天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

浮寝鳥

横浜三渓園にて

 「うきねどり」は冬の季語「水鳥」の傍題になっている。水に浮いて眠っている冬の水鳥を指す。


     岩あればしたがひ巡り浮寝鳥   原コウ子


「浮寝」(「浮宿」とも表記)は万葉集の頃から詠まれた。「波枕」という歌ことばも生れた。


  敷栲の枕ゆくくる涙にそ浮宿をしける恋の繁きに
                 万葉集駿河婇女
  浪高しいかに梶取水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき
                 万葉集・作者未詳
  吾妹子に恋ふれにかあらむ沖に住む鴨の浮き寝の安けくもなき
                 万葉集・作者未詳
  波の上に浮寝せし夜何ど思へど心悲しく夢に見えつる
                 万葉集・作者未詳
  海原に浮き寝せむ夜は沖つ風いたくな吹きそ妹もあらなくに
                 万葉集・作者未詳
  涙川枕ながるるうき寝には夢もさだかに見えずぞありける
                 古今集・読人不知
  水鳥の鴨のうきねのうきながら浪の枕に幾夜へぬらむ
                 新古今集・河内
  波枕いかに浮き寝を定むらん凍るますだの池の鴛鴦鳥
                 金葉集・前斎宮内侍
  くちばしを羽根にをさむと哀楽のなき水禽(みづどり)の
  瞳(め)は瞑りたり           上田三四二


  水鳥の浮寝を見むと板塀の穴よりのぞく谷戸の溜池