秋雑詠(6)
鎌倉湖、横浜市東俣野の田園、真鶴岬などを歩いた。背高泡立草の花が目立ち始めた。また柿の実があちらこちらでたわわに実っている。草叢に分け入ると牛漆がズボンや上着にくっついてきて取り払うのにひと苦労する。
団栗の馬の背小径カクレミノ
園児らのこゑを間近に笹子鳴く
鵙啼くや鎌倉街道西の道
ジャンパーの袖に執着ゐのこづち
凄まじき音たてて吹く落葉かな
バスを待ち石に坐れば秋深し
赤錆の鉄路に沿へる芒かな
「邪魔中(じやまなか)」と呼ばれし外科医時代あり山中伸弥
の思ひ出として
落葉する木立に透ける湖は朝の空行く雲を映せり
黄の花のけむれるごとき草叢はセイタカアワダチソウが
背伸びす
穂芒のむらがる土手に競ひ立つセイタカアワダチソウの
黄の花
色付きし木立にかかる蜘蛛の囲の主は太る秋風の中
断崖に水沁み出でて木洩れ陽にイワタバコ生ふ
せせらぎ小径
秋風にさざ波立てる湖の水面色どる鯉のいく匹
白内障の手術薦むる医者のこと老は話せりうしろ座席に
日本に祖国の森をしのびしとウイトリッヒの森に啼く鳥
穂芒を駆逐するには至らざり土手の背高泡立草は
大いなる声はりあぐる鴨のゐて川のほとりに驚くわれは
それぞれが撮りし写真を見せ合ひて溜池の辺に翡翠を待つ
楠松の大木あまた残したり小鳥さへづる魚付の森
大木の樟の根方を削りとり石垣つくるあやふからずや
寄る波のしぶきが洗ふ三つ石の右手に黒き初島の影