桃
中国原産というバラ科の落葉果樹。日本にも古くからあったが、現在の栽培種は明治になって中国から輸入された水蜜桃をもとに改良されたもの。
「古事記」に桃が出てくる。いざなぎの命が黄泉国から逃げ帰るとき、死んだ妻のいざなみの命がさしむけた黄泉醜女といに追いつめられたが、そこに大きな桃の木があり沢山桃がなっていたので、それをちぎってつぎつぎと投げつけたら、黄泉醜女は力を失い退散した。このように桃には邪悪を退ける呪力があるとされた。若い女性の形容にもされた。毛桃とも言った。万葉集には桃の実を詠んだ歌が四首ある。以下にあげておく。
向つ峰に立てる桃の木ならめやと人ぞささやく汝が心ゆめ
万葉集・作者不詳
はしきやし我家の毛桃本茂く花のみ咲きてならずあらめやも
万葉集・作者不詳
我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ
万葉集・作者不詳
大和の室生の毛桃本繁く言ひてしものをならずはやまじ
万葉集・作者不詳
桃二つ寄りて泉に打たるるをかすかに夜の闇に見ている
高安国世
大きなる桃の実を手に笑ひをりまるごとひとついただくつもり
久我山鶴子
桃むく手美しければこの人も或はわれを裏切りゆかん
真鍋美恵子
ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを吾は
食ひをはりけり 斎藤茂吉
白桃の二つほど水に沈みゐし銀河の夜の父母と子のわれ
馬場あき子
白桃については、茂吉の歌がよく知られている。