天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

島崎藤村展

神奈川近代文学館にて

 神奈川近代文学館において、10月6日から11月18日まで、「生誕140年記念・島崎藤村展」が開催されている。さっそく出かけて見た。以前に藤村の跡を訪ねて、小諸、千曲川木曽路(馬籠、妻籠)、伊良湖岬 などを巡ったことがあるので、今回の展示には興味があった。なお、終焉の地となった大磯の旧居や墓所の地福寺には、散策がてら度々訪れている。
 展示の資料が多彩で充実しているので、丹念に見ていくと時間がかかる。渡欧してフランスに3年間を過ごしたことに驚いたが、その間の成果がはっきりしない。これは夏目漱石がイギリスに官費留学した時の情況に似ているようだ。藤村の場合は私費渡航であったようだが。


  霧笛橋渡りて近代文学館藤村展を見むとわが来し
  藤村の長女・緑は死の床にこちら見つめて仰向けに寝る
  藤村の頭の臭ひ残しゐむふたつ展示のカンカン帽は
  三越で渡欧の前に誂へし小型トランクまだ使へさう
  小説の素材となりし聞き書きや書き写しなど筆こまめなる
  口少し開きて顎鬚まばらなり次男が描きし絵のデスマスク
  大磯をつひの住処と定めたり藤村夫妻のねむる地福寺
  藤村の墓所を移さむ争ひもありしと聞きぬ大磯、馬籠
  前妻と子らのねむれる古里の馬籠の墓は遺髪と爪と
  藤村の死後三十年大磯の旧居守りし後妻の静子
  文学館を出づれば丘のまなかひにベイブリッジの白のまぶしき
  木曽路はすべて山の中」とふ書き出しの懐かしければ買ふ
  『夜明け前』


  きれぎれに記憶にのこる言の葉をつなげむと読む藤村詩集
  五七調はた七五調読むほどに心地よくなる藤村の詩(うた)