天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

葡萄

わが食卓より

 紀元前十五世紀頃のエジプトの壁画に、収穫と葡萄酒製造の様子が描かれている。わが国では野生の葡萄が自生し、「葡萄葛(えびかずら)」と呼ばれていた。甲斐の国を中心に品種改良が進み、十二世紀には甲州葡萄が誕生したという。現在は様々な品種が店頭を賑している。個人的な好みで言えば、種なしの大粒なものがよい。マスカットも好きである。


     枯れなんとせしをぶだうの盛りかな  蕪村
     国境の丘また丘や葡萄熟れ    小路智壽子
     亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄     川端茅舎


  葡萄は皿にその深き海の酒のいろ記号の論理ここに静かなり
                    山中智恵子
  一房の青き葡萄に色身(しきしん)のあかるむ秋と歩みを返す
                    山中智恵子
  種子あらぬ信濃の葡萄皮うすく味よき葡萄老の口たのし
                     窪田空穂
  ぶだう呑む口ひらくときこの家の過去世(くわこせ)の人ら
  我を見つむる             高野公彦


  くぐもりて蒼き葡萄のつぶら実はつよくふふみてつづけ
  さまに食ふ             川島喜代詩