかみかも
  大山の森をくらめて幾百年太き樅の木しんしんと立つ
  樅の木の太きがあまた倒れたり採る人もなく枯れて朽ちたる
  みごとなる樅の大樹のあれこれを見上げて登る大山の道
  蚊や蠅のつきまとひくる山道に水飲み休むわれならなくに
  雨降らば激つ瀬となる山道の岩をつかみてわが登りゆく
  秋の蚊の羽音厭はし若からぬこれのわが身の血を欲りてくる
  丸太組む段差高きにあぎとひて道なかばなる坂を見上ぐる
  たひらなる道を歩きて鍛へしが大山登山に適はざりけり
  富士見台二十丁目にわが到り富士を望めど霞が隠す
  身を庇ひ水飲み継ぎて到達す大山阿夫利神社奥の院
  山頂は千二百五十二メートル鹿啼くこゑをかなしむなゆめ
  息継ぐは苦しからざり下山道膝の痛みの耐えがたかりき
  金網に若き植樹を囲みたり鹿の被害のすごき大山
  海抜の高きにあれば携帯電話(ケータイ)の通話かなはぬ大山登山
  山頂の宙にうかべるヘリコプター ロープ垂らして怪我人を吊る
  道沿ひに太き鎖を張りてあり滑落事故の起きし斜面は
  稜線に没日かがよふ大山の樅はひときは暗みけるかも
  つるべ式ケーブルに吊り上下する赤き車輌と緑の車輌
  あかあかと紅葉燃え立つ石段の奥にくろがね不動明王
  石段の左右に黒々並び立つ童子の像にもみぢ映えたり
  下山して家に帰らむ窓外の夕陽まぶしむ小田急電車
  汗くさきわが身なるらむ乗客の視線気にして座席をさがす
  横にゐてペットボトルのお茶をのむ老婆の顔にも夕陽差したり
  腕組みて眠る乙女のスカートの足を見てゐた小田急電車
  まなかひに秋の没日の燃ゆる火をまじまじ見たりわがサングラス
  夕食の時間を過ぎてわが帰る家居の妻はしごく不機嫌