霧
日本の文学では、霧は秋のものとされた。春に出るのは霞と呼ばれた。物理現象としては同じなのだが。霧の合成語も多い。秋霧、朝霧、夕霧、濃霧、夜霧、山霧、川霧、狭霧、霧雨、霧笛 等。
白樺を幽かに霧のゆく音か 水原秋桜子
濃淡の霧にしづみぬ羽黒杉 山上樹実雄
川霧の深きに佐久の鯉料理 大久保幸子
霧の中森羅万象あるらしく 長谷川櫂
霧をよく詠んだ歌人に長塚 節がいる。中でも「白埴の瓶こそ・・・」は知られている。
ゆゆしくも見ゆる霧かも倒に相馬が嶽ゆ揺り
おろし来ぬ 長塚 節
はろばろに匂へる秋の草原を浪の偃(は)ふごと
霧せまり来も 長塚 節
うべしこそ海とも海と湛へ来る天つ霧には今日
逢ひにけり 長塚 節
相馬嶺は己吐きしかば天つ霧おり居へだたり
ふたたびも見ず 長塚 節
白埴(しらはに)の瓶こそよけれ霧ながら朝は
つめたき水くみにけり 長塚 節
たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは
思ひき 近藤芳美
草の香をもちて夜霧の流るるに息づきをりき
兵なりしかば 玉城 徹
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの
祖国はありや 寺山修司
徳利の向こうは夜霧、大いなる闇よしとして秋の
酒酌む 佐佐木幸綱
なお、近藤芳美と寺山修司の霧の歌も有名。