天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

百合(続)

鎌倉・成就院にて

 7月29日のブログで書いたが、続きとして短歌を追加しておく。万葉集には十一首も詠まれている。多くは山百合という。先に一首紹介したが、ここでは三首あげる。他に現代短歌も。


  吾妹子(わぎもこ)が家の垣内(かきつ)の小百合花後(ゆり)とし
  言はば不欲(いな)とふに似む    万葉集・紀豊河


  路の辺の草深百合の後(ゆり)にとふ妹が命をわれ知らめやも
                  万葉集・柿本人麿
  あぶら火の光に見ゆるわが蘰(かづら)さ百合の花の笑(ゑ)ま
  はしきかも           万葉集大伴家持


  ざれ歌を男かなしくうたふゆゑ百合炎天に咲き眩み居り
                     岡本かの子
  百合の花のあかきゆふぐれ床下の蟇(ひき)しのびいづ
  このなからひよ             坪野哲久


  白百合の埋めて痩身の君の遺影別れの讃美歌のうたい
  次がれて                近藤芳美


  錐・蠍・旱・雁・掏模・檻・囮・森・橇・二人・鎖・
  百合・塵                塚本邦雄


  ああひとり薬ふくむもよるべなし百合騒乱のかをりに沈む
                     小中英之
  真白なる山百合咲ける草叢のむせる匂ひも恋しむわれは
                     永石季世
  帰り来ればわがもの顔に匂ふ百合ひとの影うすき家となりたり
                     生田澄江


 ちなみに物故した俳人山口誓子に百合の句は一句のみ。飯田龍太には全く無い。以下には長谷川櫂の作品を三句あげておく。


     ひろびろとつづく板の間山の百合
     ひと桶の鉄砲百合はみな莟
     添へ木ごと山百合の花揺れてをり