天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

紅葉狩(10)

藤沢市新林公園にて

 「紅葉狩」連載の終りに、紅葉について二三補足しておこう。
「もみじ」に当てる漢字には、黄葉と紅葉があるが、万葉時代にはもっぱら黄葉が使われた。紅葉を当てるようになるのは、平安時代以降である。
 文部省唱歌の「紅葉」は、みんなが歌ったり聞いたりしたはずである。作詩=高野辰之、作曲=岡野貞一。明治44年6月に発表された。


     秋の夕日に照る山紅葉
     濃いも薄いも数ある中に
     松をいろどる楓や蔦は
     山のふもとの裾模様


     渓の流に散り浮く紅葉
     波にゆられて離れて寄って
     赤や黄色の色さまざまに
     水の上にも織る錦


国文学者であった高野はこの詩を、群馬県碓氷峠の紅葉を見て発想したという。作詩に当たっては次のような古典和歌も参考にしたであろう。


  経(たて)もなく緯(ぬき)も定めずをとめらが織れる黄葉に
  霜な降りそね          万葉集大津皇子


  たつたがは紅葉みだれて流るめりわたらば錦なかやたえなむ
                 古今集・読人しらず
  山河に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
                  古今集春道列樹
  朝まだき嵐の山の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき
                  拾遺集藤原公任
  うちむれて散る紅葉葉を尋ぬれば山路よりこそ秋はゆきけれ
                 新古今集藤原公任