天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

柿の実

鎌倉の路傍にて

 柿はカキノキ科の落葉高木またその果実。わが国では、栗と同様に有史以前から栽培されていたらしい。今では多くの品種がある。万葉集に詠まれていないのは解せないが、「平城京木簡」や『出雲国風土記』などに出て来るので、万葉人には身近な果実であった。


     柿の秋屋根にのぼつて降りて来ず  長谷川櫂
     京にゐて京を見おろす柿の秋    長谷川櫂
     実あまたつけたる柿を御神木    大谷弘至


  秋はきぬ今やまがきのきりぎりすよなよななかむ風の
  さむさに          古今集・よみ人しらず


  縁さきに干したる柿に日短し郵便配り食べて行きけり
                    島木赤彦
  やまでら の ほふし が むすめ ひとり ゐて
  かき うる には も いろづき に けり         
                    会津八一
  捨てし種芽生えし柿に接木して柿のなるまで住みつき
  にけり               土屋文明


  六年はすぎゆきにしと今日は来て母の墓石に置く柿
  ふたつ               五味保義


  柿のつめたき 柿のおもたき なべては柿の朱のため
  ならむ               葛原妙子


  祭りのやうに柿は捥がれてころがりて街まで
  行つてもいいと答へる       馬場あき子


  木守柿残れる枝を高くさし雪来るといふ覚悟口にす
                    大滝貞一


     朝光に朱きはまれり木守柿